社会を経験したから学べる 社会人大学院のゼミで身につく能力

広報のプロフェッショナルを養成する社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科。社会人だからこそ、身につけた力を実務で活かす。コミュニケーションデザイン研究科の教育実践を紹介する。

社会人大学院と「研究」

広報・コミュニケーション戦略を専門とする国内唯一の専門職大学院「社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科」の社会人院生は、日々「コミュニケーションの本質」を捉えるための学びに取り組んでいる。専門職大学院は通常の大学院と異なり、いわゆる「修士論文」を必ず書かなくてはならないわけではないが、本研究科では扱う領域や養成する人材の特性に鑑みて、それに該当する「研究成果報告書」の作成を求めている。

併せて、学生が「コミュニケーションデザイン分野の実務上ないし理論上の課題を自ら発見し、論理的かつ実効的な解決方法を提言するための理論と方法を学修するための科目」のひとつとして「コミュニケーションデザイン演習」を設置し、そのなかで「研究成果報告書」の完成に向けた指導を行っている。今回は、社会人学生がこうした学修に取り組むことでどのような効果があるか解説していく。

社会人大学院の「ゼミ」

「コミュニケーションデザイン演習」は、通常の大学・大学院でいうゼミにあたる授業で、担当教員の専門性に応じて毎年10程度の授業が開講されます。2023年度には、広報学・社会学・サステナビリティ・シティプロモーション・マーケティング・リスクマネジメント・グローバル広報・メディア研究といったテーマのゼミが開講されている。本研究科には多様な属性の学生が所属しており、その関心も様々ではあるものの、それらを十分にカバーできる教育指導体制が整っている。

それぞれのゼミは1年生と2年生が混在する形で運営されており、多様な業種・業界の社会人が学び合うコミュニティとしての役割を担っている。1年生は通年でひとつのゼミに所属し、自身の関心を絞り込みながらリサーチ・クエスチョンを練り上げ、最終的に「研究計画書」を完成させていく。そして2年生では通年で2つのゼミに所属することで、異なる教員から異なる視点で継続的にアドバイスを受けつつ、業務改善やキャリア形成に役立つ「研究成果報告書」を執筆していく。社会人学生の場合、研究から長く離れておられる方も多くいらっしゃるが、そうした場合でも質の高い成果物を作成できるよう、各教員が2年間にわたって伴走している。

実際の授業は2週間にいちど、2コマ(180分)にわたって行われている。毎回のゼミは学生からの報告に基づいて進行し、研究を進めるうえで困っていることや他者の意見を聞いてみたいテーマについて参加者全員で議論する形式がとられる。本研究科には最先端で活躍する実務家教員や最新の知見を有する研究者教員が在籍しているので、思いもよらない指摘や刺激を受けることもあるでしょう。各学生が選択する研究テーマは、たとえば官民問わず具体的な組織・業界の広報・コミュニケーション戦略について探究するもの、広報・コミュニケーション担当者のもつべき素養やその具体的な育成方法について検討するもの、不確実性の高い社会において組織のレジリエンスを高めるためのコミュニケーションデザインについて論じるものなど、きわめて多岐にわたる。実際に執筆された「研究成果報告書」のタイトルは本学ホームページに公開されていますので、ご関心があればぜひご覧いただきたい。

「ゼミ」を通じて身につく能力

各学生は「研究成果報告書」の執筆を通じて、論理的思考力、説得的な論述力、他者に対する質問力のほか、業務のなかで抱く疑問を構造化し、それを解決するための具体策を提言するための能力を高めていく。課題を構造化するには「先行研究や先行事例で明らかになっていないことはなにか」を整理する必要があり、具体的な方策を検討するには社会調査のスキルが求められることもある。ゼミや他の授業を通じて、論文の読み方やデータの収集・分析方法のようなアカデミックスキルズを改めて学び直すことができるのは大学院ならではだ。さらに、得られた知見をどのように実務で活用できるか、すなわち「理論と実践の融合」をどのように実現するか徹底的に考える機会は、本学のような専門職大学院に特有の学びといえる。このような研究に関する一連のプロセスを通じて身につけられる能力は、もちろん実務の質向上にも貢献しうるものといえる。

「2年間の大学院」というとやや長いようにも感じられ、短期間のセミナーや自習で知識を補おうとする向きもあるかもしれない。しかしながら、これまでに述べてきた能力を身につけるためには、本学としてはやはり「最低でも2年はかかる」と考えている。

また、ゼミは自身の研究テーマを探究するだけでなく、他者の研究から様々なことを学ぶ場でもある。筆者自身も5年ほど本授業を担当しているが、こうした学び合いが化学反応を起こし、学生一人ひとりのなかに大きなエネルギーと知識を生み出す様子をこれまでに何度も見てきた。本研究科では修了後にも現役学生の研究発表会に参加することができ、修了生が出身ゼミの後輩からの相談に乗る様子も日常的にみられる。社会人大学院生活というのは2年間で終わるわけではなく、そこから生涯にわたって学び続けるための第一歩に過ぎないとも考えられる。ゼミはそのための基盤を構築するひとつの手段として位置づけることができる。

院生約3人に対して、教員1名。手厚い研究指導体制が特徴。写真左から2人目が筆者。

本学では11月12日(日)に社会人向けオープンキャンパスを実施し、「学生・修了生と一緒に考える『経営機能』としての広報のあり方」と題した体験授業を開催する。このなかでも、本研究科での学びを通じて得られた知見やスキルについて言及される予定だ。参加費は無料でオンラインでの同時配信も行う予定なので、ぜひ参加いただきたい。詳細は本学ホームページをご覧ください。

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会構想大学院大学 専攻長・准教授

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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