利用者に寄り添う行政オンラインサービスとは 米国での経験

全米50州の行政サービスDXを推進し、米国市民の生活利便性向上に貢献したアドビ。誰1人取り残さないデジタル社会に向けて行政オンラインサービスの実現支援を行っている。国内の公的機関のデジタル手続きに求められる要素について、3名の登壇者から発表した。

「Adobe Acrobat/Reader」などデジタルドキュメント分野を牽引するアドビ。行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)が喫緊の課題となっている今、テクノロジーを採用するだけでなく、新しい価値を提供するマインドセットが必要であると、アドビ DXマーケティング本部長の祖谷考克氏は語る。

祖谷 考克 アドビ
DXマーケティング&セールスデベロップメント
本部 執行役員 本部長

米国の行政サイト利用者の声
使いやすさは好感度に直結

アドビでは2020年に米国在住のオンライン行政サービス利用経験者を対象としてアンケートを行い、質の高いオンライン体験をした人は、政府や自治体に対してより好意的になるというデータを集めた。同時に、政府機関のオンライン手続きがわかりにくいという意見も約半数あった。この傾向は日本にも当てはまるのではないかという。

「使いやすい行政オンラインサービスのポイントは4つに絞られます。1つ目は対応のスピード、2つ目はだれにとってもわかりやすいデザイン、3つ目は市民1人1人のニーズの分析や状況に合わせた対応ができること、4つ目は安心して使えるセキュリティです」と祖谷氏は語る。

米ではオンライン納税が実現
住民の入力は一度だけ

続いて自治体における申請や手続きのデジタル化事例について、同社のDX GTM・ソリューションコンサルティング本部 ビジネスデベロップメントマネジャー 昇塚淑子氏が紹介した。現在、日本の行政でもオンラインの手続きは始まっているが、まだまだ市役所の手続きというと、平日に時間をかけて申請書や届出を窓口に提出することが主流となっている。コロナ禍によって自治体の手続きのオンライン対応をいかに進めるか、米国の2つの事例が参考になるという。

昇塚 淑子 同DX GTM・ソリューションコンサルティング本部
ビジネスデベロップメントマネジャー

1つ目はサンフランシスコ市・サンフランシスコ郡のオンライン納税サービスだ。当初、オンラインでの納税には四つの異なるポータルにアクセスする必要のある「使い勝手の悪い」ものだったという。オンライン手続きの使いづらさが原因となりクレーム対応のための職員の作業負荷が増大、税金の支払期日に間に合わず延滞税が発生したり、クレーム対応のための職員の作業負荷が増大することもあった。

そこで、アドビではこの4つのポータルをアドビのコンテンツ管理基盤上に統合し、住民がWeb上で必要情報を1回入力するだけの処理に変えた。さらにポータルは関連する税務処理システムと連携し、納税に必要となる税務計算や明細書の生成までを自動化。結果としてオンライン納税サービスの利用率を10%向上、職員の書類作成や窓口業務を50%削減することに成功した。この事例から、利用者の立場に立って業務全体の自動化をデザインすることが申請フォームを設計し、業務全体の自動化をデザインすることが重要だと昇塚氏は語る。

2つ目の事例はオクラホマ州の行政サービスデジタル化だ。オクラホマ州はWebサイトの設計を外部ベンダーまかせにした結果、ユーザーエクスペリエンスが悪いだけでなく、住民サービスが複数に分散するWebサイトになってしまった。これは、コロナ禍におけるオンライン行政サービスのニーズを満たしていなかった。

そこでアドビはこちらでもWebサービスを統合し、25の州政府管轄サイトと3万ページ以上のコンテンツを1カ所に集約した。さらに市民の1人1人にパーソナライズされたダッシュボード画面を構築することで、膨大なコンテンツでも容易に必要な情報にアクセスできるWebサイトにした。ビジネスでの助成金の申請から、遊漁登録の申込みまで全てが整合性のある統一されたエクスペリエンスで、1カ所でできるようになったという。アドビはこの大改善プロジェクトを製品やテクノロジーの提供に加えて、改善のためのコンサルティングやプロジェクト管理も含めサポートした。

「どちらの州もまずはコンテンツ管理の基盤を導入し、その上に州の顔となるウェブサイトを構築、そして申し込みや登録のサービスを統合してユーザーエクスペリエンスを高めています。こうした基盤の存在は、平常時はもちろん、緊急時の迅速なサービスが提供できる点で大きく貢献しています。オクラホマ州では災害時、住民への食料支援のサービスを24時間で開発した実績があり、迅速な住民サービスの提供に基盤の存在が重要だとわかります」と語る。

Uber EatsやNetflicksが
行政サイトのUXのライバル

続いて理想的な市民体験を実現するためのアプローチについて、同社 DX GTM・ソリューションコンサルティング本部長 プラブネ マニッシュ氏が語った。押さえておきたいトレンドは、セルフサービス体験と、フルデジタルの2つだ。

プラブネ マニッシュ 同DX GTM・ソリューションコンサルティング本部
GTM・市場開発部 部長

現代はパソコンやスマートフォンなど、自らが個人の端末であらゆる情報にアクセスすることが当たり前となった。そこに対応してスマートフォン上で申し込みやサービス提供が完結するようになり、観光宿泊であればAirBnB、食事であればUber Eats、動画視聴であればNetflixなど、かつてない付加価値を提供する便利なサービスが現れている。

こうしたオンラインサービスへの期待値が上がっている中で、行政のサービスについても、いかに利用者1人1人の人となりを理解し、オンライン上でも寄り添ったコミュニケーションができるかを考えるのが出発点だという。

実際にアドビではコロナ禍において、米国内で住民向けの新型コロナウィルス感染症のセルフ診断と施設予約の構築をサポートしてきた。もともとセルフ診断のソリューションの構築のみが依頼内容だったが、診断後、病院などの施設への予約ができることや、予約で必要な自治体の基幹系のシステムとの連携、実績データの分析が可能なダッシュボード画面なども組み込んで、3週間でテキサス州にテスト導入をした。

このテスト導入では、17万人の市民のセルフ診断と3万人の施設予約をサポートし、全米展開のシステムも3か月で完成。現在はワクチン接種プログラムなどの追加の機能実装にも取り組んでいる。

「特別なことをするのではなく、ユーザーである住民のカスタマージャーニーを理解することが基本であり最も重要なことです。その上で、住民に使いやすい画面にしたり、分析可能な機能をつけたり、追加で機能拡張ができるようにしておく。セキュリティに関しても担保できるような構築実績があります。こうしたコンテンツとデータの両方の基盤づくりからお手伝いできるのがアドビになります。ぜひ行政の皆さまからのニーズがございましたらお気軽にお問い合わせをください」とマニッシュ氏は締めくくった。

 

お問い合わせ先


アドビ株式会社
デジタルメディア事業統括本部
TEL:0120-93-3635
MAIL:Grp-Adobe-GovInfoDesk@adobe.com
URL:https://www.adobe.com/jp/howtobuy/buying-programs/government/contact.html

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。