脱炭素を通じ、事業モデルを変革する 地域に貢献する視点が重要

環境領域の研究・政策提言を行う地球環境戦略研究機関(IGES)のメンバーとともに、脱炭素時代の事業環境を考える本連載。IGESの研究員6名による座談会の後編では、情報開示に関する世界の動向や、地域の脱炭素の目線からの新たなビジネスの可能性について議論する。

髙橋 健太郎、栗山 昭久、渡部 厚志、粟生木 千佳、山ノ下 麻木乃、髙橋 康夫(いずれも地球環境戦略研究機関〔IGES〕)

GHG排出に関する情報開示への
プレッシャーが増大

ーー 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の生物多様性版「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」も動き出していますが、情報開示の国際動向はどうですか。

髙橋(健) 気候変動では企業の温室効果ガス(GHG)排出量に関する情報開示への、金融機関からのプレッシャーが特に大きくなっています。また、従来は自社のビジネスから出る直接の排出量(スコープ1)と、他社から供給された電気・熱・蒸気などの使用に伴う間接排出量(スコープ2)だけを公開する企業が多かったのですが、大企業は最近、従業員の移動に伴う排出量や自社製品の消費者による排出量(スコープ3)の把握にも取り組み始めています。

一部の企業はグループ会社も含めたシステム全体の排出量(スコープ1~3)を自動で把握できるようなシステムを作り始めています。また、「国際財務報告基準(IFRS)」の団体が、非財務情報開示の統一基準を作ろうとしています。

髙橋(康) TNFDは、最初のドラフトが3月15日に公開されました。今後、金融機関や事業会社などによる試験実施とフィードバック、協議などを経て具体化され、最初の確定版が2023年9月に発表される予定です。TNFDは、生物多様性条約で検討中のポスト2020年目標を見据え、急速に自然が失われつつある現状を「ネイチャーポジティブ」に反転させるための資金フロー創出を使命にしており、特にサプライチェーンにおける企業活動の生物多様性への依存と影響についての空間明示的(location specific)な評価を重視しています。

地元企業だからこそできる
地域に合った取り組み

ーー サプライチェーン全体を把握し改善するには、これまでに確立された仕組みを変える必要がありますが、どう取り組めばよいでしょうか。

髙橋(健) 脱炭素の取り組みは、もはや加点対象ではなく、世界のスタンダードであり、「やることが当たり前」というルールになりつつあります。特にEUは、そのルールメイキングに積極的です。

山ノ下 企業が脱炭素に向けた取り組みをすると、その分、コストがかかってしまうということがあります。それをうまく消費者価値に読み変えられれば、逆にビジネスの機会になると思いますが、一方で、良いことをした企業が損をしないためのルールメイキングが必要と感じます。

栗山 脱炭素ビジネス実践の一例として、神奈川県の工務店・太陽住建の地域に根差した取り組みに注目しています。同社は障害をもつ方々を含む市民に働きかけ、空き家を改築してソーラーパネルを設置するなどの取り組みをしています。こうした地域への貢献は共感を呼び、事業成長と脱炭素を両輪で実現しています。

渡部 ライフスタイルについて考えると、消費者だけが頑張っても脱炭素は実現しません。例えば、各地域に合った形で住居のエネルギーを脱炭素型に変えていくなど、地域で活動する企業だからこそできる役割があります。地域の小さな取り組みでも、大きな変革につながるはずです。太陽住建のような取り組みは、地域住民が消費以外の方法で地域の転換にかかわる機会にもなっていますね。

粟生木 循環経済に関して言えば、例えば、消費者が製品の容器を廃棄する際、分別が難しいものもあります。そういうところから企業の製品やサービスの提供の仕方を変えていくことが重要だと思います。EUでは製品のサステナビリティに関する情報を消費者に届きやすくし、消費者が選択しやすくするための試みも始まっています。これは社会の仕組みを変えるための、1つのあり方だと思います。

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