サステナビリティを経営の根幹に おいしく楽しい、持続可能な社会を実現
ビールを中心とした酒類、飲料、食品で多様なブランドを展開するアサヒグループホールディングス。絶え間ない革新と挑戦のもと、世界各地で事業を展開。「Think Globally・Act Locally」でサステナブルな価値創造企業を目指す同社の成長戦略を、代表取締役社長 兼 CEOの勝木敦志氏に聞く。
「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」をミッションに、年間100億リットルを超える酒類・飲料を世界の消費者に届けるアサヒグループホールディングス。1889年に日本で創業した同社だが、2016年の西欧ビール事業の買収以降、歴史と伝統を持つ醸造所やブランドをグループに統合し、急激なグローバル化を進めている。現在はアサヒスーパードライ、Peroni Nastro Azzurro(ペローニ・ナストロアズーロ)、Kozel(コゼル)、Pilsner Urquell(ピルスナーウルケル)、Grolsch(グロールシュ)の5つの個性的なプレミアムビールを、各国の特性に合わせグローバルブランドとして展開。日本、欧州、オセアニア、東南アジアの4極体制で、グローバル企業としてのさらなる成長を目指す。
大型海外M&Aでグローバル化
知恵を集め事業を高度に
同社が海外へ目を向け始めたのは1990年代。日本の総人口は2010年から減少に転じているが、生産年齢人口は1995年をピークに減少が始まっており、同時にビール類の消費も伸び悩み始めていた。
欧州系企業の大型企業買収(M&A)に本格的に着手したのは2009年、オーストラリアの飲料部門を買収したのが最初だ。そのころすでに欧州系の企業では、外部への投資やデータ管理が日本より進化しており、科学的なマーケティングが進められていた。一方、欧州系企業にとって、日本の丁寧な意思決定や技術力は評価に値するものだった。そこで、対話を繰り返して両者の長所を理解しあい、事業を成長させていったという。
こうしたM&Aの成功体験を礎に、2016年、17年には西欧と中東欧のビール事業を取得。2020年には、オーストラリアのカールトン&ユナイテッドブリュワース(CUB)の事業を買収した。欧州とオセアニアで実施した一連の買収金額は2兆円を越え、加速度的にグローバル化を進めている。
そして2022年1月、日本の統括会社としてアサヒグループジャパンを発足。アサヒグループホールディングスのもとに日本、欧州、オセアニア、東南アジアの4つの地域統括会社が対等に並び、迅速な意思決定が可能な体制を構築した。今後は4つの地域のベストプラクティスを共有し地域間のシナジーを高めていく。
「ビール飲料はローカルなプロダクツです。製品ブランドとしては、地元の消費者の期待に応えるものでなければなりませんが、ベストプラクティスを共有することで、事業を高度化していきたいと考えています」と勝木氏は話す。
現在、同グループ約3万人弱の従業員のうち半分以上が外国籍だ。売上の48%、利益の66%が海外となっており、今後は国内のガバナンスやマネジメント組織へも外国人材を積極的に登用し、意思決定を行う組織体制自体のグローバル化も進めていく。
サステナビリティと経営を統合
専門子会社も設立
アサヒグループホールディングスがもう1つ重視しているのが、サステナビリティと経営の統合だ。「我々は、穀物や水などの自然の恵みを享受して事業を営んでいます。社会や環境と共存せずに存続することはできません」と勝木氏は説明する。
特に注目度の高い環境問題への取組については、2023年「アサヒグループ環境ビジョン2050」を改訂。2050年のありたい姿として「プラネットポジティブ」を掲げ、気候変動、容器包装、農産物原料、水資源の4つの柱で取り組みを進める。
深刻な問題であり、社会的な要請も強い気候変動については、2050年にScope3まで含めたカーボンニュートラルを目指し、さまざまな取り組みを積極的に推進。Scope1.2のCO2排出量を2025年までに40%削減(2019年比)、2030年までに70%削減という具体的な目標を設定し、再エネの活用を中心にグループ全体で取り組みを加速。国内31の工場については、購入電力を全て再エネ化とした。2050年までには世界の全工場での100%再エネ化達成を目指している。
農産物原料としては、ビール製造工程で発生する副産物であるビール酵母細胞壁から農業資材(肥料原料)を開発。これは植物の根張りを良くするだけでなく、ジャンボタニシの食害を防ぐ効果もあることが分かっている。また水資源に関しては、水使用量削減で先行する欧州に日本も近づけていく。また、同グループは広島に社有林「アサヒの森」を持ち水源の涵養も目的に森を保全する取り組みにも力を入れる。
一方、2022年にはサステナビリティ領域に特化した事業会社・アサヒユウアスを設立済みだ。同社では、新たな容器として廃材や間伐材を使用した「森のタンブラー」や「森のマイボトル」を開発・販売している。このマイボトルは、G7広島サミットで各国の代表団やメディア向け記念品の1つに採用された。今後もサステナビリティに貢献する製品を、収益の源泉としていく方針だ。
勝木氏がCEOに就任したのは、コロナ渦中の2021年3月だった。2022年に入ってから、世界各国35拠点に赴いてタウンホールミーティングを開催し、各地の社員と活発な意見交換を行った。社員からの質問の半分近くがサステナビリティやDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)も含めた人的資本に関することだったという。
「サステナビリティと経営の統合を掲げていますが、サステナビリティの考え方、施策が全ての事業・機能に取り込まれ、KPI化されているのが1つの理想的な在り方です。それが従業員1人ひとりの行動に組み込まれつつあると感じています」。
量ではなくバリューを追求
ノンアルなど周辺領域を強化
過去、日本のビール業界は出荷量を最重要指標として競争を繰り広げてきた。現在の市場は細分化され、消費者もそれぞれ個別のニーズを持つようになっている。そのような時代には、量ではなくバリュー(価値)を追求することが重要だ。そこで同グループでは中長期経営方針として「変化するWell-beingに応える事業ポートフォリオの構築」を掲げた。
世界的に広まる高級志向に対応するため、既存事業についてはアサヒスーパードライとイタリアンビールのPeroni Nastro Azzurroを軸としたプレミアム戦略を強化する。2022年3月にはアサヒスーパードライをリニューアルして味をブラッシュアップ。2030年に向け、グローバルトップブランドの地位確立を目指す。
新規領域においては、欧州を中心にノンアルコールカテゴリーを拡大する。日本では多様な飲み方を提案する「スマートドリンキング」の浸透に向けた投資を行う。低アルコール飲料、ノンアルコール飲料、清涼飲料水などビールに隣接するBAC(Beer Adjacent Categories)領域を強化したい考えだ。2023年1月には、米・サンフランシスコで投資ファンド「Asahi Group Beverages & Innovation, LLC」を設立したところで、BAC領域のスタートアップを中心に出資する。
勝木氏は、「酒類と飲料の両方のケイパビリティを持っているのが我々の特長です。消費者視点に立ったとき、我々が提供できる価値が何かをもう一度見つめ直し、モノだけではない付加価値の提案をしていきたいと思います」と将来の展開を語った。
- 勝木 敦志(かつき・あつし)
- アサヒグループホールディングス 代表取締役社長 兼CEO