業務効率化の先に新たな価値を生み出す 自治体DX、成功の秘訣

DXへの取り組みは全国の自治体に広がっているが、その成果はなかなか見えず、 「システム化したものの…」といった残念な事例も多い。成果の上がらない原因はどこにあり、どんな対策を講じていくべきなのか。総務省・デジタル統括アドバイザーの三木浩平氏が解説する。

三木 浩平 総務省 デジタル統括アドバイザー

デジタル活用の試みが進む中
残念な事例から得た教訓

DXに取り組む自治体が増えるなか、「デジタル化したものの職員の手間が増えている」「オンライン申請を開設したが利用者の評価が低い」といった残念な話が聞かれる。

例えば、ある霞が関の役所では、全国の自治体から災害情報を集約している。電話やFAXを使ったアナログな業務では効率が悪いとシステム化。自治体がオンラインで報告した内容をすぐにPDF形式の報告書にして関係部署に回覧するようにした。

「この例は、業務効率化にはある程度寄与したかと思いますが、ここから何か新しい価値が生まれたかというと疑問です。PDFはあくまで紙の業務をしていた時の流れです、これをデータベース化すれば、様々な用途に新たに活用できるでしょう」と総務省・デジタル統括アドバイザーの三木浩平氏は分析した。

1つの災害に1つの報告書(PDF)では全体把握は難しい。これをデータベース化することで、例えば県をまたがる河川流域の災害の統計を取ることも可能となり、今後の新しい災害対策に活かすこともできる。

「従来の紙のプロセスを置き換えるだけでは、新たな価値には繋がりません。デジタル化したことによるデータの活用に注目することが必要です」と三木氏は話す。

図 情報化とDXの違い

庁舎内の事務の合理化・効率化を目指す情報化に対し、DXは利用者である住民にとっての価値が重要になる

2つ目の残念な事例として、国の構築した給付金のオンライン申請の仕組みがある。オンライン申請にしたものの、早くWebページを開設することに注力したため、申請の重複や入力ミスなどの問題が発生し、事務処理をする自治体職員が非常に苦労した。

一方で、ある自治体では、事前に給付対象者リストを作り、対象者に申請番号を郵送。その番号を使ってWebページで申請するという仕組みを、国のシステムとは別に独自に構築。効率的な処理を実現し、紙の流れよりも素早い給付に成功した。

「ポイントは、何を目標、目的として業務設計するのかです。国は『一刻も早く申請受付を開始する』ことを目標としました。しかし、これは行政側の視点。受け取る側からすれば、『いかに早く確実に給付金が振り込まれるか』が最も重要です」(三木氏)。

独自のシステムを構築した自治体では事前準備は増えたが給付は早まっている。さらに、対象者一覧の作成と郵送の部分はマニュアル作業だ。DXという言葉にこだわりすぎると、オンライン化することが目的になってしまうことが多い。自治体サービスでは、常に利用者側の視点に立って目標設計、業務設計することが重要だ。

自治体業務のDX、
アプローチの3つのポイント

DX以前に自治体において進められた「情報化」は、業務の効率化を目指し、紙の作業をシステムに置き換えることが大きな目的だった。一方、DXでは新たな価値の創出、住民視点でのサービス提供など、効率化にプラスして質の向上に重きを置く。

DXにおけるアプローチのポイントをまとめると大きく3つ。①利用者目線での設計、②サービス提供方法の根本的な見直し、③新たな価値の提供、だ。

①利用者目線での設計では、まず利用者の想定が重要となる。想定する利用者を自分の家族に置き換えてイメージしてみる、あるいは、典型的な利用者のイメージであるペルソナを想定する。

利用者のイメージができれば、そこへ向けて②のサービス提供方法の根本的な見直しを行っていく。

「ここは、構造改革、業務改革の分野になっていきます。利用者の目的、最終的なメリットにたどり着きやすい方法に業務フローを組み立て直す。これまでのやり方にこだわらず、不要なら業務自体を廃止するといった発想の転換も必要となります」。

そして、この2つのポイントを実践することで③新たな価値の提供、を実現していく。この際、DXの推進によるコスト削減や業務時間の短縮という行政側のメリットももちろん重要だが、利用者側のメリットも実現しなければならない。このWin-Winの状況を「新たな価値」とする。

三木氏は、「アプローチ方法としては、事務フローだけでなくデータの活用に目を向ける。さらに、行政だけでなく、企業や住民との協業でまちづくり、サービス提供をしていく視点が重要です。また、既に普及している民間サービスの活用にも目を向けると良いでしょう」と勧める。

各地の成功事例と
DXに必要な職員のスキル

DXの推進により新たな価値を生み出した例として、福岡市が実施しているLINEを使った粗大ごみ受付がある。福岡市をLINEの友達に追加することで、粗大ごみの申し込みや品目、料金検索をトーク画面の会話形式で簡潔に行える。受付番号を取得したらLINE Payでオンライン決済。後は、ごみに受付番号を貼り付けて、出すだけだ。民間ツールであるLINEの機能をそのまま活用し、新たな価値を生み出した例と言える。

また、千葉市の「アプリによる公共インフラ破損報告」は民間の力を活用した新たなソリューションと言える。公園の椅子や道路のタイルなどの破損を市民が発見した場合、専用アプリでスマホのGPS機能を使った写真レポートを送信する。自分たちのまちの環境を良くするために力を出し合う、といった市民の気運醸成に繋がると同時に、行政側にとっては破損の深刻度合を一目で確認でき、スピード感を持った処理に繋がる。公園の落書きなど、市民による解決も可能なケースに対しては、市民参加型のイベントを立て、市民協働による解決も可能だ。

千葉市では公共インフラの破損を市民がアプリで報告できる

こうした好事例のようにDXを推進し、新たな価値を生み出していくには、どんなスキルが必要だろうか。

「DX推進に必要なスキルをあえて言えば3つ。利用者視点で考えるマーケティングスキル、ITスキル、業革・BPRスキルです。中でも業革・BPRスキルは重要で、これがなければ新たな価値は出現しません。こうしたことを踏まえ、評価されるDXを目指し、取り組みを進めていただきたいと思います」と三木氏は講演をまとめた。