県民衛星を打ち上げ、ものづくり力を基盤に宇宙産業へ参入
福井県が製造を進めてきた超小型人工衛星「すいせん」が、今年3月に打ち上げられる。その取得データは地上(河川、森林等)の変化のモニタリングや防災システムに活用するほか、開発ノウハウを他府県に波及させることも目指すという。福井県民衛星技術研究組合に、プロジェクトの経緯や展望を訊いた。
県の新たな産業創出のため
宇宙ビジネスに挑戦
眼鏡や繊維など素材・部品製造を基幹産業とする福井県が、第三の産業として宇宙ビジネスに目を付けたのは2015年の「福井経済新戦略」が始まりだった。戦略会議推進委員の1人だったネスティ代表取締役の進藤哲次氏が、人工衛星事業を提案したのだ。
「その前の年に、私が会長を務めていた福井県の情報システム工業会で地元のIT企業を集めて衛星データの技術勉強会をしていたのです。6回ほど集まって農業に衛星データを活用する方法などを探ってはみたものの、ビジネスに使うのは無理だなと諦めかけていました」と進藤氏は語る。
というのも、大型の人工衛星を作るには1基300~500億円という膨大な予算が必要で、福井県全域の衛星写真1枚を買うだけでも数百万円がかかる。こうしたコストの高さが壁となり、衛星データの利活用は学術研究などに限られていたのだ。
「ところが、ある日にテレビを観ていたら、気象データを取るために超小型の人工衛星を開発したベンチャーがあると紹介しているではありませんか。それが、衛星開発の大家と呼ばれる東京大学・中須賀真一教授の教えを受けた中村友哉氏が率いるアクセルスペース(東京都中央区)でした。もし、県が自前で衛星を創ることができれば新ビジネスとしても面白いし、どちらかというと完成品より部材を下請け的につくることが多かった福井県のものづくりにも良い変化が生まれるのではないかと考えました」
そこで県内外の企業や大学に協力を持ちかけるとともに、JAXAや経産省、文科省などに提案書を持ち込んだ結果、2016年8月に超小型人工衛星「すいせん」の開発・製造を目的とした福井県民衛星技術研究組合が立ち上がった。理事長は進藤氏が務め、福井県産業労働部産業技術課が理事に入ることで、県庁をモデルユーザーとした産官学連携の研究プロジェクトとしての体制を確立。民間企業の顔触れは、セーレンや鯖江精機といった製造・開発グループと、ネスティ、福井システムズ、福井ネットといった衛星データ活用グループとに二分されている。
「高度なものづくり技術や優れた知見を有する企業とはいえ、衛星については素人ばかりです。そこで前者にはアクセルスペース、後者の上流工程には富士通に入っていただき、プロジェクト成功を目指すことになりました」
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