旅行時間表示で、観光地の渋滞が緩和 栃木県×本田技研工業

栃木県は本田技研工業などと連携し、車両の走行データを活用した渋滞対策実証実験を実施。リアルタイム旅行時間表示サービスによって、秋の行楽シーズンの日光の渋滞時間を緩和させることに成功した。渋滞ピークの抑制や渋滞の早期解消の効果も実証された。

超低コストかつ設置も簡単
旅行時間表示機で渋滞緩和

本田技研工業(以下、Honda)は、約480万人(2020年8月現在)にのぼるコネクテッドサービス会員注1)の車両から得られる走行情報を収集・分析し、公共団体や事業者の都市計画立案や渋滞対策、交通安全、防災減災などに役立ててもらう「Honda Drive Data Service」を展開している注2)。渋滞対策分野のソリューションのひとつが、Hondaと住友電工システムソリューション、セフテックの3社で提供する「リアルタイム旅行時間表示サービス」だ。

このサービスは、あるルートを通過するのに要する時間(旅行時間)について、渋滞路や迂回路など複数ルート分を道路上のLED表示機に示すことにより、ドライバーの迂回を促し渋滞分散を図るものだ。旅行時間は、実際の車の位置や速度などのデータをもとに15分~30分前の平均所要時間を計算して表示する。表示機はソーラーバッテリー駆動のため電源不要で、遠隔操作も可能。常設の大型表示機は設置に数千万円のコストがかかるのに対し、リアルタイム旅行時間表示サービスは安価で導入でき、設置・移設も簡単だ。

リアルタイム旅行時間表示サービスのLED表示機

栃木県は宇都宮市鬼怒川周辺地域の通勤渋滞緩和と日光市二社一寺地区の渋滞緩和において、本サービスを活用した実証実験を実施した。採用の背景について、栃木県県土整備部交通政策課道路計画担当の石田光氏は次のように説明する。

石田 光 栃木県 県土整備部 交通政策課 道路計画担当 技師

「栃木県は国土交通省宇都宮国道事務所と『道路行政マネジメント会議を実践する栃木県会議』を設置し、交通データ分析や道路利用者へのアンケートを踏まえ、主要渋滞箇所として県内321カ所を指定し、道路のバイパス整備や拡幅工事や車線構成の見直しなどを行っています。ただ、こうした抜本対策には大きなコストや長い年月がかかります。日本を代表する観光地である日光では、行楽シーズンなどに一時的に交通量が増えて渋滞が発生するため、これまでも期間を限定したソフト対策を実施してきましたが、鬼怒川周辺地域での渋滞対策実証実験の結果、Hondaのリアルタイム旅行時間表示サービスが有効だと考え、Hondaのソリューションの採用に至りました」

日光の渋滞時間が半減
ピーク抑制と早期解消に効果

栃木県とHondaは、産官学で連携した「鬼怒川周辺地域渋滞対策協議会」を立ち上げ、2019年9月から12月にかけて、リアルタイム旅行時間表示サービスを活用した「鬼怒川周辺地域渋滞対策実証実験」を実施した。宇都宮市中心部と鬼怒川左岸地域の産業団地を結ぶ道路における通勤時間帯の渋滞緩和を目指し、3ルートの所要時間を分岐点の手前に置いたLED表示機で示し、混雑ルートの迂回を促した。

リアルタイム旅行時間表示サービスの活用で日光の渋滞時間は大きく緩和(日光東照宮)

その結果、「表示機が示す旅行時間が正確であることや、ルートごとの所要時間差が20分程度を超えれば、表示機による迂回ルートへの誘導が有効に機能することがわかりました」(石田氏)

こうした知見も活かし、栃木県とHondaは2020年10月末から11月にかけて、日光エリアの渋滞対策を実施した。日光東照宮をはじめとした社寺が世界遺産に登録される日光エリアは、ゴールデンウィークと秋の紅葉シーズンに観光客の移動に伴う渋滞が発生する。特に東照宮至近の大駐車場に至る国道119号の渋滞が深刻だった。

日光地域では、安全で円滑な交通の確保や観光振興を図る観点から、効率的で効果的な渋滞対策を総合的に検討することを目的に「日光地域交通対策検討会」が設置されている。その検討会を通して、栃木県は日光市や警察や国土交通省日光砂防事務所等と連携して渋滞対策に取り組み、2018年度の紅葉シーズンからは東照宮から徒歩15分程度の場所に臨時駐車場を設置して迂回ルートの利用を促してきた。2020年度はリアルタイム旅行時間表示サービスを新たに導入し、さらなる渋滞緩和を目指した。

「首都圏からの観光客は日光宇都宮道路を利用し、東照宮に最も近い日光ICで降りて渋滞にはまってしまいます。そこで、手前の大沢IC~今市IC間に4機の表示機を、一般道の119号にも4機の表示機を置き、渋滞ルートと迂回ルートの合計6路線の旅行時間を表示し、迂回案内を行いました」(石田氏)

2020年の紅葉シーズンは、新型コロナウイルス感染症の影響にも関わらず、前年比96%の来訪者があった。同条件で最も渋滞した日を比較すると、119号の旅行(渋滞)時間は2019年のピーク時が171分だったのに対して、リアルタイム旅行時間表示サービスの活用によって2020年は85分となり、ほぼ半減された。

また、最大渋滞長は2019年の3.7kmから2020年は2.3kmまで減少。さらに渋滞解消時刻(渋滞長が20m以下になった状態)は2019年の行楽シーズンは平均15時45分だったのに対し、2020年は平均13時27分となり2時間以上早期化された。

Honda モビリティサービス事業本部の船越允維氏は「日光での実証実験から、リアルタイム旅行時間表示サービスによって渋滞のピークが抑えられ、渋滞の解消も早期化できるという効果が確かめられました。特に渋滞が激化して渋滞路と迂回路の旅行時間差が大きくなるほど、迂回路への誘導力が高まることが確認されました」と話す。

石田氏は「臨時駐車場の利用者にアンケートを行ったところ、表示機を見て迂回路を選んだ人が多く、また、旅行時間の表示がとても役に立ったという意見が多く聞かれました。Hondaのソリューションを活用したことで、交通ビッグデータを利用すればエリア特性に応じた効果的な渋滞対策が実施できると実感しました」と手応えを語る。

日光や那須などの国際観光都市を擁する栃木県にとって、観光の周遊性・回遊性を高めるための渋滞対策は非常に重要だ。石田氏は「渋滞対策は栃木県だけでは不可能で、国土交通省や地元市町、警察、民間事業者との連携が不可欠です。そして一番大切なことが地元住民の意見をしっかりと聞き、協力して頂くことです。今後も幅広い連携を通じて都市部や観光地の渋滞対策に取り組んで参ります」と述べる。

Hondaの船越氏も「Hondaは『すべての人に、「生活の可能性が拡がる喜び」を提供する』という2030年ビジョンを掲げており、渋滞対策は社を挙げて取り組むべき課題の一つです。今後、日本全国でインフラの老朽化による道路工事や、それに伴う一時的な渋滞発生が増えていくと考えられます。リアルタイム旅行時間表示サービスを低コストの渋滞対策として全国に役立てていきたいです」と話した。


注1)
インターナビ・プレミアムクラブ会員、Honda Total Care会員、Honda Total Care プレミアム会員の合計会員数。
注2)
データはHonda Total Care 会員規約およびインターナビ・プレミアムクラブサービス利用規約等に基づき,個人を特定できないよう加工および統計処理して分析に利用している。

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本田技研工業株式会社
モビリティサービス事業本部

HP:https://www.honda.co.jp/HDDS/
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