沖縄県知事インタビュー 「誇りある豊かな沖縄」への構想と施策

玉城デニー知事の座右の銘は、「夢は必ず叶う」。事業構想は、夢を形にすることとも言えるが、知事はまさに沖縄県庁がそのような役割を果たすべきと考えている。そのためには、県庁の取り組みを「見える化」して、県民の理解と行動を得ることが重要だという。知事に構想を訊いた。

玉城 デニー(沖縄県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年1月7日)

――ウィズコロナ、アフターコロナの観光の姿をどのようにお考えですか?

2020年4月から10月の沖縄県の観光客数は131万人で、対前年比で489万人減少しました。率にすると79%の減少です。観光業は裾野が広いため、多くの産業に深刻な影響が出ています。

県では、観光関連業界および医療界の疫学的意見も参考にして、「旅行者の安全・安心アクションプラン 沖縄Tour Style Withコロナ」を策定し、安心して訪れることができる、また、安心して迎え入れることができる沖縄観光の構築に取り組んでいます。

まず、水際対策として、那覇空港に県民を含む旅行者専用の相談センター「トラベラーズ・アクセス・センター・オキナワ(通称TACO)」を設置しました。空港到着時にサーモグラフィーで発熱がみられた旅行者には、本人同意の上で、非接触型体温計で体温を測定し、常駐の看護師の問診を経て、必要があれば空港から直接指定医療機関に連携します。また、旅前、旅中、旅後を通して、常に旅行者をサポートする窓口としての機能を持たせています。旅前の健康状態の電話相談も受け付けておりますし、旅行中に具合が優れない場合もTACOに電話をかけていただければしっかりサポートいたします。

沖縄県感染防止対策徹底宣言ステッカーの「シーサーステッカー」

さらに、県民ならびに旅行者の方々に幅広く情報を届けるため、昨年10月16日から、LINE公式アカウント「RICCA(リッカ)沖縄県-新型コロナ感染症対策パーソナルサポート」の運用を始め、コロナ関連の情報の発信や、感染防止対策を徹底した飲食店や施設のクーポンの配布など、お得な情報を発信しています。感染防止対策を徹底している施設等にはQRコード付きの「シーサーステッカー」を発行しています。利用者にそのQRコードを読み取っていただくことで、集団感染等があった場合にそのエリアにいた方々に迅速に注意喚起を行うことができます。

2020年10月開始のLINE公式アカウント「RICCA(リッカ)沖縄県-新型コロナ感染症対策パーソナルサポート」のロゴ

一方、近年人気の離島は、医療体制が脆弱であることが課題です。医療との連携体制をどのように構築するか。ウィズコロナ、アフターコロナの環境の中で、それぞれの離島が持つ個性や輝きの発信も含めて、今後はITの活用が求められると考えています。アフターコロナまで見据えて、デジタルトランスフォーメーションは沖縄観光に欠かせない重要な取り組みのひとつになると思います。

東西1000km、南北400kmの広大な海域に160の島々が点在する同県は、観光業が主産業。写真は石垣島

県庁施策を「見える化」して
県民の力で実現する

――知事は、万国津梁会議を設置されましたが、目指す成果と期待についてお聞かせください。

2030年のあるべき沖縄県の姿を示した基本構想「沖縄21世紀ビジョン」には、県民が望む将来の姿について、アンケートから導き出した5つの将来像が描かれています。万国津梁会議では、優れた識見をもつ方々の意見を施策に取り入れてビジョンに掲げる将来像の実現を推進することを目的に設置しました。

図 「沖縄21世紀ビジョン」の5つの将来像

21 世紀ビジョンは県民の参画と協働のもとに、将来(概ね2030 年)のあるべき沖縄の姿を描き、その実現に向けた取り組みの方向性と、県民や行政の役割などを明らかにする基本構想。沖縄県として初めて策定した長期構想で、沖縄の将来像の実現を図る県民一体となった取り組みや、これからの県政運営の基本的な指針となる。

出典:沖縄県

 

沖縄には基地問題をはじめ、様々な政策課題があります。2019年度は米軍基地問題と児童虐待、SDGsに関する万国津梁会議を開催しました。2020年度は、これらの分野に加えて、沖縄県振興審議会から沖縄振興を促進する上での課題について提言をいただき、新たに、多様な人材育成、企業の稼ぐ力、海外ネットワークについて議論を始めています。

具体的な施策も生まれています。児童虐待に関する会議の提言から、「沖縄県子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例(子どもの権利尊重条例)」ができました。子どもの貧困や虐待は、子どもに起因して起こるのではなく、大人と社会に起因して起こるため、子どもを取り巻く環境に目を向けていく必要があるだろうということで条例制定となりました。

理念条例ではありますが、沖縄県の考え方を具体的に組み立てて示すことによって、県民の皆さんから様々なご意見が寄せられてきます。そのご意見によって条例は成長するのです。樹木が地中に根を張っていくように、見えない部分への取り組みへと広がり、県民の皆さんの協力にもつながるのではないかと考えています。

例えば、沖縄らしいSDGsをつくろうとした場合、それを実現するのは県庁ではありません。県民の方々です。それをしっかりと示すために、来年度から企画部にSDGs推進室を設置します。県庁の取り組みの見える化を図り、子どもからお年寄りまで、「ああ、この行動もSDGsの一つなのだな」と気づくきっかけをつくることができれば、自分たちがSDGsを実践することが沖縄らしいSDGsの実現につながるのだと理解していただけると思います。提言と具体的な行動をマッチングさせることが、県庁の様々な事業を身近に感じ、夢の実現につながるというのが、私の考え方です。

夢を実現する
専門的人材の育成

SDGsに限らず、様々なテーマに取り組む場合、沖縄では「沖縄らしさ」をどう醸し出すかを考えます。例えば沖縄では、「平和」を「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」という島ことばで表現します。これは過酷な戦争体験から生まれた普遍的な沖縄特有の価値観です。この「命は宝だから、平和は誰にとっても大事だ」という価値観は、多様性や寛容性や包摂性につながります。沖縄がもともと持っているものが、沖縄らしいSDGsにつながるのです。

万国津梁会議の提言によって、沖縄らしい課題解決を県民や事業者の方々と連携して進めていき、県庁の取り組みの見える化を図りたいと思っています。そのためには、それぞれの部局の取り組みについて、企業や県民の方々により具体的にお示しできるように、我々の方からプレゼンをかけていくぐらいのことをしなければいけないと思っています。

その上で一番肝心なことは、県庁の中で専門的に取り組む人材を育成することです。県庁は基本計画や予算はつくりますが、具体的な実行は外部の知恵やお力をお借りすることが多い。自分たちで設計し基礎打ちをして竣工し、竣工後の建物の管理までできる職員はいません。職員には短くて2年、長くても5年ほどで異動があるため、一つのことに持続的に取り組むことが難しいという事情もあります。

しかし、県庁の事業を見える化をする上で、それを継続して担当する中心人物、いわゆる監督者は必要です。事業にしっかりと向き合い、熱を持ち、あるいは意気を感じて取り組む。専門職として取り組むことで、発想が磨かれ、施策の無駄を省き、必要に応じて肉付けできるようになる。

そして、そこに民間の方々の活力を注入する。県庁の中にプロパーとしてノウハウを蓄積していく。そういう役回りの存在を、県庁の中で育てたい。そういう人材が備わることで、県民や事業者の方々への見える化のプロセスとテクニックも磨かれていくだろうと思います。

沖縄の産業を包括的に支援する
マーケティング戦略推進課を設置

――大卒者のUターン率は全国平均が0.9%に対して、沖縄県は49%と非常に高く、沖縄で起業したい若者も多いようですが、こうした状況をどのようにお考えですか。

1800年代の終わりから1900年の初頭にかけて、沖縄では経済的な理由から海外雄飛の道を選ぶ方々がたくさんいらっしゃいました。戦前も、多くの方々が関西などに出て、リトル沖縄のようなコミュニティを形成し、お互いに助け合いながら身を立てようと頑張られました。自分自身で自分の身を立てて自分の力を試したい。自分の人生や時間は自分のために使いたい。そうすることで社会と有益な関係をつくりたい。そういうDNAが"ウチナ-ンチュ(沖縄の血を受け継ぐ人)"の中に連綿と流れているのです。

ただ、沖縄の生産性は、今はそんなに高くありません。沖縄にはものづくりをする環境はありますが、出口戦略をどうするかが課題です。

県は昨年、起業や事業継続に対する支援を行う専門部署、マーケティング戦略推進課を設置しました。マーケティング戦略推進課では、担当する課が分かれている商工、農林水産、観光を包括的に見て、各分野を関連付けた立体的に稼ぐ仕組みづくりを進めています。

我々が果たすべきは「つなぎ役」です。どこに何が必要で、どこにどういう素材やツールが存在していのるのか。そうしたことを把握し、組み合わせてつないでいく。沖縄には「ゆいまーる(助け合い)」という概念がありますが、その精神でみんながつながれば、我々が目指す沖縄らしい優しい社会が実現できると思っています。

沖縄らしいSDGsで実現する
サスティナブルな島・沖縄

――2022年は沖縄復帰50周年という節目でもあります。今後注力されていくことについてお聞かせください。

現在、長期構想「沖縄21世紀ビジョン」に掲げた、沖縄が目指す将来像の実現に向けて、「新沖縄発展戦略」や「アジア経済戦略構想推進計画」、「沖縄21世紀ビジョン」の前期10年に相当する「沖縄21世紀ビジョン基本計画」を進めています。この基本計画は、2021年度までの計画ですから、これまで取り組んできた各施策の総点検を行い、そこから将来解決すべき課題を明らかにしたところです。2022年度には、新たな振興計画が始まります。アジアのダイナミズムは今後も優位性を持ち続けるでしょうから、それを取り込むための具体的な仕組みを構築しなければなりません。

コロナで打撃を受けた観光関連産業をしっかりと回復させることも重要です。沖縄には歴史や文化などのソフトパワーが存在します。沖縄の魅力であるソフトパワーは、コロナで蒸発したわけではありません。ウィズコロナ、アフターコロナを見据え、そうしたものを安心して楽しんでもらえるような、沖縄観光を確立したいと思います。

また、子どもの貧困問題や県民所得の問題を解決するために、自立型経済への取り組みを行ってきましたが、道半ばでコロナの大きな波を受けました。こうした課題への具体的な取り組みの設計も、今後改めて進めていきます。

私が目指すのは「誇りある豊かな沖縄」です。自然、歴史、文化、伝統、食、工芸など、沖縄がこれまで大切にしてきたものを守りながら持続可能な発展や成長を遂げる。そのためには、沖縄らしいSDGsの実現がポイントになります。県庁内に熱を持って継続的に取り組む人材を育成し、取り組みを「見える化」して、県民や企業の方々がステークホルダーとして参加できる仕組みを構築したい。沖縄の魅力を、今後もますます輝かせるため、ITや自然エネルギーなどの次世代の先端技術を取り入れて、サスティナブルな島・沖縄を目指したいと思います。

 

玉城 デニー(たまき・でにー)
沖縄県知事