徳島県知事 ピンチをチャンスに!課題解決先進県・徳島

徳島県はやることが速い。「ピンチはチャンス」という精神で、逆境において様々な施策を打ち出し、そこでまた課題解決の処方箋として国に提言もする。ピンチから生まれた光ブロードバンド環境を最大限に活用し、グローバルでの存在感も醸成しつつある。

飯泉 嘉門(徳島県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2020年11月27日)

――飯泉知事が推進されている「感染症に強いスマートな徳島づくり」のポイントを教えてください。

新型コロナの影響について県内事業者を対象に実施した調査では、売り上げが前年比減となった事業者が、2月は52%、3月は72%に。特に「宿泊・観光・旅行」関連事業者(3月)の半数以上が前年比売り上げ5割以下と壊滅的状況であることがわかりました。

そこで3月10日、全国に先駆けて「融資連動型・給付金」制度を創設、同日開催の「国と地方の協議の場」において、全国知事会長として安倍前首相に対し、「何としても業を守っていく」という強いアナウンスとともに、一時支給金の創設など、一歩踏み込んだ対策をお願いした結果、国の令和2年度1次補正予算において、地方創生臨時交付金や緊急包括支援交付金とともに、持続化給付金や特別定額給付金の創設へと繋がりました。

当県は全国で唯一緊急事態宣言中も休業要請をかけませんでした。事業者や県民の皆さんに「新しい生活様式」をしっかりと身につけていただこうと、5月25日の緊急事態宣言解除と同日、「とくしまスマートライフ」を宣言、事業者の皆さんに緊急に感染防止策を講じていただくため、空気清浄機や換気設備の導入など、助成率10/10、100万、50万、20万の3コースで支援する助成金を創設しました。また、業種別「感染予防ガイドライン」を守る店舗を認定する「ガイドライン実践店ステッカー」を配布しています。

また、今年は「阿波おどり」などの大規模イベントが中止となり、観光事業者の方々はもちろん、阿波おどりを楽しみにしている県民の皆さんも、「阿波おどりロス」におちいりました。そこで県内の観光需要を喚起するため、まず県民の方々に地元・徳島でゆっくり観光してもらおうと、県民限定の観光キャンペーン「とくしま応援割」を6月にスタートしました。当初は7月末を期限に1泊上限5000円の支援を1万人泊分用意したところ、わずか20日足らずで9割を超える大好評となり、最終的に8月末まで期限を延長、4 万人泊分に拡大した結果、4万2500人泊超の利用となりました。

この取組みで得た経験を活かし、観光における閑散期である12月1日から2月末まで、2万人泊対象の「冬の応援割」を実施しており、県民の皆さんに、冬ならではの徳島の魅力を「ディスカバー徳島」として再発見し、「とくしま」のタグ付けのもと、魅力を全国へ発信していただいています。

夏の阿波おどり中止を受け、徳島市とともに「"ニューノーマル"阿波おどり」を開催。課題検証し、来夏の開催へ

徳島県民のスピリット
「ピンチはチャンス」

――知事は各省庁に対して政策提言をされていますが、どういったお考えで始められたのでしょうか。

国への提言を始めたきっかけは、徳島県の置かれた状況にあります。徳島県をはじめとする四国は、人口減少や過疎、少子高齢化など、この国の課題が真っ先にあらわれる課題先進地域です。どの県も課題に頭を抱え、国に解決のための陳情を行います。

しかし私は、これは違うのではないかと思っていました。四国の課題はいずれ、東京や大阪でも起こります。つまり、我々は国の課題に最初に遭遇できるわけです。これは「ピンチをチャンス」に変える絶好の機会ではないか。課題を克服する手法を考案し、それを国に提言すれば、いずれ「ジャパンスタンダード」になるのです。そこで、我々は課題「解決」先進県を目指そうと考えました。

2009年に自民党政権が民主党政権に切り替わり、それまでの羅針盤が使えなくなった時に、課題克服のために国の制度をこの様に変えたらどうですかと、民主党のマニフェストに置き換えて提言した際、「陳情」との差別化を図り「知恵は地方にあり」とのキャッチフレーズを付けたところ、このフレーズは、2014年、安倍前総理による「地方創生」の副題にもなり、徳島が国から課題解決先進県として認められたのでした。

この「ピンチはチャンス」という精神は、今では県民や事業者の皆さんにもしっかり浸透しており、リーマンショックでも、コロナ禍が来ても、徳島県の皆さんは、県が示す方向に共に進んでくれます。

――徳島に時代を変革していく企業が非常に多いのも、課題解決先進県だからでしょうか。

それもピンチをチャンスにしてきた結果です。2011年3月に日本の大ピンチ、東日本大震災が起こりました。あの時IT企業には、東京や大阪のクライアントから企業BCPの相談が殺到し、彼らは東京や大阪以上に通信環境が良いところはないと思い込んでいたので頭を悩ませていました。

ところが、通信速度が日本一速いのは実は徳島県なのです。徳島県の光ファイバーケーブルはテレビを見るのが中心で、東京や大阪のようなハードユーザーが少ないからです。IT企業の方が半信半疑で徳島に来てみると本当に速くて驚かれ、それが口コミで広がり、サテライトオフィスが林立するようになりました。そして今、コロナ禍によってこれを全国でやるべきだという潮流がやってきました。まさにピンチの時こそ、チャンスが輝くのです。

都市圏ICT企業のサテライトオフィス誘致のため、2012年より官民協働による「徳島サテライトオフィス・プロモーション」を継続している
出典:徳島サテライトオフィス・プロモーションサイト

徳島でのサテライトオフィス増加を契機に、総務省は2018年より開設数の全国統計を開始。同グラフは統計初年度のもので、徳島は北海道と並び全国1位
出典:総務省

「光」を最大限に活用し
徳島県の存在を世界に示す

――なぜ早くから光ブロードバンド環境を整備されていたのですか。

これもピンチがチャンスとなりました。国策でテレビが地上デジタル放送に切り替わる前、徳島はアナログであったがため地上波で関西からの電波により10チャンネルを見ることができました。ところが地上デジタル放送になると、四国放送とNHK、NHK教育の3チャンネルになる。当時私は総務省におり、これを知ったら絶対に不満が出るだろうと思っていました。その後、縁あって徳島に着任することになり、県民環境部長として各市町村長に国の補助金なども紹介しながらケーブルテレビの導入を説得し、しかもその翌年県知事に就任し、「全県CATV網構想」を立ち上げ、光ブロードバンド環境を一気に整備したのです。

――知事は柔道3段、弓道2段の腕前だそうですが、スポーツ等に関する取組みについてお聞かせください。

本県はホストタウンとして、オリンピックでは友好提携を結ぶドイツのカヌー、柔道、ハンドボール、カンボジアの水泳、ネパールの水泳とアーチェリーを、パラリンピックではジョージア代表チームの受け入れを予定し、誘致環境の整備を進めています。那賀川にカヌーの艇庫等を整備し、「JAバンクちょきんぎょプール」はステンレス製の高速プールへ改修しました。アーチェリー部のある徳島科学技術高等学校にはオリンピック仕様のアーチェリー場とウェイトリフティング場、弓道場を併設した複合施設を建設しました。

さらに、当県のブロードバンド環境の新たな活用策として、今は「eスポーツ」に注目しています。日本では茨城国体でようやく文化プログラムとして取り上げられましたが、世界では競技人口が1億人います。コロナ禍においても、また国籍や性別、障がいの有無に関係なく参加できるeスポーツは、今後どんどん普及するでしょう。

また、徳島県は「アニメの聖地」としても世界に名乗りをあげています。当県ではゴールデンウィークとシルバーウィークに、アニメの祭典「マチ☆アソビ」を開催しています。特に秋の祭典では国際アニメ映画祭やコスプレ大会を開催し、国内外から多くの参加者が訪れ、その数は春と秋合わせて16万人を超えます。2020年はコロナでリアルイベントは開催できませんでしたが、徳島のブロードバンド環境を活用し、徳島の会社「ufotable」が制作、歴代最速で興行収入300億円突破の「鬼滅の刃」の声優とwebでコラボするなど、スマートスタイルで開催しました。

環境首都を掲げ、二酸化炭素の
排出抑制や水素の普及を推進

――知事は、水素などの再生可能エネルギーにも力をいれておられますね。

2003年から「環境首都とくしま」を掲げて取組みを進めています。「首都」の意味は、東京や大阪などの二酸化炭素の排出量を抑えることが難しい地域の代わりに、自然豊かな徳島がその分を抑えよう、それでこそ「環境首都」となります。FITに対応した自然エネルギー導入について、早い段階から融資と補助金をつくり、「皆さん、早い者勝ちですよ」という空気をつくり普及促進してきました。県も企業局でメガソーラーを2基持っています。

また、東日本大震災の経験を活かし、2013年から災害時の電力源としてEVやPHVを「走る蓄電池」として活用し、その効力を防災訓練などでお見せして普及を促進してきました。

2015年には究極のクリーンエネルギーである水素の導入促進を牽引しようと、「水素グリッド構想」を策定し、「自然エネルギー由来水素ステーション」や「移動式水素ステーション」の導入、「燃料電池自動車」の公用車導入など、水素の普及拡大に向けた取組みも率先してきました。

さらには水素の安定供給のため、全国初、地産エネルギー「副生水素」を活用した、製造と供給を一体的に行う「水素供給拠点の整備」を、2021年秋完成に向け、東亜合成株式会社徳島工場で進めています。2020年10月には、34道府県と200の民間企業が参画する「自然エネルギー協議会」会長県として、国の「第6次エネルギー基本計画」において、2030年自然エネルギー発電比率40%超の意欲的導入目標の設定や自然エネルギーの「主力電源」としての位置付けを提言しています。

――徳島は「次世代の光」の研究開発を進められていますが、どういった取組みが行われているのでしょうか。

2018年、全国7団体の1つとして「地方大学・地域産業創生交付金」の採択を受け、当県の強みである「光」を核に、深紫外、赤外光コム、テラヘルツなど「次世代LED」の研究を重ねています。強い殺菌効果を持つ「深紫外」は、徳島大学共同研究チームで、新型コロナウイルスの殺菌に必要な光エネルギーの「基礎データ」の取得に成功する等、県内企業による実用化に向けた動きが進んでいます。

また、2020年には5Gがスタートしましたが、私も参加している「Beyond5G推進戦略懇談会」ではすでに5Gの次の「6G」について議論が進められています。2025年、関西広域連合の一員として本県も誘致に携わり、成功に導く役割を担う「大阪・関西万博」という絶好の機会において、「Beyond 5G Ready」として、遠隔医療やスマート農林水産業など、日本が得意とする分野で最先端技術を世界に示すことができ、その技術を支えるのがテラヘルツや赤外光コムとなります。

徳島はこれまで幾度となくピンチをチャンスに変えてきました。今ではポテンシャルのあるものを選択でき、より早く、しかも大きな効果を出せるようになってきました。これが現在の「進化した徳島」の姿です。

 

飯泉 嘉門(いいずみ・かもん)
徳島県知事