「多様性」を武器に、シビックプライドの醸成を目指して

東京23区西部に位置し、約32万人の人口を擁する中野区。まちに活力を生むため、"シビックプライドの醸成"を目指して産官学民の連携で多彩な施策を実施している。まちに愛着と誇りを持つ人を増やすための取り組みを、中野区長の酒井直人氏が講演した。

酒井 直人 中野区長

産官学民で地域の未来を考える

東京都中野区では、地域活性化を目指したシティプロモーションを推進している。生き生きとしたまちづくりには、まちへの愛着や誇りを持つ人を増やすことが欠かせない。そこで酒井直人区長は、「シビックプライドを醸成して質的な変化を図ったうえで、定住人口や昼間人口を増やして量的な変化を促すことで、まちの活力を高めよう」と考えた。

現在、大きな2つの取り組みが進行中だ。その1つが、まちの担い手を育成する3カ年計画の〈ナカノミライプロジェクト〉。産官学民で中野区の未来を考えようと、2018年10月から区内の企業や大学および区民と連携した数々のワークショップを行ってきた。

例えば企業と連携した活動としては、中野区に本社や事業所を置く企業が連携したワークショップがある。ここで1年目の2018年、"中野区らしさ"と"社会課題"を掛け合わせた5つのアイデアが生まれた。2年目の2019年には、そこで出たアイデアのうち、多くの参加者から支持された〈トビコメ!! なかの商店街〉を実施。これは地域の子どもたちと商店街の新たなつながりをつくろうというアイデアで、区内在住・在学の小学生が多数参加したという。3年目となる2020年は、過去2年間で培ってきた関係性を生かし、産官学民の新たな連携の基盤づくりを行うこととしている。

大学連携ワークショップでは、中野駅前に立地する明治大学国際日本学部でインバウンドの研究を専門とする佐藤郁ゼミと連携し、区への愛着の醸成や外国人観光客増加を目指したプロモーションプランを作成した。例えば、銭湯の営業時間外にその空間を生かしたイベントを開催できないか、中野駅前のセントラルパークでの野外映画上映はどうか、といったアイデアが提案された。また、学生の見出した中野区らしさをきっかけに発想した、『新しいナカノ歩き』というリーフレットもつくられた。

さらに区民連携ワークショップとしては2019年9月、中野で育つ子どもたちの輝く個性の表現をテーマに、Tシャツやパネルに自由にペイントする〈なかのカラフルキッズ〉を2日間にわたって開催。のべ273名の児童が参加したという。

多様性の尊重を体現する
"ナカノさん"

もう1つのプロジェクトは〈中野大好きナカノさん〉と呼ばれるものだ。人形作家・清水真理氏が制作した球体関節人形の"ナカノさん"を通じ、中野にしかない唯一無二の魅力をSNSなどで世界に発信している。

中野の本質的な魅力とは何か。それは「あらゆる個性を受け入れるまちであること」と酒井区長は言う。大正や昭和の時代にさまざまな地域から人が集まって形成された中野区は、平成に入ると毎年約3万人が転出入を繰り返すという、非常に流動性の高い地域だ。さらに現在は、約120カ国の人々が暮らすまちでもあり、非常に国際色豊かな地域といえる。こうした背景が、「あらゆる個性を受け入れるまち」の源泉となっている。

中野の魅力をフラットな視点で発信するために、人形という無垢な存在として"ナカノさん"を登場させたのが同プロジェクトのユニークな点だ。「多様性が強く語られる時代の中で、人形のナカノさんを1人の新しい仲間として認め、ナカノさんに中野の魅力を語らせることが"中野ブランド"の象徴となります」と酒井区長は言う。

「これこそが中野区民たちが誇るべき価値観であり、この時代に提示すべきメッセージだと考えています」。

具体的には、"ナカノさん"公式SNSを中心に、中野ならではの人やグルメ情報、風景などを発信している。また、中野区民や中野が好きな人、区内の協力店舗などに、手のひらサイズの"ちびナカノさん"をレンタルし、それぞれの視点から自発的に中野の魅力を発信してもらっている。

さらに2019年度からは〈中野が好きです会員〉もスタート。"ちびナカノさん"や"ちびナカノさんキーホルダー"を区内の協力店で見せると、各店舗オリジナルの「中野らしいサービス」を受けられる。会員からの自発的な発信を商店街とともに促進する取り組みだ。

「このプロジェクトの肝は、『ナカノさん』が中野区を宣伝する広報大使ではないという点です」と酒井区長は強調する。

「主役はあくまで地域住民や中野が好きで訪れてくれる方々。ご自分こそが広報大使だと思う方が増えてほしい」と期待する。

中野区と、区に本社や事業所を置く企業が連携したワークショップから生まれた、地域の子どもたちと商店街の新たなつながりをつくる企画〈トビコメ!! なかの商店街〉(1)。また、区民連携ワークショップとしては中野で育つ子どもたちの輝く個性の表現をテーマに〈なかのカラフルキッズ〉を開催。2日間でのべ273名の児童が参加した(2〜4)

"ゆるやかなつながり"を介した
健康で豊かな暮らしの実現

こうした取り組みをベースに、中野区では今後も区民、商店街、区内企業、そして中野を愛する人たちと連携して、官民協働でまちの活力をさらに高める取り組みを実施していく。酒井区長は「これまで地域とのかかわりが薄かった人も、ライフスタイルや関心に応じて参加できる"ゆるやかなつながり"を築ける場や機会を充実させたい」と語る。

「それによって、一人ひとりの健康で豊かな暮らしを実現し、協働・協創を育む土台を、さらに持続的で広がりのあるものにしていきます」。

中野区のシティプロモーションプロジェクトのひとつ、〈中野大好きナカノさん〉。中野の多様性に惹かれてやってきたという設定で、中野のさまざまな魅力を発信している

中野大好きナカノさん 公式SNS
instagram・twitter
@nakano_san_desu
facebook
@nakano.san.desu

中野区シティプロモーション概要ページ
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/nakano/d026778.html