青森県知事が語る 食・観光の成長が牽引、選ばれる青森へ

恵まれた自然環境が育む多様な地域資源を生かし、「経済を回す」取組の牽引役として、食と観光の成長をめざすほか、女性や若者にとっても魅力ある「しごと」の創出に力を注ぐ。「選ばれる青森県」の実現に向けた施策とビジョンについて、三村申吾知事に話を聞いた。

三村 申吾(青森県知事)

「攻めの農林水産業」で成果

――全国的にブランド産品の競争が繰り広げられていますが、青森県の「食」の強みについて、お聞かせください。

三村 青森県は津軽平野や上北地域の広大な農地、八甲田連峰や岩木山に代表される山々、三方を囲む海と陸奥湾からなる漁場など、多様で豊かな自然環境に恵まれ、農林水産業に適した地理的条件を備えています。

この恵まれた生産基盤から全国の生産量の半分以上を占めるりんごをはじめ、ながいも、にんにく、ごぼうなどの野菜、ブロイラーや豚などの畜産物、イカやヒラメ、ほたてなど、多様な農林水産物がバランスよく生産されており、このことが青森県の「食」の強みとなっています。

私は、未来へつながる「水」「土」「人」の3つの基盤づくりを進めながら、消費者起点に立った安全・安心で高品質な農林水産物やその加工品を生産し、強力に売り込んでいくという「攻めの農林水産業」を2004年度に打ち出し、生産者や関係団体などと一丸となって、この15年間、着実に取組を進めてきました。

この取組を通じて、りんご、にんにく、ほたては国内外から高い評価をいただいているほか、「津軽の桃」、「嶽きみ」、「風間浦鮟鱇」などのように、地域特有の環境や技術を生かして差別化を図った地域ブランド産品も数多く生まれています。こうした県産品は、本県のきれいな水、健康な土、高い志と確かな技術を持った生産者によって育まれています。

また、県産米で初めて「特A」評価を取得した「青天の霹靂」など、県産品全体をけん引する独自ブランドの育成や世界トップレベルの品質確保による輸出拡大など、競争力のある産地づくりに力を入れてきました。

県産米で初めて「特A」評価を取得した「青天の霹靂」

その結果、2017年の本県の農業産出額は、2015年から3年連続で3000億円を突破し、東北では14年連続で1位を堅持しており、「攻めの農林水産業」に取り組む前の時点を基準とする伸び率は20%を超え、全国トップクラスとなっています。

「農業で食える」環境を整えてきたことで新規参入も大幅に増えるなど、本県の新規就農者数は増加傾向にあり、雇用の創出にもつながっています。

――農林水産物のさらなる商品力・販売力強化に向けた施策について、お聞かせください。

三村 「攻めの農林水産業」は今年度から第4期対策がスタートし、労働力不足への対応を前面に打ち出しながら、「経済を回す」視点を重視し、国内外から認められ、選ばれる付加価値の高い産品づくりや販売力強化などを進めています。

本年6月29日には、食味の良さ、大玉果実、ハート形の形状といった優れた特徴を持つさくらんぼ「ジュノハート」が、待望の県内デビューを果たしました。これまでのさくらんぼにはない大きさや形を目にしたお客様が、驚きをもって手にとる姿を見て、私は更に大きな手ごたえを感じ、「青天の霹靂」に続く本県のトップブランドに育てあげていきたいという思いを強くしています。

味の良さ、大玉果実、ハート形の形状といった特徴を持つさくらんぼ「ジュノハート」

また、県産米をけん引する「青天の霹靂」の更なるブランド力強化に取り組むほか、酒米の「吟烏帽子」や、食味と品質を向上させた「新サーモン」など、新たなブランド化が期待できる産品の高付加価値化や評価・認知度向上を図っています。

流通・販売面では、スピード輸送と保冷一貫輸送を可能にした流通サービス「A!Premium」も活用した新たな販路の開拓やPRに戦略的・継続的に取り組んでいます。

今後も、生産者・流通関係者・消費者それぞれの信頼関係をより強固にし、国内市場の縮小や消費構造の変化などに対応した販売促進活動を展開していきます。

多彩で奥深い青森観光の魅力

――観光振興の取り組みについて、お聞かせください。

三村 本県には、日本の原風景がそのまま残された美しい自然、情緒溢れる温泉地、多種多様で高品質な農林水産品、地域に根差した生活・文化など、多彩で奥深い魅力があります。

また、観光のキラーコンテンツとして、世界遺産登録をめざしている北海道・北東北の縄文遺跡群もあります。この縄文遺跡群は、もともと欧州からの旅行者の評価は高かったのですが、当時の生活様式や祭祀、精神的活動を示す出土品の一つ一つが貴重であり、多くの旅行者にとって魅力的な観光資源になります。

縄文時代前期中頃から中期末葉の大規模集落跡「三内丸山遺跡」。北海道・北東北の縄文遺跡群は、世界遺産登録をめざしている

まずは、そうした数々の魅力を知ってもらうことが重要ですから、職員が汗を流して国内外で現地とのネットワークを築き、食と観光のPRに力を注いできました。その中から、特定の分野に造詣が深い職員のアイディアを生かしたユニークな旅行商品も生まれています。

職員が自分たちで県内の観光コンテンツを見つけてアイディアを出し、民間とも協力しながらそれを商品化する。そうした地道な取組のあり方は、国際定期便・チャーター便の誘致活動にも共通しており、本年7月からは青森空港と台北を結ぶエバー航空の定期便の就航が始まっています。

陸・海・空の多様な交通ネットワークを組み合わせた「立体観光」や道南とも連携した「広域・周遊観光」の推進が、交流人口の拡大と外貨の獲得につながっています。

青森県観光入込客統計調査によると、本県の観光消費額は2016年、2017年ともに、目標としていた1800億円を達成しました。また、2018年の外国人延べ宿泊数は過去最高の約29.6万人泊となり、2010年と比べて約5倍もの増加になっています。

青森県観光戦略(2019年~2024年)では、延べ宿泊者数の目標値について、これまでと同じ550万人泊に設定するとともに、観光消費額については、観光・物産を連動させた取組やインバウンド効果の獲得等によって、これまでの概ね10%増となる2000億円をめざしています。

青森県には、日本の原風景がそのまま残された美しい自然、情緒溢れる温泉地、地域に根差した生活・文化など、多彩で奥深い魅力がある。写真は、青森ねぶた祭(左上)、十和田湖(右上)、八甲田・雪の回廊(左下)、白神の森・遊山道(右下)

創業・起業の支援、
新産業の育成で雇用を創出

――創業・起業の支援や新産業の育成による雇用の創出に向けた施策について、お聞かせください。

三村 創業・起業の支援は、自らのアイディアや技能を生かした夢の実現をはじめ、ライフスタイルにあった多様な生き方・働き方を応援する取組であるとともに、雇用の創出や移住・定住の促進にも貢献する取組です。

本県は「創業・起業の青森」の実現に向けて、2006年度に弘前市内にインキュベーション施設「夢クリエイト工房」を設置して以来、県内8市への創業支援拠点の設置や創業支援の専門家であるインキュベーション・マネジャーによる伴走型の支援を行ってきました。そうした取組で意欲ある創業希望者を積極的に支援した結果、2016年度からは支援拠点を利用した創業者が3年連続で100名を超えています。

具体的には、ストリートダンススタジオを開設し、2号店、3号店と積極的な事業展開を進めている事例をはじめ、奥さんの出身地である弘前市に夫婦で移住し、東京で夢中になったボードゲームで遊べるカフェを出店した事例、育児の都合で実家のある三沢市にUターンして蓄積した知識やスキルを生かして統計・データ分析の会社を開業した事例などが挙げられ、経験や技術を生かして、夢を実現する方々が続々と誕生しています。

若者をはじめ、誰もが多様な分野で挑戦できる時代になりました。また、働き方やライフスタイルの多様化が進む中、本県が持つ子育てのしやすさや暮らしやすさは貴重な財産です。青森県は女性の社長が多く、県内企業数に占める女性社長数の割合は10.7%で、全国1位。起業者に占める女性の割合も高く、2018年度支援拠点利用者の36.5%となっています。今後、女性やUIJターンによる創業・起業は、ますます増えていくものと考えています。

また、新産業の育成や、県内企業のイノベーション促進に向けた取組も進んでいます。人口減少の進行に伴う課題解決に対応したライフ関連産業における新事業創出をはじめ、産学官金の連携強化や研究開発の促進、IoT等の技術革新に取り組んでいます。

ライフ関連産業では、「青森ライフイノベーション戦略セカンドステージ」に基づき、医工連携、サービス、プロダクトの3つを重点分野として、企業、医療機関、大学・研究機関、行政等との産学官の連携による産業創出に取り組んでいます。特に、青森発の美容健康素材であるプロテオグリカン「あおもりPG」は、関連商品の累計製造出荷額が2018年9月末現在で約197億円に達するなど、県内企業の参入が拡大しています。

生業と生活が好循環する地域へ

――県の将来像をどのように描かれていますか。

三村 私は、2003年に青森県知事に就任して以来、県民一人ひとりの豊かな生活を支える経済的な基盤となる「生業(なりわい)」づくりに重点的に取り組んできました。特に、本県の強みである農林水産業や観光分野などでは、地域の特性を生かした多彩な活動が展開され、本県の「生業」づくりの推進に大きな役割を果たしてきたものと考えています。

2019年度からスタートした「青森県基本計画『選ばれる青森』への挑戦」では、人口減少克服を最重要課題に位置付け、2030年時点のめざす姿として、「生業と生活が好循環する地域へ~世界が認める青森ブランドの確立~」を掲げています。

「青森ブランドの確立」とは、本県の多様な地域資源や、ここで暮らす私たち青森県民の日々の生活が、県外・海外から高く評価される状態、具体的には「買ってよし、訪れてよし、住んでよし」の青森県をめざしていくものです。

青森ブランドの確立に向けて、国内外に向けた「経済を回す」取組の更なる強化や、生活面での魅力づくりなどに取り組み、「買ってよし、訪れてよし、住んでよし」の青森県の更なる進展を図っていきます。

基本計画の名称に使っている「選ばれる青森」とは、農林水産品や観光をはじめ、本県の価値が国内外から「選ばれる青森」、若者から働く場所、生きる場所として「選ばれる青森」となることをめざしていく、という意味があります。

インターネットの発達に伴って、青森県と世界が直接つながる時代となり、青森県の価値を世界に届ける大きなチャンスが広がっています。青森県の多様性と可能性を生かし、県民の誰もが「ここに生まれて良かった」、「ここで暮らして良かった」と思えるような青森県づくりに向けて、積極果敢にチャレンジしていきます。

 

三村 申吾(みむら・しんご)
青森県知事