ベンチャー出身社長が老舗酒造を変革 若者が意欲的に働く酒蔵に
海南市に本拠を置く、創業91年目を迎えた平和酒造。ブランディングを行い、若者が働きやすい酒蔵に組織を改革し、高品質な日本酒・梅酒・ビールの蔵元として国際的な評価を得た。
和歌山県北部沿岸に位置する海南市。平和酒造は、なだらかな山々に囲まれ、稲作が盛んな盆地にある。南高梅、ユズといった和歌山の天然果実のリキュール「鶴梅(つるうめ)」シリーズで一躍その名を全国に馳せ、国外最大級の日本酒コンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」では日本酒「紀土(きっど)」が連続で受賞した実績を持つ。
和歌山の魅力を生かした
ひたすら美味しい梅酒
「家業を継ぐべく、和歌山県海南市の酒蔵に戻った私がまず着手したのは、高付加価値の自社ブランドの開発でした」。今や主力商品であり平和酒造の名を広めた大ヒット商品でもある「鶴梅」シリーズを開発するに至った経緯について、山本典正社長はこう話す。
山本氏は、京都大学を卒業後、東京のベンチャー企業で働いた後で、2004年に実家である平和酒造に戻った。この頃、平和酒造は紙パックの酒が製品の99.9%を占めていた。「言い換えると、大量生産・大量消費型の、低付加価値の商品がほぼすべてだったということです」。
酒蔵を残すには、高品質の酒造りに舵を切らなければならないと山本氏は考えた。まずは「和歌山に平和酒造あり」と認知してもらうことが重要だと、強みとなるものを模索した結果、「自社ブランドの梅酒造り」に行き着いた。
和歌山は、国産の梅の半分以上を生産する梅の産地だ。梅酒は、日本産のリキュールとして国内だけでなく海外でも人気が高い。しかし、和歌山でリキュールを造れるメーカーは少ない。平和酒造ではかつて紙パックの梅酒を生産していたため、社内にノウハウもあった。そこで、まずは高品質の梅酒で勝負することにした。
「我々のような地方の小さな酒蔵には、大々的なマーケティングを行うような体力も時間もありません。そこで、マーケティングが要らない、味で勝負した梅酒を開発しました」と山本社長はいう。シンプルに「ひたすら美味しい梅酒」を造ることに徹したのだ。
また、パッケージにも工夫を凝らし、梅酒が好きな女性の手に取ってもらえるデザインを考えた。「こだわって作った商品を売る際に留意すべきは、作り手の想いを押し付けるようなパッケージにならないよう気をつけること。大切なのは消費者がどう感じるか」。女性も気軽に手に取りやすい、やわらかさやポップなイメージを、スポンジ生地のラベルで巧みに表現した。
こうして誕生した「鶴梅」シリーズは、幸運にも発売後すぐに梅酒ブームが始まったこともあり、今や平和酒造の主力商品となっている。2018年には人気チョコレート菓子「キットカット」とのコラボ商品「キットカット 梅酒 鶴梅」もリリースされ、話題となった。
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