ファッションの力で、ライフスタイルの新たな可能性を開く 変化を成長機会に変えるアパレルとライフスタイルの両輪経営

気候変動による市場環境の変化、消費者価値観の多様化という環境下で、創業から74年を迎えたクロスプラスが新たな成長構想を描いている。「ファッションの力で、ライフスタイルの新たな可能性を開く」。同社が目指すのは、アパレル事業の収益力を高めながら、ライフスタイル事業を第二の柱として確立する両輪経営だ。年間2万デザイン、在庫30回転という短サイクルのビジネスモデルからの知見を武器に、地域連携や異分野での事業など「飛び地」への挑戦をもしながら成長を遂げ続ける同社。変化を成長機会と捉える経営哲学と、2028年に向けた事業構想について、代表取締役社長の山本大寛氏に聞いた。

山本 大寛(クロスプラス 代表取締役社長)

 

年間2万デザインを生み出す企業

―クロスプラスとはどのような企業なのか、事業の特徴について教えてください。

「私たちは、年間2万デザイン、5000万枚の衣料品を扱うアパレル卸売を中核とする企業です」と山本氏は説明する。1951年創業、売上高620億円。専門店、量販店、EC、百貨店など約350社の得意先に商品を供給している。

同社の特徴は、圧倒的な商品の回転速度だ。在庫は年30回転、つまり2週間で商品が入れ替わる。「女性服のトレンドは毎年変わります。白シャツの色合い、ドットの大きさや配置まで。この変化に対応するため、企画から販売まで2、3か月というリードタイムで取り組んでいます」。

各事業部は20から30名規模で、ディビジョン長に大幅な権限委譲を行う。

「現場に権限を委ねることで、迅速な意思決定を可能にしています」。

この機動力が、変化への対応力の源泉となっている。

ファッションの力で拓く新構想

―なぜ今、「ファッションの力で、ライフスタイルの新たな可能性を開く」という構想を掲げるのでしょうか。

2026年1月期第2四半期決算は売上高292億円と前年同期比微減ながら、営業利益9.3億円の増益を達成。この数字の背景には、同社が捉える構造的な環境変化がある。

「夏が長期化し、従来の40対60だった夏冬の売上比率が、今では46対54程度にまで変化しています。8月初旬から秋冬商品を並べていた時代から、10月頭まで半袖を販売する時代へ。この1か月半のシフトは、私たちのビジネスモデル全体の進化を促しています」。

消費者の購買優先順位の変化も重要な要素だ。

「衣食住の中で「食」「住」が先、衣料品は後という現実を踏まえながら、いかに価値を提供するか」。こうした環境下で同社が掲げたのが、「ファッションの力で、ライフスタイルの新たな可能性を開く」という構想だ。「前中期経営計画では幅広くライフスタイル領域を模索しましたが、現在はファッションの力を活かせる領域に絞り込んでいます。アパレル事業で培った企画力と変化対応力を武器に、ライフスタイル領域でも価値を創造していきます」。

 

目指すべき企業像中期経営計画 目指すべき企業像

 

両輪経営を実現する3つの戦略

―2028年に向けた中期経営計画の具体的な戦略について教えてください。

2028年1月期に売上高680億円、営業利益20億円、ROE9.0%以上を目指す同社。その実現に向けて3つの事業戦略を推進している。

第一は、アパレル卸売の収益力強化だ。専門店チャネルを300億円から330億円へ拡大し、機能性ブランド「CROSS FUNCTION」を100億円規模に育成。さらにメンズカテゴリーを10億円から30億円へと成長させる。「アパレルは安定収益の基盤。ここをしっかり強化します」。

第二は、ライフスタイル卸売の事業確立。現在28億円の売上を50億円まで拡大する計画だ。シーズン、ヘルスケア、ビューティー、ファッション雑貨の4カテゴリーを確立し、ドラッグストアやバラエティストアという新販路を開拓する。「気候変動リスクの分散と新たな成長エンジンとして育成します」。

第三は、アパレル・ライフスタイル商品の小売・EC事業拡大。EC売上を50億円まで引き上げ、自社ブランド「for/c」「NORC」の認知度向上に注力する。アパレルとライフスタイルを軸にした両輪経営で、安定性と成長性の両立を図る。

変化対応力を生む組織の仕組み

―変化対応力を支える組織運営の特徴は何でしょうか。

同社の変化対応力を支える仕組みの一つが、年間300から400件のアイデア提案制度だ。その中から10件程度が商品化される。「『スモールウィン・ファーストウィン』という考え方を大切にしています。小さく早く始めて、成果を見ながら拡大する。この積み重ねが重要です」。

成功事例として、ミドル世代向けの機能性パンツ、低温やけどの心配がない腹巻きベルトなど、社員の日常的な気づきから生まれた商品がライフスタイル事業の柱に育っている。

 

キープガード
ミドル世代向けの機能性パンツ キープガード
温活ベルト
温活ベルト

 

DXの推進も変化対応力を高める。「BIツールを活用したデータ分析、サンプル作成の3Dモデリング活用など、デジタルを使って業務を効率化しています」。2025年7月には101名の社員に譲渡制限付株式を付与し、社員の挑戦意欲を高めている。

飛び地から生まれる新たな価値

地域連携や異分野への展開など、本業から離れた「飛び地」への挑戦はどのように進化してきたのでしょうか。

「飛び地だからこそ得られる気づきがある」と山本氏は語る。同社の飛び地への挑戦は、計画的な戦略と偶然の出会いが織りなす独特の展開を見せている。

東北地方で展開するドラッグストアチェーン・薬王堂との協業は、商談から生まれた新たな展開だった。「人口1万人未満の小商圏で必要とされる衣料品とは何か。対話を重ねる中で、店頭販売商品に留まらず、店舗従業員ユニフォームを共同開発するという新たなプロジェクトへと発展しました。最初からビジネスにすることを狙ったわけではなく、お互いの課題を共有する中で自然に生まれた取り組みです」。

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クロスプラス、薬王堂で共同開発した店舗従業員ユニフォーム

 

北海道東川町との連携も、当初の商品開発から発展し、現在は社員研修の場として活用。岐阜県海津市では、物流センターの社員が自発的に子ども向けTシャツ作成イベントを企画した。「物流センターという、本社から離れた場所にいる社員が、自ら地域と社内を結びつける。こうした自発的な取り組みが組織全体に広がっています」。

児童発達支援事業「ディスカバリープラス」も、自社ビルの活用という縁から始まった。現在12教室まで拡大している。「アパレルとは全く異なる飛び地ですが、離れているからこそ、新たな視点と価値が生まれるのです。出会いを大切にしながら、そこから学びを得る。これが私たちの飛び地への向き合い方です」。

100年企業への構想

―創業100年に向けて、どのような企業像を描いていますか。

「10年先の市場を予測するより、どんな変化にも対応できる人材を育てる。成功パターンに固執せず、常に新しいことに挑戦できる組織文化を醸成することが、私の使命です」。

同社は自社成長に加え、M&Aによる事業拡大も視野に入れる。すでにアイエスリンクの買収でビューティー領域を強化した。2028年1月期にDOE2.5%を目指し、株主還元も強化する。

「変化の激しい時代において、変化を楽しむ姿勢こそが成長の鍵となります。地域との対話から新たな価値を生み出し、社員一人ひとりの挑戦を支援する。その積み重ねが、私たちのコーポレートスローガン『いつもの毎日に、彩りとよろこびを―Be Colorful,Be Happy!』という価値の提供につながると確信しています」。

気候変動、消費者価値観の多様化、デジタル化。あらゆる変化を成長の機会と捉え、既存の枠組みを超えた挑戦を続けるクロスプラス。アパレルとライフスタイルの両輪で描く成長構想は、日本のファッション業界に新たな可能性を示している。

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山本 大寛(やまもと・ひろのり)氏
クロスプラス株式会社 代表取締役社長