2019年5月号

クールジャパン実践プロジェクト

「訪れたくなる地域づくり」新事業を事業構想大学院院生が提案

月刊事業構想 編集部

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事業構想大学院大学は、2019年3月5日、クールジャパンをテーマにしたシンポジウム「訪れたくなる地域づくりへの新展開」を福岡市・よみうりプラザにて行った。同大学院の教員・院生による長崎県壱岐島における新事業提案、地域プロデュース人材の育成について議論した。

事業構想大学院大学は平成30年度、内閣府から「クールジャパン地域プロデュース人材の効果的な育成に係る実証調査」の委託を請け、同大学院の青山忠靖客員教授と福岡・東京・大阪の各校の院生が壱岐島において取り組んできた。

青山忠靖客員教授

シンポジウムは、青山客員教授によるプロジェクトと活動の概要の説明でスタートした。続いてプロジェクトに参加した8人の院生それぞれが壱岐島における新事業を提案。その後のパネルディスカッションへと続き、参観者も交えた活発な意見交換が行われた。

ターゲットは
タイのインバウンドを想定

「クールジャパンプロジェクト」は、壱岐島の地理的なポジショニングから、利便性と観光導線が圧倒的に集中する大都市圏福岡を巻き込んだ事業構想を考えるという方針で進めてきた。

グローバル視点の事業構想では、今年2月にLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)が福岡空港からタイへの直行便を乗り入れたことから、タイからの観光客をターゲットにした。

LCCのライオン航空が福岡~タイの直行便の運行を開始した。 出典:Sabung.hamster / Wikipedia

同大福岡校の加納大氏は、大分県別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)のタイ人卒業生とコラボレーションを提案。卒業生には350万人のフォロワーを持つタイ人女優や、登録者数26万人のタイ人ユーチューバーがおり、彼らと壱岐島を訪れるツアーなどを提案した。青山客員教授からAPUの在学生との具体的な連携の仕方について質問され、加納氏は「机上の空論にならないように学生と共に壱岐島を訪れてフィールドスタディを行い、そこで得た情報をもとに企画した観光ツアーを旅行会社に提案したいと思います。社会人学生と現役大学生の視点を生かして、訪日外国人を対象とした新しい観光をめざしたいです」と答えた。

加納大(福岡校)

青山客員教授は昨年12月に実施したタイ人女性とのグループインタビューで、「タイ人はわざわざ日本まで行って海なんか見ない」という意見が出たことを話し、壱岐の海岸で行うコスプレ撮影イベントを提案した、東京校の院生でタイ人のロークニヨム・チャッチャイ氏に意見を求めた。

ロークニヨム・チャッチャイ(東京校)

チャッチャイ氏は、「タイ人にとって海は特別なものではありませんが、年中暑いタイと違い、日本の海には四季があります。実際に壱岐で見て感動しましたが、誰一人としていない冬の美しい砂浜はタイではあり得ない。タイにはない海を体験できることをアピールすれば興味を引き出せると思います」と述べた。

清石浜(壱岐対馬国定公園)。冬の海は透明度が高く見映えがする。タイでは海に人が大勢いるというのが当たり前なのに対し、だれもいない海辺の砂浜は貴重で、訪れたくなる場所である。

LGBTや海女さんが
クールジャパンの枠を広げる

斬新な切り口の事業提案もあった。それは、東京校の岡本享大氏が提案した「LGBTツーリズム事業」である。LGBTは可処分所得が高く、購買意欲も旺盛と言われており、近年LGBTツーリズムは世界的に注目を集めている。岡本氏によるとその市場規模は22兆円、旅行者数全体に対するLGBT旅行者が占める割合は10%。タイはLGBTが多いことで知られており、その割合はタイの人口の2割を超えるという説もあるという。

岡本享大(東京校)

ITB Berlinが2014年に発表した調査結果では、LGBT旅行者が好む旅の要素は、「温暖な気候・ビーチ・文化・食事」で、壱岐島の観光資源と合致する部分が多い。岡本氏は、LGBT旅行者に人気が高く、壱岐島との親和性が高い、雄大な自然を背景にウエディングフォトを撮影するツーリズムを提案した。

青山客員教授の「LGBT旅行者を誘致するうえで何が必要か」という問いに対して岡本氏は、「まずはLGBTに対する人々の理解が必要だと思います」と述べ、島民の理解を促進するため、手始めに福岡県がLGBTフレンドリーなまちづくりのために出している『おもてなしレインボーガイドブック』を読むことを提案した。

世界の潮流として、LGBTへの理解が進んできており、ツーリズムへの需要も拡大している。出典:AdoboeStock

東京校の関直彦氏は、日本人から親日的と思われているタイ人が、実際に日本をどう捉えているのか、タイ人約20人と、タイの駐在日本人やタイで起業している日本人などにインタビューを行った結果を報告した。

関直彦(東京校)

タイの人々が親日的であることに変わりはないが、日本への関心や日本の影響力は低下しているようで、関氏は、「タイの人々が関心を持っているのは、クールジャパンのコンテンツではなく、コンテンツを生み出す背景にある日本や日本人の本質的な部分です。海外の人々と日本人の感覚はかなり違うので、相手の話をよく聞き、相手が関心を持っているところを探り出し、それを日本の価値としてわかりやすく言語化して提供していく必要があると感じました」と話し、「海の最高レストラン」の構想について次のように語った。

「壱岐の海女さんは素潜りで漁をします。それは、利益を優先して海を荒らすようなことはしないという信念があるからです。そういう信念を持った海女さんが採った新鮮な食材を提供するレストランを作れば、サスティナブルな社会を実現するヒントになります。バンコクでは公害問題が深刻化しているので、そういう料理なら少々高くても口にしたいと思う人は多いと思います。本物のクールジャパンとはこういうことではないでしょうか」。また、その見えない価値を表現する1つにアートがあり、壱岐の現代アーティスト(グウナカヤマ氏)や壱岐を題材にイラストを描くヴァンサン・ルフランソワさんとの連携も提案した。

青山客員教授は、「この提案から、ストーリーをうまく作ることでクールジャパンが新しいジャンルに広がっていく可能性を感じます」と述べた。また、内閣府知的財産戦略推進事務局参事官補佐の滝本陽一氏は、「関さんがお話されたとおり、どういうところがクールなのか本質を見出し、それをストーリー化して伝えなければ共感は得られません。そういう意味で言えばLGBTも、宗教などの多様な考え方を受け入れる日本人の気質に合う可能性があり、クールジャパンのビジネスになり得ると言えるでしょう」と話した。

滝本陽一 内閣府知的財産戦略推進事務局参事官補佐

デザインの力で
街並みや特産品をブランド化する

大阪校の山脇克孝氏は、➊景観をアートする、➋原の辻をアート空間に、➌六次産業化デザインという3つの視点でイメージを視覚化してみせた。

山脇克孝(大阪校)

➊「景観をアートする」では、音を奏でるメロディーロードの設置や、太陽光の紫外線を吸収し、夜間に発光する特殊な微細粒子を道路やマンホールに採用することで、アーティスティックな空間を演出すると同時に、街灯が少なく危険な島の道路事情を改善できるとした。

➋「原の辻をアート空間に」では、周囲に高い障害物のない原の辻遺跡の広大な敷地をイベントなどに積極的に活用する提案で、壱岐に自生する竹を材料に使い、デザインを施した凧を上げるアートカイトフェスや、古事記に登場する壱岐の島の伝説をモチーフにしたドローンのインスタレーションのイベントのアイデアを視覚化した。

山脇氏は、「壱岐には港町ならではの素晴らしい街並みや町屋が残っています。それをフラッグやのれんなどのデザインの力で、アーティスティックな雰囲気を味わえるストリートに演出するなど、魅力的な空間を作るアイデアはたくさんあります」と話した。

港町でアートフェスを開催したときのイメージ図(CG)。 出典:山脇(大阪校)作成

➌「六次産業デザイン」では、壱岐の特産品を島内外に売り込み、雇用拡大や収入安定につなげるアイデアを提案した。

島の食材はそのまま販売せずに、例えばアスパラのピクルスやアスパラディップのように、ひと手間加えた加工商品を作る。また、豊かな湧水を利用した壱岐焼酎のボトルに長崎のギヤマン製アートボトルを採用するなど、島の特産品をブランド化して価値を高めるアイデアを提案。

地産品にはロゴをあしらい、統一感を持たせて島内外にプロモーションしていくことで壱岐島をPRしていく。英語の表示もつくり、海外の方にわかってもらう形にした。(月刊事業構想2019年4月号P.119にデザインを掲載)

青山客員教授は、「島内では加工品を入れる瓶の調達にコストがかかり単価が上がることが課題でした。それならばと、思い切り高い単価で売れるものにしようと考えて、アスパラのピクルスやギヤマンの焼酎という挑戦的な施策になりました。特に、壱岐の焼酎には、スコッチ、シングルモルトのような熟成した味わいがあるものがあることを発見しました。このパッケージであれば、仮に1本1万円以上でも売れると予想されます」と説明した。

社員研修やDIYの企画で町の復興や
事業創出を担う人材を呼び込む

「ビジネスとプロモーション」という視点の事業構想では、まず、福岡市にアンテナ ショップを開く提案をした福岡校の藤田知子氏が、壱岐に本店を構える「モカジャ バカフェ」の福岡市の姉妹店「モカジャバカフェパークサイド」に地域密着型アンテナショップ機能を持たせる狙いを、「壱岐にはモカジャバカフェのような、女性の消費層が好みそうな趣のあるお店がノスタルジックな通りに点在しています。アンテナショップは六次産業品のPRはもとより、壱岐を訪れたくなるレアな情報を発信するキーになると思います。」と話した。

藤田知子(福岡校)

大阪校の江川健太郎氏は、「実際に行ってみて思ったが、壱岐島には、豊かな自然に加え、歴史や文化的な背景もある。まさに地方のDMO(Destination Management Organization)につきつけられた課題がそのままそこにあると感じた」。そこで提案したのは、壱岐に社員旅行を誘致してビジネスマンを呼び込み、過疎化の実態にふれ、地域創生の復興モデルをリアルにつくる事業構想や、DIYに関心がある層を呼び込み空き家再生DIYで民泊を作る事業構想だ。江川氏は「自分たちが行くことで発見できたように、ビジネスマンと現場をつなぐ作業ができないかと思った。一石を投じられたらとおもって提案しました」と述べた。

江川健太郎(大阪校)

最後に福岡校の岡田智広氏が、壱岐市を「ゼミ合宿」の聖地にするプランと、壱岐と縁の深い東洋大学の創設者で日本の近代「妖怪学」の先駆者でもある井上円了から着想を得た「勝本浦『おばけタウン』構想」を発表。岡田氏は、勝本浦が江戸時代に捕鯨で栄えた街であることを踏まえ、「訪れて感じたのは、当時のロマンが蘇る、そんな街並みが残っていること。歴史の文脈をストーリー化していくことができれば、そこから色々な構想を展開していくことができます。実際に、碑文などで昔あったことが、きちんと残されており、こうしたエビデンスがあると、来た人は実感が湧いてくるのではないかと思います」と語った。

岡田智広(福岡校)

井上円了(1858年-1919年)。仏教哲学者、教育者。哲学館(現:東洋大学)を設立した。また妖怪を研究し『妖怪学講義』などを著した。
出典:Fichier fourni directement et pour publication sur Wikipedia par l'Universite Toyo(Tokyo), proprietaire du cliche / Wikipedia

青山客員教授は、「近現代史の文脈で壱岐島を見ると、石碑や砲台など、歴史的に価値のあるものが、他にもたくさん残っていることがわかりました。こうしたものをうまくストーリー化できれば、壱岐のクールジャパンになり得ます」と指摘した。

地域プロデュースの事業立案
肝は地元民とのコミュニケーション

地域には、食、観光、物品とさまざまなコンテンツがあり、地域プロデュースではそれを横につなぐ連携が重要になる。滝本氏は、内閣府がそうした人材育成にスポットをあてた取り組みを始めたのは一昨年前からで、さまざまな大学の観光学部がプロジェクトを行っているが、ビジネスにつなげるという観点が不足していることが課題となっていると説明。「事業構想大学院大学の院生はビジネスの観点を持った様々な分野の人間が集まっているので期待はしていましたが、実質的に3カ月という短い期間でよく具体的な構想までもってきたなと思います。今回特徴的だったのは、院生のみなさんが自ら現地を歩き、地元の方々と話をしたうえで、「外」の目線でコンテンツを発見・生み出しているところです。そこが肝になっているのではないかと思いました」と話した。

最後に青山客員教授が「反省すべきは、後半の期間、作業に没頭しすぎて壱岐のみなさんに接する時間が足りなかったことです。新年度はじっくり腰を据えて関係性をつくりながら進めていきたいと思います」と、プロジェクト継続の意欲を示してシンポジウムは終了した。

シンポジウムの様子。来場者からも活発な意見が出された。

本稿の関連記事として、前号・月刊事業構想2019年4月号p.117-125に、記事「壱岐島アートフェス構想」「クールジャパン地域プロデュース人材養成教育プロジェクトの実践」が掲載されています。 また、内閣府および事業構想大学院大学ホームページにて本プロジェクトの報告書を掲出予定です。
●内閣府知的財産戦略推進事務局 クールジャパン戦略
 https://www.cao.go.jp/cool_japan/
●事業構想大学院大学 https://www.mpd.ac.jp/
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