システム共同化で地域を活性化 新潟県三条市

新潟県で全国一の業務規模、人口格差を含んだ5自治体による、情報システムの共同化が実現。それは、大幅なコスト削減とともに、住民サービス向上や庁内の働き方改革にもつながっている。プロジェクトの先導役となった三条市は、「大きな壁」を乗り越え、共同化を実現させた。

國定 勇人(三条市長)

システム共同化でコストが半減

多くの市町村が厳しい財政状況や人員不足に直面する中で、複数の自治体によるシステム共同化は、大幅なコスト削減や職員の働き方改革を促進する手段になり得る。

新潟県では、5自治体(三条市、長岡市、見附市、魚沼市、粟島浦村)、人口約47万人が住民情報系システムの共同化を実施。各自治体のシステム更新時期に合わせ、2015年1月から順次新システムの稼働が始まっている。

それは大きな成果をあげており、5自治体が個別にシステムを10年間(2015年~24年)利用した場合、93億円のコストがかかるのに対し、共同化後のコストは新サービスを含めて47億円と、約50%もの削減となる。

この実績により、共同化は財務会計や電子申請など他の10システム(行政が利用するほぼ全てのシステム)へと波及している。

5自治体によるシステム共同利用では、対象業務が42業務という全国一の規模であり、また、人口約28万人の長岡市と人口約350人の粟島浦村という、全国一の人口格差の自治体が連携して実現された。数々の困難があった共同化のプロジェクトを主導したのが、三条市だ。

図 システム共同化の成果

出典:三条市・資料

 

「共同化への大きな壁」を突破

三条市の國定勇人市長は、「システムの共同化は必然でした」と語る。

「法で規定する住民記録や税業務等は、規模の相違はあっても、どの自治体もほぼ同様の業務を行っています。そのため、極論を言えばシステムは全国で1つあれば良い。今、国も地方自治体も財政状況が厳しい中で、多様な住民サービスが求められています。それを考えると、基礎的な情報システムでコスト削減をするのは不可欠であり、共同化は必然なのです」

そうした強い思いを持つとともに、三条市はシステム調達・運用に係る豊富な経験を有していたことから、共同化推進の先導役となった。しかし、共同化の実現には大きな壁があったという。課題となったのは、自治体職員の意識だ。三条市が他の自治体に共同化を呼びかけたところ、多くの市町村の職員から不安の声があがった。

「今まで自分たちが携わってきた事務が変化することへの拒否感や、新しいシステムに直面することへの不安感が根強く、職員から『現状システムで問題がないのに、わざわざ余計な作業を増やしたくない』といった声が届きました」

最終的に共同化のプロジェクトは、コスト意識の高かった5自治体が参加。それが実現に至ったのは、5自治体が一斉に新システムに移行するのではなく、時期が異なっても参加できるようにしたことが大きいという。

「システムは、あらかじめ更新時期を見越して計画が組まれていますから、途中で変更すると問題が生じます。5自治体が一斉に切り替えるのは難しいため、各自治体の実状に応じて、順次、新システムに参加できるようにしました」

また、國定市長によると、その5自治体に首長同士の信頼関係があったことも後押しになったという。

「首長のリーダーシップの点で言うと、シンプルな物の理(ことわり)を信じ、それを実行できるかどうかが重要です。できない理由はいくらでも挙げられますし、各自治体の業務機能に差異はありますが、それは全体から見れば些細なもの。システムは、ユーザーが増えれば増えるほど、単位コストが下がりますから、個別にやるよりも共同化したほうが効率的なのは当然です。そうしたシンプルな物の理の中にこそ、真実はある。その直観を信じ、愚直にやり抜くことが大切です」

さらに、國定市長は「職員が血税意識を持つことが大事」と語る。

「住民の血税であることを考えると、共同化をやらない理由はありません。共同化に反対する職員やシステム業者はいても、反対する住民はいません。住民のために信念をもって取り組み、共同化の輪を広げていきたいと考えています」

図 システム共同化に至った背景

出典:三条市・資料

 

住民サービスの向上につなげる

5自治体はシステムの共同化により、管理運用に必要な人員や業務負担を軽減するとともに、行政区域を越えた業務の標準化も可能になった。それは、前述のように大幅なコスト削減につながるとともに、そこで浮いた資源を活かして、住民サービスの向上が進められている。

三条市はマイナンバー関連サービスの充実のほか、各種窓口での受付を便利にスピーディにするための仕組みを整備している。

また、庁内での働き方改革も進む。三条市は、行政や学校の職員の出退勤管理にマイナンバーを活用する取り組みを全国に先駆けて実施しており、管理職は所属職員の勤務状況を把握して健康管理を行っている。

國定市長は、職員に対して「自ら積極的に動き、経験の幅を広げてほしい」と語る。

「平日は同じような生活パターンになりがちですから、土日は、いつもの組織から離れて知らない人と交流したり、行ったことがない場所に行ったり、体験したことのない趣味に挑戦したりして、経験の幅を広げないと組織の情報量は増えていきません。その経験がすぐに活かされなかったとしても、その積み重ねは、もしかしたら5年後に新たな引き出しとなるかもしれない。

仕事で新しいことに挑戦する場合、経験のストックがあると対応能力は違ってきます。働き方改革で生まれた時間を、自分にとって実のあるものにできるかどうかは、職員一人ひとりにかかっていると考えています」

ICTが効率化を実現し、人の活躍を支える。新潟県5自治体によるシステム共同化は、新たな住民サービスが生み出される基盤となっている。