漁業にAI、後継者不足を救う 漁師の勘と経験をデータ化

漁業の現場で受け継がれてきた、漁労長の勘と経験をAIで「見える化」。長崎県佐世保市のベンチャーが、本来は表に出ることがない個々の漁業者の「操業日誌」をデータ化し、日本の水産業を変えようとしている。

水上 陽介(オーシャンソリューションテクノロジー 専務取締役)

日本有数の漁業県・長崎。しかし、日本の他の一次産業と同じく、漁業従事者は減少しており、水産業は苦境にある。

「長崎県の水産業従事者は約9000人と言われていますが、2030年には約3000人に減少すると予測されています」

そう語るのは、オーシャンソリューションテクノロジー(佐世保市)の専務、水上陽介氏だ。深刻化する漁業の後継者不足に歯止めをかけることが今、急務であり、同社はAIを活用してその課題を解決しようとしている。

漁労長の勘と経験を
AIで「見える化」

漁業の水揚げ量は、漁を指揮する「漁労長」の勘と経験に頼る部分が大きい。

「現在、漁労長の6割が55歳以上です。そして、若い人に勘と経験を伝えるには20年かかると言われます。ベテランが引退して若手が指導を仰げなくなった時、AIがそれをサポートする。いわば、AIを漁労長の分身にする。そうした目的で、オーシャンソリューションテクノロジーを立ち上げました」

オーシャンソリューションテクノロジーは2017年12月、水上氏を中心に設立され、現在、「トリトンの矛」と名付けたAIシステムの構築を進めている。そのために欠かせないのが、漁労長などが付ける操業日誌だ。

漁業のAIシステム「トリトンの矛」は、ピンポイントで漁場提案を行う。ベテラン漁師であれば行くであろう場所、過去によく獲れた場所、あまり獲れなかった場所をデータで提示し、若手漁業者へのスムーズな技能継承も可能にする

「過去の操業日誌に記載された漁場や漁獲量のほか、何を根拠にその漁場に狙いを定めたのかをヒアリングし、データ化しています。さらに、月や潮の満ち引き、天候、海流などのデータをAIに入れ、各データの関連性を分析し、翌日の海洋気象情報と照らし合わせて推奨される漁場を割り出します」

AIが選定した漁場が、漁師の予測や判断と違う場合もある。

「AIに従うのではなく、例えば、3、4ヵ所の漁場を迷った時に、AIと相談する。協力しサポートするためのシステムです」

乱獲を防ぎつつ、収益力を向上

このAIシステムは単に、魚が多く獲れる場所を教えるものではない。それでは、漁業問題の抜本的な解決にならないからだ。

「現在、水産資源管理は都道府県ごとに行っていて、全国の連携がうまくとれていません。また、魚が多く獲れすぎると単価は下がり、結局利益が出ないことになります」

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