2018年3月号

大企業×ベンチャー 共創の成否

元マツダ副社長が牽引する地域ファンド 地場企業を劇的に成長

尾﨑 清(ひろしまイノベーション推進機構 代表取締役社長)、串岡 勝明(広島県商工労働局イノベーション推進チーム担当課長)

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優れた技術を持つ地場企業がポテンシャルをいかせず、場合によっては廃業している。これは地域にとって大きな損失だ。「ひろしまイノベーション推進機構」は、地域に根差しているからこそできる支援によって、地場企業のイノベーション創出で成果を上げている。

尾﨑 清 ひろしまイノベーション推進機構 代表取締役社長

イノベーション立県を目指す広島県。同県では、シリコンバレーなどを参考に、新しいイノベーションを生んでいくための社会システム作りを進めており、その一翼を担うのが、地域発県民ファンド「ひろしまイノベーション推進機構」である。105億円からなる投資ファンドで、40億円を県が出資、残りを金融機関や中小企業基盤整備機構等が出資したグロースキャピタルである。ベンチャーキャピタルのように草創期のベンチャー企業を投資対象にするのではなく、イノベーションを通じ、新たな成長を目指す「広島県内」の企業を投資対象としている。

ひろしまイノベーション推進機構で代表取締役社長を務める尾﨑清氏は、マツダで代表取締役副社長兼CFOを経て、同機構に参画した人物。尾﨑氏は、「広島県が40%出資している地域のファンドなので、売上を伸ばすとともに、地域の雇用を増やし、出資者もリターンを得られるよう運営しています」と地元への貢献が前提にあると話す。

図 事業ステージ別にみた投資対象

一定の事業化後、更なる成長のために資金および経営資源を必要としている成長企業や、再成長のために革新的な経営要素を探索している企業などを投資対象とする。

出典:ひろしまイノベーション推進機構

成長資金供給+αが鍵

地場企業にとって、新しい取り組みを行う場合、投資よりも融資を受けることが一般的だ。投資を受ける側にとって、結婚に例えられるほど投資をする側と密な関係を築くものであることに加え、投資をする側にとっても資金を回収するための目利き力が求められるからだ。ひろしまイノベーション推進機構では、投資によって資金を供給するだけではなく、地域に密着しているからこそ可能な支援を行っている。

「投資先を探すときには、足繁く通うことで、相手方の信頼を得られるようにしています。そして、投資した後は、広島県内の地場企業が抱える事業承継や分散株式の集約などといった経営課題にも、共に汗を流して向き合い、ハンズオンで支援を行っています」

また、ファンドである以上、最適な戦略パートナーを探し、エグジットしなければならない。その過程で、県外企業に株式を売却することについて、疑問の声が上がることもあったというが、「当然、我々は広島のファンドなので、雇用の確保や拠点の維持などをお約束した上でエグジットしています。株主が誰かということは重要ではありません。『広島県の経済に貢献できるか』が、キーワードだと思っています」と、尾﨑氏は語る。

最初にエグジットしたサンエーの事例を紹介する。広島県三次市に本社を構える同社は、投資時に約1億円だった売上が6億円以上、従業員数も約70名から約120名まで成長。その後、大阪に本社を構えるクリヤマを引受先としてエグジットした。クリヤマは資金や販売網を保有している一方で、サンエーは今後クリヤマが注力したい尿素SCRシステムに搭載が義務付けられる尿素水識別センサーの技術を保有しているけれども、追加の研究開発資金と設備投資資金が底をつきかけている状況だった。そこで、売上を拡大し、更なる成長を促すために、ひろしまイノベーション推進機構が間に入ったのだという。現在では、サンエーの売上は当時の数倍にまで拡大しており、地域経済に大きく貢献している。

尾﨑氏によると、昨年末で投資期間は終了し、これからは投資している会社の成長のためのハンズオン支援を強化、エグジットがメインとなるという。一方で、「実績レベルでは50億円を超える投資実績もあるので、過去投資したものの総括をしながら、投資先企業の成長を確実に進めていきたいです」と、今後を見据える。

イノベーション立県へ向けて

広島県は、自動車や造船関連産業を中心に、中小・中堅企業の層が厚く、製造品出荷額が中四国九州で最大の"ものづくり県"だ。それだけではなく、100円ショップのダイソーや洋服の青山商事、カルビー(現在の本社は東京)といった、イノベーションを生み出し、世界に打って出た企業を数多く輩出してきたという土壌がある。

そのような中、2009年に湯﨑英彦知事が1期目に当選する際のマニフェストとして" 広島版「産業革新機構」の設立"を掲げ、これが現在のひろしまイノベーション推進機構の起点になった。2010年10月には、「ひろしま未来チャレンジビジョン~県民の力とイノベーションで未来をつくる~」を策定し、イノベーションによる経済成長を施策の柱に据えている。

串岡勝明 広島県商工労働局イノベーション推進チーム担当課長

広島県商工労働局イノベーション推進チーム担当課長の串岡勝明氏は、ひろしまイノベーション推進機構を、県が主導して作った理由を次のように説明する。

「イノベーション立県を掲げている本県としては、イノベーションエコシステムを地域に作っていきたいと考えています。経営人材の育成・獲得や『イノベーション・ハブ・ひろしまCamps』という場づくりも行う中、ファンドという、イノベーション創出には必要であるけれども地方にはあまりないものを地域で実現するために、県が前に立ってファンド会社を作り、105億円というお金を集めるスキームを作りました」

行政主導のファンドは全国的にも珍しいが、「県の信用をベースにしながら民間の資金を入れ、グロースのタイミングで成長支援を地域で取り組むことができています。数打てば当たるというファンドもあると思いますが、県が出資するファンドとして、しっかりとした資金を出して、取締役などを派遣して、ハンズオンで一緒に成長していくスキームができています」と、成果を生み出していく仕組みを分析している。当初は、地域や議会において、ファンドという言葉に馴染みがないばかりか、リーマンショックをはじめとした金融のニュアンスで、ハゲタカファンドであるなど、ネガティブに捉えられることもあったという。しかし、ファンドは仕組みであることを説明し、実績を作ることで地域に受け入れられていった。

日本の潜在力は地方にこそある。大手企業とベンチャーの共創のみならず、潜在力を持った地場企業と有力企業の共創、そしてそれを支える資金的な仕組みが整備されていくことも、地方創生を考えるうえで、忘れてはならない要素だ。

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