独自技術で宇宙ビジネスを革新する 2つのスタートアップ

国の「宇宙基本計画」は宇宙産業市場規模8兆円を目指す。日本の宇宙技術に対する世界の期待も大きい。革新的なデブリ除去技術を持つアストロスケール、小型SAR衛星を手がけるSynspectiveという国内スタートアップは今、何を考えるのか。

宇宙関連スタートアップが数々誕生、宇宙開発が官主導から民間主導へと徐々に移って投資額も増加するなか、国の「宇宙基本計画」は、2030年の宇宙産業市場規模を現在の4兆円から8兆円に倍増することを掲げる。世界的にはまだ市場規模は小さいが、日本の宇宙技術は世界の注目度も高く、国際競争力もある。宇宙ゴミ(デブリ)の除去技術などを開発するアストロスケール、小型SAR衛星のコンステレーション(連携)構築を目指すSynspectiveという日本の代表的な宇宙スタートアップ2社は今、どのような取り組みを進めているのか。

アストロスケールは、2013年、シンガポールで設立され、2018年にホールディングス制に移行。現在、英国、フランス、米国、イスラエルに拠点を置き、デブリ除去など軌道上サービスの提供を事業内容とする。衛星による宇宙の利活用が進むとともに、衛星軌道上には運用を終えた衛星の残骸や金属片、塗装片など大小さまざまなデブリが無数に周回しており、その除去は宇宙ビジネス上喫緊の課題だ。同社は、対象物体に接近、ドッキングする「RPO技術」をふまえ、磁気プレートで対象を捕獲してデブリを軌道から離脱させるという革新的な技術を持つ。

2021年にはデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」を打ち上げ、2024年にデブリ捕獲に成功して民間では世界初のデブリ除去衛星となった。また、2024年には大型デブリの状況把握を行う「ADRAS-J」の実証も行っている。2035年までには、複数ミッション打ち上げを通じて、対象の観測・点検、寿命延長、燃料補給、さらには部品交換・修理などバリューチェーンを拡充し、軌道上サービスを当たり前のインフラにしていくことを目指す。現在、複数の衛星デブリ除去が可能な「ELSA-M」を英国で開発しており、2026年に打ち上げる予定だ。

一方、Synspectiveは、2018年、現・代表者と、内閣府「革新的研究開発推進プログラム」(ImPact)において小型SAR衛星を開発していた現・顧問によって東京で設立され、同年、シンガポールに拠点を設けている。SAR衛星は、通常の光学衛星と異なって、雲などの影響を受けにくいマイクロ波を利用して地表を観測するため、夜間の地震や洪水被害状況などを把握できる利点がある。通常1,000kgほどの重量になるが、同社はその10分の1、100〜150kg程度の小型を設計開発できる技術を持つ。この小型SAR衛星を多数打ち上げ、連携をとりながら一体的に運用することにより、広範囲・高頻度で観測・撮影するのがコンステレーションだ。

同社は、SAR衛星による撮像データを国や研究機関などに販売したり、データ活用クラウドサービスを運用することを基本的なビジネスモデルとしており、2021年に、会社設立から3年間弱で打ち上げ・軌道投入に成功、その後も続々と打ち上げるというスピード感が大きな強みだ。2024年には、衛星量産に向けて神奈川県大和市に製造拠点「ヤマトテクノロジーセンター」も開設している。その体制のもと、2030年までに30機編成のコンステレーション構築を目指し、中期的には国内のみならず海外政府へのデータ販売拡大を目指す。

私たちの暮らしや産業にとって、衛星の活用は今後ますます必要不可欠になる。安全・安心で持続可能な宇宙利用に向けて、日本発スタートアップのアイデアが果たしうる役割は大きい。

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