ふるさと納税・地方創生研究会 制度活用の理想形を議論

2016年度から本学で開催する、ふるさと納税・地方創生研究会。2017年度は、7月より始まった。本研究会では、制度をいかにして地方創生に活かすのか、産官学それぞれの立場から議論・研究し、今後のあるべき姿をまとめていく。

ふるさと納税をいかにして地方創生に活かすかを議論・研究する「ふるさと納税・地方創生研究会」(主催:事業構想大学院大学)の第1回研究会が2017年7月24日に開催された。本研究会は、2016年に発足し、首長、研究者、民間事業者をはじめとする有識者による分析と見解、また招聘自治体の事例報告をふまえ、2冊の書籍(「ふるさと納税と地域経営」、「ふるさと納税の理論と実践」事業構想大学院大学出版部発行)を出版し、その後の動向を鑑みながら研究を継続させてきた。

さまざまな意見が交わされる本制度について、産官学それぞれの立場から、寄附金の使途、地域プロモーション及び特産品のマーケティング、経済効果・社会的効果の定量分析、ふるさと納税制度の適切な運用ルールについて研究し、その可能性を広げていくことを目指す。

本研究会の有識者委員は、鳥取県・平井伸治知事、高知県・尾﨑正直知事、長野県飯田市・牧野市長、関西学院大学・小西砂千夫教授、さとふる・髙松俊和取締役、事業構想大学院大学学長の田中里沙である。ゲスト講師に総務省・市町村税課の池田課長を迎えている。

第1回ふるさと納税・創生研究会に参加した方々(東京・表参道の事業構想大学院大学のご神木の前にて)

総務省 市町村税課 池田達夫課長

-総務省市町村税課 池田課長
地方創生のきっかけに

池田課長から紹介された最新のデータによると、2016年度のふるさと納税受入額の実績は2,844億円と、対前年比で1.7倍となり、4年連続で増加していることが示された。

総務省は、4月1日にふるさと納税の返礼品を寄附額の3割以下に抑えるよう地方自治体に要請する「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」(平成 29 年 4 月 1 日付け総税市第28 号。以下、「通知」という。)を公表し、過度に豪華な返礼品を提供している自治体に対しては、返礼品の見直しを求めた。

池田課長は「ふるさと納税受入額の上位200団体で全体の約7割を占める状態である。この200団体に対して見直しの要請を行ったところ、約9割の自治体が見直しの意向を示している」と説明する。

返礼品の見直しが進む一方で、昨年の熊本地震や新潟県糸魚川市の火災においては、返礼品なしでも寄附が集まっており、ふるさと納税は、災害時の被災地への支援としても活用されている。

また、調査結果から、ふるさと納税の募集の際に、資金調達が必要なプロジェクトや事業を具体的に明示し、寄附の使い途を選択できるようにしている自治体が全国で200団体にのぼることが分かった。

池田課長は「具体的なプロジェクトに共感して、ふるさと納税をするという流れを作っていくことが、制度本来の趣旨にかなう」、「ふるさと納税制度は、今後も発展していくことが期待されており、地方創生のきっかけになるような制度」と語る。

鳥取県 平井伸治知事

-鳥取県 平井知事
新しい災害支援のツールとして活用

ふるさと納税のスキームの提案者の一人である鳥取県・平井知事は、「ふるさと納税は返礼品が注目されがちだが、最近では寄附文化の醸成という効果が生まれている」と指摘する。 ふるさと納税制度は、地方自治の歴史においてターニングポイントとなる制度と捉えられるという。メディア及び社会から注目され、ネームバリューが向上した今、小さな自治体でも特徴的な取組を行えば、取材の機会を得て、メディアの力を借りられるチャンスが与えられるようになったからだ。

メディアの力が地域への大きな力となった例として、災害支援金が挙げられる。今までとは比較にならない桁違いの災害支援金が被災地に集まっており、新しい災害支援のツールとして、ふるさと納税が有効に活かされていると言える。熊本地震の際には、「鳥取県のサイト上に熊本地震への寄附を募り、4700万もの寄附金が集まった」という。ふるさと納税制度は、震災のような緊急の場面において、「応援したいという心意気を形にするツール」となった。

また、鳥取県では、副次的な効果として、農林水産業事業への支援、地ビール工場の増設等の地場産業振興事例が見受けられる。「福祉分野や低所得者対策等、通常の財源だけでは手の届かない部分にも、テーマを持ってメディアを巻き込むことによって、新しいムーブメントを興すことも可能であると感じている」。

「ふるさと納税から世の中がよくなったという手ごたえを感じることができれば、寄附文化の醸成へつながるのではないか」との展望が示された。

ふるさと納税を地域活性化に活かす取り組みについて、活発な議論が行われた

高知県 尾﨑正直知事

-高知県 尾﨑知事
リスクの少ない販路拡大

高知県の尾﨑知事は、「ふるさと納税を高知県内の市町村のよき地域販路開拓の手段にしたい」と考える。高知県では、人口減少に伴って当然ながら経済も衰退してきた。そこで、各地域で生み出されたものを生かして県外市場に打って出ることによって外貨を稼ぐ「地産外商」をスローガンとして、様々な取り組みを行っている。

「ふるさと納税制度は、どんなに小さな自治体でも販路開拓のよききっかけを与えてくれる」ところとなる。

高知県では、県内の地域ごとに県庁職員を配置し、地域の商品開発から販路開拓、さらには、拡大再生産までを支援するといった地域アクションプランを策定している。高知県及び県内市町村の返礼品には、地産外商を進めるため、ふるさと納税のために作り出した商品ではなく、この地域アクションプランの商品を採択している。また、今後の展開では、ふるさと納税制度によって生まれた財源を、新たな農産物の生産加工のための工場の創設や、雇用の創出に充てることで、地産外商の取り組みをさらに拡大再生産の好循環につなげていくことを考えている。

拡大再生産のための今後の課題は、①担い手の育成・確保、②関連産業を集約させた「地域産業クラスター」の形成、③起業や新事業展開の促進の3点である。ふるさと納税制度を活用して、最終的には当制度に頼らず、自身で販路を獲得するふるさと納税制度からの「卒業案件」を生み出すことを理想としている。

尾﨑知事は「地域外への販路拡大には、さまざまな不確定要素があるが、ふるさと納税制度は、販路拡大への一歩を踏み出すためのハードルを下げる役割を担ってくれる」という。当制度に依存するのではなく、次の仕組みを作るという、「スターターとしての機能に期待したい」としている。

飯田市 市民協働環境部 竹前雅夫部長

-長野県飯田市 竹前部長
地域と寄附者の距離を縮める

長野県飯田市は、2017年度から2028年度までの12年間を計画期間とする飯田市の新しい総合計画「いいだ未来デザイン2028」の未来ビジョンの実現に向け、未来を見据えた様々な取組を進めている。

地域活性化施策である、「ふるさと飯田応援隊」では、①飯田を応援したい人が満足感を得る②愛着によって飯田とのつながりを持つ③返礼品の調達によって地域ブランドの形成につなげる④魅力発信の効果によって相乗的に歳入確保を推進する、という4ステップを掲げている。

さらに、飯田市は新たに「20地区応援隊」という制度に着手した。寄附者は市よりも小さい単位である「地区」を選択して、飯田市へ寄附を行う。その後、飯田市から「地区」へ寄附金が交付される。市を通して、「地区」へ寄附をすることによって、より地域との距離が近づく仕組みだ。

寄附情報は市から各地区へ共有され、各地区では情報を元に寄附者の方へお礼状と共に地区での行事やお祭りの案内や、特別地区民証の発行等を行う。

この制度には2つの特徴がある。1点目は、飯田市ではなく、各地区が寄附先となることで、具体的に絞り込んだ形で戦略を打ち出して、寄附を募る点である。2点目は、単なる寄附者と受入先という関係性ではなく、地区とネットワークを結び、寄附者が各地区とのつながりを強めることができる点である。これによって、飯田市には人材ネットワークを形成し、各地区の活動を行う際には当該ネットワークの活用が実現すると想定している。

「飯田市の自治の気風は地区課題を発見して、それを自分たちの力で解決していくことにある。各地区では、それぞれが長期構想、長期計画を策定している。地区の人たちとのつながりをつくり、地区間の交流を重ねることで、地区への移住につながることも期待できる。ふるさと納税をそのきっかけにしたいと考えている」と説明した。

さとふる 取締役 髙松俊和氏

-さとふる 髙松取締役
地域と寄附者のコミュニケーション

さとふる取締役の髙松氏は、寄附者と地域企業の双方のつながりを提供する立場から、自治体と寄附者の双方のコミュニケーションの重要性を指摘する。「寄附金の受付、返礼品の送付、寄附証明書の送付だけでもコミュニケーションをとる機会は3回ある。本制度が地域と寄附者の方のコミュニケーションの場となり、地域や特産品のストーリーを寄附者の方へ伝えていくことが大切である」と話す。特産品のPR、地域のPRにせよ、その特産品がどのように作られているかといった背景を伝えていくことで、地域のファンは醸成される。

加えて、「ふるさと納税制度が地元産業の振興を担っていることを、ふるさと納税ポータルサイト運営事業者として日々実感している」と話す一方で、「自治体の中で、ふるさと納税の方向性の決定や買取価格の期限の明示など、戦略性を持って、検討する必要がある」と課題を明示する。「長期的な商品の生産効率悪化やブランドの毀損を招かないためにも、各自治体でのふるさと納税の戦略的な運用をサポートしたい」と考える。「制度自体の公正性、公平性を確保し、自地域や特産品のストーリーに対して寄附者の方から共感を得られることで、地域活性化につなげることが可能である」からだ。

関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部 小西 砂千夫教授

事業構想大学院大学 学長 田中里沙

制度の継続発展に向けた方向性

地方財政、租税政策に詳しい関西学院大学の小西砂千夫教授は、「ソーシャルマーケティングという観点で情報発信方法を考え、共感を集めるといった研究成果は、今後のふるさと納税の在り方を考えるうえで必要な議論である」と語る。制度の継続に向けては、自主規制ルールの必要性が提示され、今後の研究会の方向性の一つとなった。

本研究会では、ふるさと納税という新しい地域への資金還流の仕組みが、実際にどのように地域に影響を与えているかについての定量分析を行い、可視化する取り組みを行う。

具体的には①寄附者動向②経済効果測定③寄附による地域への新しい政策の貢献度の数値化である。使途を明確にした上で地域と寄附者のコミュニケーションデザインをどう構築するかを検討する(田中学長)ことも含み、今後は年度内に全6回の研究会を開催し、研究会終了後には、成果を公表し、ふるさと納税制度に関する自治体のPR方法や、使途の活用方法を報告する「ふるさと納税・全国フォーラム」を開催する予定だ。