新領域の探索で目指す「街の道路から宇宙まで」の成長戦略

1967年に創業した第一カッター興業は、コンクリート切断・穿孔市場における売上実績No.1を誇る専門工事企業だ。高度経済成長期に構築されたインフラの老朽化が社会課題となる中、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」の5つの技術で社会インフラの維持・補修を支える。2024年、代表取締役社長に就任した安達昌史氏に、ビルメンテナンス事業を0から黒字化まで導いた経験を活かした新たな成長戦略を聞いた。

社長写真5
安達昌史 第一カッター興業株式会社 代表取締役社長

創業者の世界への視野が育んだ挑戦心

「入社した2001年当時の会社は、売上50億円、従業員250名で、建設業界の伝統的な職人気質が残る一方、人を大切にする温かい企業文化がありました」と安達氏は振り返る。特に印象的だったのは、創業者が既に世界を見据えていたことだ。「『全世界を対象に事業を行う』という基本方針が掲げられており、自分たちの現場仕事は日本だけでなく海外でも絶対に通用すると確信していました」。安達氏はその時から、建設業界の構造変化を予見していた。「当時はまだインフラを整備していく事業が先行していましたが、いずれ壊して改修してまた直していく補修の事業につながっていく。これは世界でも同様のニーズが増えていくだろうと感じていました」。

技術開発と人材育成で競争優位性を構築

同社の強みは、コンクリート切断・穿孔市場No.1の実績に裏打ちされた施工技術と全国18拠点に展開する供給体制にある。特に注目すべきは、現場の声を技術開発に反映させるボトムアップの仕組みだ。 「各営業所から若手も含めて参加する研究開発部会を設置し、現場の困りごとから新しい技術を生み出しています」。 人材育成においても現場重視の姿勢を貫く。新卒は全て現場採用からスタートし、実務を通じて技術力と顧客理解を深める。「現場を知っているからこそ、自分たちの強みをどう活かすかが分かります」と安達氏は語る。また、熟練者の作業データを可視化し、教育プログラムに落とし込む取り組みも始めている。「今まで『体で覚える』、『見て覚えろ』でしたが、しっかりとデータ化されたものが教育・育成に活用できるツールになります」。 さらに、新たな技術領域への挑戦も積極的に進めている。レーザー技術開発を手がけるトヨコー社に2年間社員を出向させ、現場作業の視点から実用化への助言を行った事例がその象徴だ。レーザー施工技術は、従来の物理的な除去とは異なり、熱による除去で構造物を傷つけず、環境負荷も少ない革新的な工法である。「作業現場でしか分からない使い勝手の改良について、具体的な提案を行いました。外部企業との連携で新しい価値創造に取り組むことに、当社の社員は前向きです」。

レーザー施工
レーザー施工は構造物を傷つけず、環境負荷も小さい

ゼロから3億円へ 

新規事業への挑戦で培った結束力

安達氏が責任者としてリーダーシップを試されたのが、新規事業としてのビルメンテナンス事業の立ち上げだ。建設業界では第一カッター興業の名前は知られていたが、ビルメンテナンス業界では全くの無名。「第一カッター興業と言っても何をやっている会社かも知られていませんでした。」事業が軌道に乗るまでは、チーム全員で危機感を共有し、「どのようにして1円でも黒字にするか」という思いで取り組んだ。「営業も全員でやるし、現場も全員で担当する。みんなで創意工夫しながら、励まし合いました」。と振り返る。人を動かす上で最も重視したのは、徹底的なコミュニケーションだった。「感情が入ってしまうと、なかなか人を動かせない。でも会社をどうするか、自分たちをどう守り育てていくか、という役割が私にはあると思っていた。そのことをきっちり説明する時間を作りました。短期的な成功ではなく、持続的な成長を示していくことが重要です」と安達氏は力を込める。最終的には事業を3億円規模まで成長させ、50名強の組織を作り上げた。「全員が同じ目標に向えたからこそ、事業化できたと思っています」。この経験は、後の新領域開拓への確固たる礎となった。

新領域の探索への挑戦

「飛び地」経験が生んだ新戦略

「第一カッターの建設事業とビルメンテナンス事業、この2つのオーガニックな成長だけでは、いずれ頭打ちになってくるでしょう。建設の動向を見ても、人材の獲得を見ても、転換点が来ると予想しています」と安達氏は率直に語る。一方で、新領域の探索は容易ではないことも認識している。「新しい領域の探索は、自分たちにとって挑戦的なエリアかもしれません。しかし先の10年、20年を見据えたところでは、絶対必要になってくる」。

この課題に対応するため、2025年7月に事業創造本部を本格始動させた。「どういう事業をしっかりと作っていくかを専門に行う部署で、そういったものを探索していければと考えています」と安達氏は意欲を示す。目標は明確だ。「もう1本でも、2本でも大きなグループの柱となる事業を作りたい。社会インフラがベースになると思いますが、その中で自分たちの事業をより強化できる成長戦略をとっていきます」と意気込む。

第一カッター様_新領域の探索
中期経営計画(2025年6月期-2026年6月期)で掲げる新領域の探索

世界を見据えた成長戦略 

「第一に呼ばれる企業」へ

中期経営計画では、2027年6月期に売上高245億円、営業利益24.5億円の目標を掲げ、3年間で85億円の積極投資を行う。「長期目標の達成に向けた競争優位性の強化と、新たな挑戦を促進できる環境づくりの3年間と位置づけています」。海外展開も重要な戦略の柱だ。創業者から受け継いだ「全世界を対象に」という方針は変わらない。「国内で蓄積したノウハウを世界に展開する準備を進めています」。そのためには多国籍な人材の確保や、海外経験豊富な中途採用の強化も必要だと認識している。

この壮大な計画を支えるのは、安達氏の揺るぎない信念だ。「私たちはただの職人では止まらない。日々の仕事に革新を持たせ、社会を支えることに繋げていく。世界でも宇宙でも第一に呼ばれる会社を目指します」と力強く語る。新領域の探索への挑戦を始めた第一カッター興業。次なる成長が、いま動き出している。

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