2017年7月号

人間会議

「広げる」のではなく 「今あるもの」を耕す

山下 智弘(リノべる 代表取締役)

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2010年、中古マンションのリノベーションに特化したリノベる株式会社を設立した山下智弘代表取締役。単なる「改修した中古マンション」ではなく、住む人と共に成長し、その歴史を刻む「かしこく、すてきな暮らし」を提供する。古いものを生かした豊かな暮らし、という考え方と共鳴するのが、母校近畿大学の初代総長、世耕弘一氏の言葉「海を耕し海産物を生産しなければ、日本の未来はない」である。

世耕弘一(近畿大学創設者 近畿大学所蔵)

山下 智弘(リノベる株式会社 代表取締役)

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あるものを耕し豊かになれるベンチャースピリッツ

―山下社長が影響を受けた人物として挙げられているのは、近畿大学の初代総長である世耕弘一氏。近大は山下社長の母校でもありますね。

私は基本的に、自分自身の考え方や決断を大事にすべきと思っています。だから、書籍もよく読みますが、ある人物について知っても「この人のようになりたい」という気持ちは持たないようにしているんです。ただ、私の考え方のベースになっている言葉があり、それが、近畿大学初代総長である世耕弘一氏の言葉です。私は中学、高校とラグビーをやっていて、大学進学の時はラグビー部を見ていたのですが、近畿大学だけは、この世耕氏の言葉が心に響きました。ところが、響いたと言っても、当時はそれがなぜなのかわからずにいた。しかし、起業して今になって考えてみると、この言葉こそまさにベンチャースピリッツであると感じます。

その言葉とは第二次世界大戦後に彼が言った「海を耕し海産物を生産しなければ、日本の未来はない」。敗戦直後の日本は、今を生きるために必死だったはずであり、普通に考えれば国土が焼け野原になったから、もっと国土をどうにかしよう、と考えそうですよね。しかし、彼は海があるじゃないかと。それも、領海を広げるのではなく、今ある海を耕せばもっと豊かになれるはずと考えたことがすごいなと思います。

―世耕氏のこの言葉が、近畿大学水産研究所の理念であり、それが大きな話題となった近大マグロにつながったわけですね。

近大が水産研究所を立ち上げ、研究を始めた当初は、「一体何をやっているんだ」と言われながら失敗が続いたようです。魚は天然の方がおいしくて当然と。しかし今、養殖マグロは、味はもちろん安全性も認められています。世耕氏の「耕す」という理念が世代を越えて継承されソリューションを出したということです。

この「今持っている海を耕して豊かに」という考え方が、今の私の闘い方に合っている。私は、商売は好きですが、できあがったマーケットに入りパイをひっくり返す、ということにはまったく興味がありません。すでに優秀な誰かがやってうまくいっていることを、自分が人生をかけてまでひっくり返す必要はない。それよりは、新しい産業をつくることに燃えています。だからこの、広げるのではなくあるものを耕す、という言葉が、最近になってまた私の中に強く出てきたのかもしれません。

日本人のDNAを呼び戻す

―その新しい産業こそ、中古マンションをリノベーションし流通させるというビジネスですね。

日本人は、家を買いたい人が10人いれば、8、9人は新築を希望します。しかし欧米では全流通量の7、8割が中古です。欧米と日本の住宅購入スタイルが違う一番の大きな理由は、日本が戦後に焼け野原になったこと。たくさんの家を一気に建てる必要があり、結果、今も日本は建築不動産関係従事者の割合が高い。だから、家を建てるのをもうやめなさいとは言えないんです。そして、余っているにもかかわらず家が建て続けられ、そこに多額の税金が投入されています。

すでにできあがったマーケットでパイを取りあっているイメージがあると思います。しかし、私はそうは思っていません。余っているのに新築が建て続けられるおかしな構図を、イノベーティブという考え方で変えられると考えているからです。

―リノベーション事業で、欧米の中古住宅活用スタイルを日本に取り込むということですか。

よくそう言われるんですが、違います。戦前、日本が焼け野原になる前は、日本人は家というものをすごく大事にしていました。引っ越す時は襖や障子をわざわざ次の家に持っていったり、家をそのまま移動させてまで同じ家に住み続けるほど大切にしていたんです。それが、大量に家をつくる時代になり、ビニールクロスや、木目を印刷した床などの石油化学商品が一斉に出回りました。それを少しでもきれいな状態でキープしようと、昔のように子どもの背丈を柱に刻んだり、ポスター一枚貼ることさえ怒られる住まい方になった。家と一緒に成長する、長く過ごすという考え方が奪われてしまいました。

だったら、古いものをもっと生かしリノベーションすれば、昔の日本人のDNAに戻すことができるんじゃないかと考えています。私たちが使う無垢材の床は、メンテナンスはしにくいんです。何かをこぼせばシミになる。でもそれが歴史になるからいいじゃないかと。人が歩いたところは色が変わりますが、それが味わいになります。そういうことが大事であって、単純にリノベーションした家ではなく、かしこくすてきな暮らし自体を新しく提供する、というのが私たちの考え方です。

「耕す」ことが継承になる

―御社が構築したビジネスモデルは、まさに、世耕氏の「海を耕す」考え方と共鳴しているようです。

「耕す」ということがポイントだと思っています。戦後に世耕氏が提唱した「領土を、領海を広げるのではなく、今あるものを耕す」という考え方は、今の私たち住宅業界にも必要です。たとえば田んぼだったところを開発してたくさん家を建てていく。それが私たちの先輩がやってきたことですが、今はそうではありません。古い住宅がたくさん余っているのなら、それを耕す、つまりリノベーションすることで、今の時代にあわせていくことが必要なのではないかと考えています。

また、昨年、ついに大工さんより建築士の数が多くなったというデータがあります。建築士がいくら考えても、造る人がいない、という時代になります。私は今、現場でつくってくれる人をいかに増やせるか、ということにも意識が向いています。また、大工さんの高齢化も進んでいるので、IT化によって効率を上げることも、今私が集中している事業のひとつです。家そのものだけでなく、技術もまた今の時代に合わせたかたちで継承していきたいです。

山下 智弘(やました・ともひろ)
リノベる株式会社 代表取締役

 

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