データの徹底的利活用で、観光施策・まちづくりの明日を拓く

データを用いたマーケティング視点の観光施策の重要性に気がついた兵庫県豊岡市。KDDI×コロプラ連合と組むことで、観光動態の見える化ができるようになった。歴史ある温泉地を擁する豊岡市は今、観光地としてさらなる飛躍を遂げようとしつつある。

2016年9月、兵庫県豊岡市はKDDI株式会社と地域活性化を目的とした包括協定を結んだ。包括協定には全国50超の自治体に導入実績があるKDDI×コロプラ連合の観光動態調査レポートの採用が含まれており、位置情報ビッグデータを活用した観光動態の見える化ソリューションの導入を機に、豊岡市の観光施策は大きな転換点を迎えることになった。

谷口 雄彦(豊岡市大交流課課長)

豊岡市とKDDIの包括協定(2016年9月記者発表)

「勘と経験」から「データ重視」へ

2005年4月に豊岡市、城崎町(きのさきちょう)、竹野町、日高町、出石町(いずしちょう)、但東町(たんとうちょう)の1市5町が合併し、現在の豊岡市が誕生した。有名な観光地同士の合併は注目を集めたが、当時の観光施策は、各地の観光協会に補助金を出したり、誘客イベントを行う程度だった。鳥インフルエンザ発症や東日本大震災など、市の観光に負の影響を及ぼす出来事が起こると、焦って対策を打つものの、具体的な観光客の増減は誰もわからなかった。

2013年、本格的なインバウンド施策を実施するため、大交流課が設立された。「現状把握に際して、勘と経験に頼った施策ではいけないと気がつきました。同時に、データを用いるなどマーケティング視点の重要性に気づかされました」と語る豊岡市大交流課の谷口雄彦課長。観光動態調査の第一歩として、城崎温泉の旅館に外国人の宿泊客データの定期的な提供を依頼した。その後、他の地域や日本人観光客についてもデータ収集を行うようになった。谷口氏は「市役所だけが動くのではなく、地元とベクトルを合わせて同じスピードで歩んでいくのが大事だと感じました。データが何に使われ、どんなことに役立つかをご理解いただいているからこそ、データを提供いただいていると思います」と語る。

この取り組みから、ターゲット外の国からの観光客数が増えていることなど、新たな気づきも得られた。しかし、データ分析まで市役所内で行うことは難しく、収集データは現状確認程度の扱いだった。

2015年度豊岡市・観光スポット周遊ルートランキング(出典:豊岡市報告会資料[Location Trendsより作成])

観光動態データが教えてくれる課題と対策

KDDIとの包括協定の話が持ち上がったのは2015年秋のこと。もともと交流のあった両者との間で交わされた「民間マーケティングの手法が観光振興に役立つかもしれない」という会話がきっかけだった。そこで注目したのは、KDDIのビッグデータと株式会社コロプラ(以下、コロプラ)の分析力を活用した観光動態分析レポートサービス「Location Trends」。個人が特定できない形に加工されたスマートフォンの位置情報を基に、居住者や通勤者など観光行動を伴わない来訪者を除いた「観光客」がどんな性別・年齢層の人で、豊岡市内外でどんな行動をしているのかを観光スポット単位まで精緻に「見える化」できる。導入決定に先立ち、城崎温泉や豊岡駅周辺など主要な観光エリアでどれくらいのサンプル数が取得でき、どこまでの分析ができるのか事前診断を受けられることも決定を後押しした。こうして、豊岡市の観光活性化に向けてKDDI×コロプラ連合と取り組むことになった。

「最初は何のために何のデータを見ればいいのかわかりませんでした」と谷口氏は当時を振り返る。それでも2回、3回と打ち合わせを重ね、徐々に重要なターゲット層や特徴的な観光行動が明らかになるにつれ、次々と新たな発見があった。「各エリアとも集客はしているものの、エリア間は周遊していないことがわかりました。ただ、城崎-出石間の周遊は例外で、城崎温泉への行き帰りの道中で皿そばを食べるために出石に立ち寄っている観光客が意外と多いこともわかったのです」。

「データ分析を東京でパソコンに向かって行うだけでなく、実際に現場にも赴き、我々と密に実態を共有しながら取り組んでくれるのがコロプラ様の良さだと思います。命の通ったデータにしようとしてくれていることに大変感謝しています」と谷口氏。

コロプラはデータ分析とレポート作成の他に、出石で観光協会や皿そば組合などを対象に観光動態のワークショップを開催した。城崎と出石に関係性がありながらも、「客層が異なること」「出石での滞在時間が短すぎること」についてデータを示しながら解説し、城崎のボリュームゾーン(最も訪客人数の多い層)である若い女性をもっと呼び込むための対策を話し合った。「データを見せられると、活用しないともったいないという気になる。そうすると次の作業も参加したくなる。そういう動きが各エリアで見られるようになると、地域全体が盛り上がっていくと思います」。

1300年の歴史を誇る城崎温泉

まだまだチャレンジの途中

今後の方針を、谷口氏は「2020年までにインバウンド宿泊客数10万人泊を目指します」と答えた。「併せて、最終ゴールは消費の増進なので、観光消費額も目標設定したい」と続ける。

移動データを観光施策の仕組みに組み込んだ例は、おそらくほとんどない。先行事例として問い合わせが来ることも多くあるが、「データを利活用して戦略を立て、豊岡市を日本で最も進んだ観光地域づくりのまちにしたい。まだ立ち上げたばかりで成果が出るのはこれから。我々もチャレンジの途中です」と谷口氏。これから出てくるデータや民間マーケティングの手法をどう観光施策に採り入れていくのか、今後がますます楽しみだ。

 

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