2016年4月号

環境会議

自然エネルギー100%への道

大野 輝之(自然エネルギー財団 常務理事)

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「パリ協定」成立の背景にある自然エネルギーへの期待

「パリ協定」は、今世紀の後半には世界が「脱化石燃料」の時代に入るべきことを国際的な合意として定めた。COP21が開催される2、3年前から、世界では、一方で化石燃料への投資を引き上げる「ダイベストメント*1」の取り組みが広がり、他方で自然エネルギーによって100%のエネルギーを供給しようという動きが強まってきた。「パリ協定」は、先進的な企業や自治体、環境NGOが進めてきた、こうした取り組みが国際的に認知され、世界全体で目指すべき方向として確認されたことを意味する、といっても誤りではないだろう。

もちろん、「脱化石燃料の発電方法としては原子力があるし、排出ガスからCO2を抜き出して地中に封じ込めるCCS技術を使えば、化石燃料も使い続けられる」、という議論も存在する。しかし、ここでは詳しく論じないが、原子力発電は安全性の確立、放射性廃棄物の最終処分地の確保、増加する一方の発電コストという三重苦から逃れられずにいる。CCSは長年の研究開発にもかかわらず、現在でも大規模火力発電所に商用で利用できる段階には至っていないし、そもそも地理的にどこでも使える技術ではない。

COP21の場で、世界が今世紀後半の脱炭素化という画期的な目標を決めた背景にあったのは、エネルギー供給の主役としての自然エネルギーへの期待の高まりである。

ここまで来ている世界の自然エネルギーの発展

一方、日本では、固定価格買取制度の導入によって太陽光発電が増加したといっても、従来からの大型水力発電を除けば、自然エネルギーが供給しているのは電力の4~5%に留まっている。「自然エネルギーはお天気まかせで不安定だし、コストも高い」といった論調も根強い。こうした日本的状況からだけ見ていると、「COP 21 で世界が自然エネルギー100%への道を選択した」と言われても、どこまで現実的な話なのか、疑問に思う人も多いだろう。

そこで、本稿では、「自然エネルギー100%への道」を語る前提として、今、世界の自然エネルギーの発展がどこまで来ているのか、日本ではあまり語られない以下4点の状況をご紹介しようと思う。

  1. (1) 先駆的な欧州諸国、米国の諸州では、既に自然エネルギーが基幹電源になっている。
  2. (2) 多くの国や地域が、2030年に自然エネルギーによる4割、5割以上の電力供給を目標としている。
  3. (3) 風力発電などのコストは、少なからぬ地域で既に火力発電より安価になっている。
  4. (4) 自然エネルギー投資額は新規の火力発電投資額を上回り、巨大なエネルギー市場となっている。

 

1 既に基幹電源になっている自然エネルギー

世界には豊富な水資源をいかして、以前から電力の多くを水力発電で供給するノルウェーのような国があるが、注目すべきなのは、近年、多くの国が固定価格買取制度など、積極的な自然エネルギー政策を展開して、風力発電や太陽光発電などの導入を進めてきたことである。欧州では、デンマーク、スペイン、ポルトガル、イタリア、ドイツなどで、既に自然エネルギーが総発電量の30~50%を占める基幹電源になっている。

とりわけ注目に値するのは、日本に次ぐ世界第4位の経済大国であり、先進工業国であるドイツでの自然エネルギーの急激な拡大である。電力消費量に占める自然エネルギーの割合は、2000年には6.5%にすぎなかったが、2015年には32.5%まで拡大している。米国では、全米最大3800万人の人口を擁するカリフォルニア州で、2014年には州内の発電の30.2%を自然エネルギーが占めた(図1)。

図1 カリフォルニア州では自然エネルギーが3割を発電(2014年)

 

図2 世界の自然エネルギー発電量は原発より大きい

 

図2は、世界全体での自然エネルギーと原発の発電量を比較したものだ。意外に思う人もいると思うが、過去から見ても原発の発電量が自然エネルギーを上回ったことは一度もない。更に、2000年以降は太陽光や風力発電が急増する一方で、原発の発電量は減少し、その差は拡大している。

2 先進国は2030年に自然エネルギーで40%、50%の電力供給を目指す。

脱原発を決めたドイツは2025年までに40~45%、2035年には55~60%という高い目標を掲げている。同時にご紹介したいのは、原発を維持する英国やフランスも積極的な導入目標を定めていることだ。英国は、2020年までに電力の30%を自然エネルギーで供給することを目指しており、風力発電の急速な導入が進んでいる。「原子力大国」のフランスも、昨年7月に制定した「エネルギー転換法」で2030年に40%という高い目標を決めた。米国では、カリフォルニアとニューヨークという東西両岸の巨大州が2030年50%という目標を定めている。

こうした先進国の動きに加え、最近とみに顕著になってきたのは、新興国が積極的な自然エネルギー導入目標を掲げ、施策を強化し始めたことだ。

実は、中国は今日でも、累積導入量において世界一の自然エネルギー大国なのだが、中国政府の重要な経済政策、エネルギー政策を策定する国家発展改革委員会の下にある「能源研究所」は、昨年4月に2030年には電力の53%を、2050年には86%を自然エネルギーで供給できる、という報告書を発表している。

インドでも、モディ政権は、2014年の発足直後から自然エネルギー導入強化の方針を打ち出していたが、昨年には2022年までに175GW、すなわち原発175基分の自然エネルギー設備を導入するという目標を発表し、特に太陽光発電の導入が加速している。

3 自然エネルギー発電コストは急速に低下し、火力発電より安価な電源になっている。

昨年1月に公表された「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」の報告書は、風力発電などがすでに世界の多くの地域で化石燃料による火力発電と同じか、より安くなってきていると報告していた。これに続いて8月には、「国際エネルギー機関(IEA)」も、その報告書の中で、風力発電や太陽光発電のコストが、石炭や天然ガスなど化石燃料による火力発電のコストと同じか、より安くなっていることを明らかにした。

米国のオバマ大統領は本年1月2日に行った一般教書演説で、「アイオワからテキサスまでの地域で、今や風力発電は、汚れた排ガスを出す従来型の火力発電よりも安価になっている」と述べている。

4 自然エネルギー投資は新規火力発電投資額を上回り、巨大なエネルギー市場となっている。

風力発電や太陽光発電のコストが低下し、大量の導入が進んでいることは、自然エネルギーがビジネスの観点からも有望な市場になってきたことを意味する。

ブルームバーグ社の発表によれば、2015年の世界の自然エネルギー投資は、過去最高の3289億ドル(約38兆円)に達した。2004年には630億ドルだったので、10年余で5倍以上に増加したことなる。比較可能なデータの得られる2014年データで見ると、既にこの時点で、自然エネルギー投資は石炭、ガスなどの火力発電の新増設投資額を上回っている。

日本でも自然エネルギー100%への道を

自然エネルギーには、二酸化炭素を排出しないことに加え、以下のような様々な重要なメリットがある。

  1. (1) 中国やインドなどが直面している化石燃料のもたらす深刻な大気汚染の解決策になる。
  2. (2) 日本のような「化石燃料資源小国」も、豊かな自然を生かして国産エネルギーを生み出すことで、「国富の流出」を招かない。
  3. (3) 化石燃料の争奪をめぐる戦争とは無縁な平和のエネルギーであり、安全保障にも寄与する。
  4. (4) どんなに安全対策を強化しても逃れられない原発事故のリスクから解放される。

 

日本でもアジアや世界の多くの国々でも、もちろん今すぐ自然エネルギーで全てのエネルギーを供給することはできない。電力供給に占める自然エネルギーのシェアを確実に速やかに増やし、熱や燃料も化石燃料からの転換を進める移行過程の戦略を確立することが必要だ。

自然エネルギー100%への道筋の中では、エネルギー効率化を徹底し、必要な消費量を減らすことも重要だ。日本では、工場のボイラー配管などの断熱が老朽化で劣化し、製造部門のエネルギー消費の10%が失われている、というような無駄が放置されている。

政府の「エネルギー白書」のデータでも製造業のエネルギー効率は過去20年余、全く改善されていない。よく聞かれる「日本の産業は省エネの余地がない乾いた雑巾のような状態だ」という主張は、日本国内でしか通用しない「神話」である。

二酸化炭素排出量の多い石炭火力などから自然エネルギーへの転換を進めるためには、排出量に応じて「炭素価格」をつける炭素税や排出量取引制度のようなカーボンプライシングを導入することも必要だ。自然エネルギー100%への移行戦略を明確にし、その一つの手段として「炭素価格」を設定することは、低炭素・脱炭素技術の開発を促進し、新たな経済成長を可能にするだろう。

排出量取引制度は、日本では東京都以外に導入されていないが、欧米の国や地域だけでなく、韓国、中国でも開始されている。このままでは、日本は先行する排出量取引のルールを後追いすることになってしまう。

欧米では、国や地域全体の自然エネルギー100%を牽引する取り組みとして、グーグルやゴールドマンサックスなど社会的な影響力のある有力企業が、企業活動で使う電力全てを自然エネルギーに転換する動きも広がっている。こうした取り組みは日本でも広がっていく必要がある。

2015年末にようやく成立した「パリ協定」を受け、2016年は自然エネルギー100%への道を確実に歩み始める年にしなければならない。

*1 「ダイベストメント」については、拙稿「化石燃料投資からの撤退―世界に広がる“ダイベストメント”」2015年11月26日を参照のこと(自然エネルギー財団ホームページ「連載コラム自然エネルギー・アップデート」)

大野 輝之(おおの・てるゆき)
自然エネルギー財団 常務理事

 

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