学校創設、企業誘致部隊新設... 新規事業で成長する地方ゼネコン

今年で創業130周年を迎えた九州最大の建設会社・松尾建設。いまや全国に事業を展開する同社だが、佐賀に初めて電気を灯した明治期の発電所建設以来の「地域貢献」の精神は、地元への企業誘致活動や中高一貫校の創立などによって今も受け継がれている。

佐賀県初の電気を灯した広滝水力発電所。「信頼」を第一とする松尾建設の原点でもある

佐賀に電気を灯した発電所建設

松尾建設の創業者・松尾安兵衛は佐賀県の武雄出身で鍋島藩の山林の管理をしており、そこから土木業に入っていったと聞いています。創業は明治18年(1885年)になっていますが実際はそれ以前から土木業に従事していたようで、九州でもっとも古い建設会社の一つだと思います。

明治期の佐賀にはまだ電気が通っていませんでした。地元の有志によって、水力発電所を造って佐賀にも電気を通そうという計画が立ち上がり、1907年に松尾建設の前身である松尾組と他2社の共同事業として着工しました。ところが大変な難工事だったこともあり、工事の途中でいただいた請負金を使い果たして赤字が確定してしまったのです。その時に残りの2社は事業から撤退したのですが、安兵衛は私財を投げ売って費用を工面し、工期通りに建物を完成させ、初めて佐賀に電気が灯りました。

建設会社は目の前にある商品を売るわけではなく、一枚の設計図面があって、そこに信頼をいただいて造り始めていくものです。信頼を第一に考えた創業者の精神を受け継いできたことで、130年という長い間、会社が存続できていると思います。

バブル期に売上高は1100億円まで伸び、ここ数年は500~600億円台で落ち着いています。私は10年前に社長に就任しましたが、その時に「建設業は衣食住の三本柱の一つであり、それをしっかり支えていくことが私たちの役目だ」と思いました。ですから海外進出などは考えず、日本各地における地域のパートナーとしてお役に立てるよう、「拡大」よりも「信用」の日本最大を目指しています。

松尾哲吾 松尾建設株式会社 代表取締役社長

生き残りの術は「地域密着」

アベノミクス以降、大手ゼネコンは再開発事業や東京オリンピック関連などの大規模事業に注力しています。私たちのような地方のゼネコンにはオリンピック施設工事の直接的な受注はないかと思われますが、大手の手が回らないところを支えるなど、業界全体としては数年前に比べて一息ついたところだと思います。観光立国を目指す国の施策もあり、ここ数年はホテルの建設も増えています。

ただ、地元企業の設備投資意欲の高まりは感じることができませんし、オリンピック後は建設市場の縮小が懸念されています。そういう状況の中で、私たち地方ゼネコンが生き残る術を考えると、やはり地域への浸透は不可欠です。

今後は道路、橋梁、トンネル等のインフラの維持・メンテナンスに推移していくことが見込まれます。その際、地元に根付いた企業でなければ継続して仕事を任せてもらえません。

また、人口減に伴い建設の担い手も減っていく中にあって、技術革新によって省力化を進め、コストダウンを目指すことも、これまで以上に重要になってくると思います。

佐賀空港ターミナルをはじめ、県内外で多数の施工実績を有する

企業誘致で地域活性化に貢献

地域活性化の手段の一つに企業誘致があると思いますが、当社には企業誘致を行う部隊があります。九州以外では東京、名古屋、大阪、広島などに支店を置いていますが、そこで企業を訪問しながら情報を収集し、必要に応じて要件を満たす土地の情報を提供しています。2006年に福岡県を中心とした「北部九州自動車150万台生産拠点推進会議」が発足した時に誘致部隊を創設し、当初は自動車関連会社の誘致が多かったのですが、今は幅広い業種に及んでいます。

また、医療福祉分野では、社内にコンサルタントを抱えており経営相談などにも乗っています。

かつての建設会社はいわば建設の請負業でした。しかし、お客様にとっては建物を造ることが目的ではなく、造った建物をいかに活用していくかにあります。私たちがそのニーズに応えることを追求していくと、自ずと企画段階から入ることが増えてきました。

今では売り上げの5分の1を設計施工が占めるほか、建物の耐震強度がきちんと保てているかを計算して提示するサービスや省エネ技術(特許所有)の活用を行うなど、建設・土木事業の周辺事業も増えています。

1987年には佐賀県下初の全寮制中高一貫校、弘学館を創立した

学校創設、人材育成にも尽力

当社が100周年を迎えた1987年には、中高一貫校の弘学館を創立しました。もともと佐賀は教育県であり、藩校・弘道館からは大隈重信など明治時代に活躍した人も多く輩出しています。明治に入り弘道館は廃止されましたが、県内における東大への進学率は高く全国トップクラスでした。ところが県外の難関進学校ができると優秀な生徒はそちらに行くようになっていました。100周年を迎えるにあたって当社が地域に貢献できることを考えた時に、先代の社長(現会長)の発案で、兵庫県の灘高と姉妹提携して弘学館を創立しました。

当時は佐賀県全体で東大合格者は2、3人でしたが、当時の校長先生が私を含む1期生60人に対して「この中から10人は東大に合格しよう」と3年間言い続けてきた結果、10人には届かなかったものの8人が合格したのです。開校後初めての卒業生の東大合格率としては全国トップランクだと記憶しています。校長先生の強いリーダーシップが実を結んだのだと思います。

こうした若い人材の育成・輩出や、先ほどお話した県外からの企業誘致などを通して、佐賀県の活性化に少しでも貢献できればと考えています。

松尾建設本店

お問い合わせ

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地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

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