2015年6月号

プロジェクトニッポン 宮崎県

障がいを持つ人にも乗馬の楽しみを ホースセラピーで観光起業

山野智久 アソビュー代表取締

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蹄跡の森・清武ホースパークは馬とふれあい心を癒やす「ホースセラピー」を展開。あらゆる人に乗馬を楽しんでもらいたいという「想い」を形にするため、多くの苦難を乗り越え、地域に新しい観光資源を生み出した。

馬を通じて人の心や身体を癒やすホースセラピー。今では週に100人以上の予約が入る

消費者志向が多彩になり、観光の目的も多様化する中、有名な観光地見学や宿泊施設だけではなく旅先での特別な体験に注目が集まってきた。地域にもともとある観光資源と、それを活かす人との相乗効果により、「そこでしかできない、ならではの魅力」を訴求することで広がる商機があるのではないだろうか。

きっかけは障がい者の言葉 全ての人に乗馬の喜びを

宮崎県は日照時間が全国で2番目に長く、晴天率も高いことから「南国情緒」を打ち出した観光振興を行ってきた。温暖な気候に加え、太平洋に面して400kmもの海岸線が続く地形が魅力となり、1960年代には新婚旅行先のリゾート地として人気を博した。近年ではサーフィンによる観光振興が成功し、全国からサーファーが集まる。

一方、降水量も全国トップクラスの宮崎では、日照時間の長さと降水量の多さが緑を育み、豊かな山も形成している。

そんな宮崎の山の魅力に着目し、宮崎空港からほど近い清武町でホースセラピーを主催する、蹄跡の森・清武ホースパーク代表の新盛定氏に話を聞いた。

新盛 定 蹄跡の森・清武ホースパーク代表

--宮崎でホースセラピーを始めたきっかけを教えてください

新盛 以前から地元である宮崎の魅力を広く伝えたいという強い想いがあり、その方法を模索してきました。そうした中、馬を通じて人の心や身体を癒やすホースセラピーという考え方に出会ったのです。

きっかけは、馬好きが講じて大阪の乗馬クラブで働き始めたことでした。ある日、車椅子に乗った方々が乗馬クラブを訪れ、馬を眺めながら「いつか乗ってみたい」と言うのを耳にしたのです。しかし当時の日本には、障がいを抱えた人が馬に乗るという前例はありませんでした。

ところが調べてみると、海外では介助士がサポートする障がい者向けの乗馬があり、自然の中で馬と触れ合う療養手段が定着していることを知りました。改めて地元に目を向けてみると、豊かな緑や南国特有の明るさ、地域の人々が生み出すのんびりとした空気など、宮崎の山には身体や心が傷ついた人の療養に向いている好条件が揃っていたのです。

また日照時間が長く、雪がほとんど降らないため、一年を通じて安定した催行率を実現できると考えました。そこで宮崎に戻り、馬術を磨くことではなく、人々を癒やすことを目的とした乗馬クラブを始めることにしました。

さらに、より多くの方に来てもらうため、他の乗馬クラブにはない工夫を加えました。もともとあった資源に加えて「ここに来なければできない体験」という付加価値を訴求しようと考えたのです。

馬場全体を低く設計し、誰でも簡単に馬に乗れるようにしている

徹底したバリアフリー

--具体的にどのような工夫をされたのですか?

新盛 通常の乗馬クラブでは、馬場に対して乗り場を高い位置に設置するのが一般的ですが、当クラブでは馬場全体を一段低く掘り込むことで、上下移動なく馬に乗れるよう設計しました。

また、ベビーカーを改良した鞍を用意し、生後数か月の乳幼児でも乗馬を体験できるよう工夫しました。1歳未満のお子様から100歳を超えるご年配まで、障がいを持った方もそうでない方も、誰もがバリアフリーに乗馬を楽しめる場所は他にあまり無いと思います。

車椅子に乗った人でも、乗馬を楽しめる

地元住民に想いを伝える

--地元への想いと工夫で今までにない領域を開拓されたのですね。一方で、前例のないことを始めることはリスクも伴います。苦労されたこともあったのではないでしょうか。

新盛 そうですね。宮崎の魅力を広く知ってもらいたいという想いとは裏腹に、地元の人々の理解をなかなか得られなかったことが最も苦労した点です。

宮崎の主産業は畜産業であり、体験乗馬の文化も根付いていない中で、障がいを持った方や乳幼児を馬の背に乗せるということは受け入れ難かったようです。そのため、地区会に出向いて地域を盛り上げたいという想いを繰り返し伝え、馬に乗った人々の笑顔を実際に見に来てもらうといった地道な活動を続けました。

ホースパークは地域に受け入れられ、祭りなどに馬が参加することも多い

理解してもらえるまで2年かかりましたが、今では農家に馬の堆肥を渡す代わりに人参を分けていただくなど、地域の人々が一体となって、乗馬をきっかけにした地域活性化に取り組んでいます。

開業当初は週に1人でも予約があれば良い方だったという清武ホースパークだが、今では週に100人以上の予約が入るという。大自然の中で馬と触れ合う癒やしを求め、全国からさまざまな人が集まる。

地域にもともとある観光資源と、それを活かす人の想いが融合することにより、「そこでしかできない、ならではの魅力」を引き出すことは十分可能である。しかしそれには、想いを持ち続け、実現できる方法を様々な視点から模索する努力が不可欠でもある。

パークには馬が11頭、ヤギやウサギ、ネコなどの動物とも触れ合える

山野智久(やまの・ともひさ)
アソビュー代表取締役

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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