2013年11月号

地域未来構想 高知県

田舎発「地デザイナー」という考え方

サコダデザイン

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ある頃から、田舎の景色が浮かび、そこに暮らす人々の声が聞こえてくるような、味のあるデザインが高知県に増えてきた。それらを手がけたのは迫田司氏。氏が唱える「地デザイナー」とは何か。

サコダデザインオフィス。「下手でもいいから地域の人と一緒にデザインしていく方が、思いは絶対にのる」(迫田さん)

高知県の北西部に位置する四万十市西土佐地区。どこにいても山と四万十川の長閑な景色に包まれるこの場所から、全国から注目を集めるデザインが誕生している。都会に張り合うでも擦り寄るでもなく、田舎の匂いや人の息づかいを真っ直ぐに感じさせるデザイン。それらを手かげたサコダデザインの迫田司氏はこう語る。「デザイナーがもてはやされて『あの人にさえ頼めばうまくいく』と考える人もいますが、それでは思考停止状態になっていまいます。有名な人や力のある人がデザインすれば売れるだろうが、果たしてそれが田舎にとって幸せなのでしょうか? 下手でもいいから地域の人と一緒にデザインしていく方が、思いは絶対にのるんです」

地域を表現する「地デザイナー」

迫田さんがデザインした商品

カヌー好きが高じて、この地に移住した迫田さんが最初に手がけたのは隣の住民が作っていた蜂蜜のラベルだった。「せっかく地蜜を採っているから自分で売りたい。お前は絵が描けるんだろう」というシンプルな理由での依頼。ラベルの印刷代がないため判子で量産。住民が「ハチミツ用のヘラも作れる」と木を削って一気に10本作り、瓶にヘラを結わえる縄も編み、その腕の凄さに迫田さんは驚いた。そして、迫田さんが作ったラベルと、住民のアイデアと技を組み合わせた商品が完成。

わずか20瓶しか作らなかったが、日本パッケージ大賞に入選した。「啖呵を切って田舎に来たから試したかったし、意地にもなっていました」とう迫田さんは、その後も地元の米袋のパッケージを手がけてデザイン賞にエントリー。面白いように賞を獲った。ところが、「受賞したことでテレビ取材を受け、お米のことを話したら、宴会の席で生産に関わる人から『分かったようなことを言うな』と言われたんです。

木賃ハウス迫田

確かに、聞いただけの話で自分ではやってないから、分からない。そこを痛感して、すごく悔しかったんです」以来、第一次産業の商品をデザインする時は、生産者と同レベル、或いはその以上の経験を身に付ける努力をしている。「お米のデザインなら自分も絶対お米を作りますし、鮎なら自分も漁へ行きます。肉は自分でさばけないから、『どうやって焼いたら旨いか』を探る。私は他所から来ているから、ここに住んでいる人を尊敬する気持ちからスタートするんです。そうやって地域の人と対等に話ができるぐらいに現場を一緒にしないと信頼は生まれないし、本当のデザインも生まれないんです」地域の人と同じ時間を積み重ねながら、地域のデザインを地域の人と一緒に考える。それこそが迫田氏が唱える「地デザイナー」の姿だ。

町に大工や水道屋が必ずいるように、各地域に地デザイナーがいることが理想だという迫田氏は、地デザイナーのネットワーク化にも力を注いでいる。

全国各地で講座を開き、2年間で53カ所回った。迫田氏へ直接デザインの依頼も来るが、引き受けないのがポリシーだ。「そこにいる人とそこにいるデザイナー、あるいは地域外にいるその地域出身のデザイナーに帰ってきてもらいたい。考え方もデザインも誰も教えられないんです」。

田舎ビジネスの柱は「生産者の考え方」

迫田さんが暮らす四万十市西土佐町の風景

「下手でもいいので信念があり、その地域のことをすごく大事に思っていて、そこに関わるすべての人の思いがのった時にデザインの効果が生まれます」という迫田氏。「地乳(ぢちち)」として売り出した高知県佐川町に古くからある牛乳もその成功例だ。「酪農家がいて、それを販売したい人がいて、それを加工したい人がいる。それを取りまとめてくれる行政の熱い人もいる。

みんなが『これだ』となったものこそが、効果に繋がるんです」。

田舎ビジネスに取り組もうとしている人へのアドバイスは、「地域の人と一緒に、どういう夢を見れるかがポイント」だという。「少しだけ地域に入って何かを作るとか、いい部分だけもらって何かを作るのでは通用しない。

田舎の人は『自分達で作った』という実感が欲しいんです。また、マーケティング理論からいうとニーズからスタートするが、田舎はニーズやターゲットに応えられるようなものは持ってないんです。全て自然のものですし、数も限られています。では、何をマーケティングの柱にするかというと『生産者の考え方』なんです。『こんなものを売りたい』という生産者に共感する人達がターゲットとなり、『何となくこの地域っていいよね』と思ってもらえれば、商品をたくさん買ってもらえる。経済的な成功が世の中的な成功となっていますが、自分達の持っているマーケットボリュームでスピリットを守っていくのが、田舎の成功だと感じます」。

地域のお年寄りに「これ!これ!こういうものが欲しかった」と言われるデザインを追いかけて、迫田氏は今日も地域で生きている。

迫田司代(サコダデザイン 代表取締役)
1966年生。1993年幡多郡四万十市西土佐村へ移住。2011年サコダデザイン株式会社を設立。2004年デザインを手がけた「山間米」が米袋初のグッドデザイン賞受賞。著書に「四万十日用百貨店」(羽鳥書店)。
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