NewsPicks 新モデルの確立へ 課金に込めた未踏を行く決意

経済情報に特化したソーシャルニュースメディア『NewsPicks』。専門家が注目した経済ニュースが、簡単なコメントとともに紹介されるサービスだ。運営するユーザベースは、有料課金の導入など攻めの施策で収益化を狙う。

梅田優祐(ユーザベース代表取締役共同経営者)

「世界一で最も愛される経済メディアをつくること」

ユーザベース代表の梅田優祐氏が掲げるミッションは明確だ。同社は2008年に創業し、企業・業界情報サービス『SPEEDA』の提供で成長を遂げてきた。すでに海外展開を本格化させるなど、『SPEEDA』は大きなビジネスに育ちつつある。そうした中で2013年9月に新規事業として始まったのが、ニュースメディア『NewsPicks』だ。

「発見」のニーズ、「理解」のニーズ

『NewsPicks』は、60を超えるメディアが提供する経済ニュースを集約し、ユーザーが気になるニュースを専門家をはじめとする他ユーザーと共有できるサービスだ。ユーザーの中には、竹中平蔵氏や成毛眞氏、堀江貴文氏など著名人がおり、そうした人たちが、どのようなニュースに注目し、それをどう評価したのかを簡単なコメントで知ることができる。

『NewsPicks』のスタートが2013年になったのは、そのタイミングで『SPEEDA』の安定成長が見えてきたことが大きい。すでに2013年時点で、PCやスマホアプリでニュースを提供し、成長している他社のサービスは存在していた。

「ニュースに対するニーズには、『発見』と『理解』があります。興味のある情報に出会いたいという欲求と、情報の意味するところを理解したいという欲求です」

梅田代表はニュースメディアが増えている状況を見ながらも、「発見」のニーズが満たされつつある一方で、「理解」のニーズは未開拓だと見ていた。特に経済ニュースは専門性が高いため、理解を助けるメディアには大きなチャンスがあると考えていた。

「『NewsPicks』は、ターゲットとするユーザー層や満たそうとしているニーズが、他のニュースメディアとは違います。それにスマホ時代の競争は、スマホのトップ画面にアイコンを置いてもらえるか、そこで利用してもらえるかが重要になる。そうした意味では、フェイスブックやツイッターなどとも競争しているわけです」

自身の体験にビジネスのヒント

人の評価、コメントを見てニュースの意味を理解するという『NewsPicks』のサービス設計の原点は、自身の経験にある。投資銀行時代、ニュースの情報そのものでなく、先輩や周りの人たちがどう反応しているかで、そのニュースの価値を知ることができた。

「新しいサービスをつくるときには、他社のサービスを参考にしたりはしません。ユーザーの声も、できるだけ聞かない。まずは自分だけの世界で、自分だったら何が欲しいのかを徹底して突き詰める。0から1のフェーズでは、あえて見ないようにすることが大切です」

『SPEEDA』で成長しているユーザベースにとって、『NewsPicks』を始めるのは、大きなチャレンジだった。当初は反対意見もあったという。

「まだ『SPEEDA』に集中すべきという意見もありました。正直、私も迷いました。ユーザベースでは、憲法ともいうべき『7つのルール』を定めています。その一つが、『迷ったら挑戦する道を選ぶ』。最後はそのルールにのっとり、決断しました」

スタートから半年を経た今年1月には、ようやく手応えを感じられるところまできた。そして梅田代表は、再び大きな挑戦に打って出る。今年2月に月額1500円の定額有料オプションを開始したのである。

「NewsPicks」では、著名人をフォローすることで、そうした人が注目した経済ニュースや、そのニュースに対するコメントを知ることができる

新たな有料課金のモデルに

定額有料オプションは、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンド、Dow Jonesなど、8つの新聞・雑誌が配信する記事が読み放題になるサービスだ。9月10日時点では、有料会員はまだ500人程度。まだ実験段階のサービスである。それでも、あえて有料課金を始めた理由は何か。

「広告中心のビジネスモデルにはしないという意思表明です。参考にすべきは、紙のモデル。広告とユーザーへの課金を絶妙に組み合わせて、収益をあげています。広告に依存したモデルには限界があります。デジタルの世界でも、1500円の単価で受け入れられるようなサービスを確立しないと、書き手やコンテンツの提供者など外部を含めて、全体が循環する仕組みにならず、未来はないと考えています」

ユーザベースは、有料ユーザー向けの独自コンテンツを充実するべく、今年7月1日付で東洋経済オンライン編集長でもある佐々木紀彦氏を、新設するNewsPicks編集部の編集長として招聘した。

「価値あるコンテンツをつくるにはプロの力が必要です。見やすさや使いやすさなどプラットフォームの部分は、改善が繰り返されていく中で、どこも同じような形に収れんしていくでしょう。プラットフォームの競争をしていても、強みにはつながらない。独自のコンテンツをつくることで、価値を高めることが必要です」

独自コンテンツの企画・制作にはコストがかかる。そのためにも、1500円という単価の有料課金は必要になる。

その他にも『NewsPicks』では、有料ユーザーに向けたさまざまなサービスの充実に力を入れている。この9月には、過去記事の検索サービスを始めることを発表した。

「日々のニュースのようなフローの情報よりも、ストックの情報のほうが課金しやすい。有料会員の獲得に成功したクックパッドの例が示すように、ストックの価値に課金するのは鉄則の一つです」

さらにイベントの開催など、感度の高いビジネスパーソンや専門家とのコネクションが得られる機会の提供にも力を注ぐ。また、海外ニュースの翻訳記事を配信するため、海外メディアとの契約交渉を進めているほか、将来は動画を組み込むことも考えている。

ユーザベースは、8月末に伊藤忠テクノロジーベンチャーズなど9社から4.7億円の資金を調達した。出資者には、講談社も名を連ねている。それも、『NewsPicks』のコンテンツを書籍化することを視野に入れたものだ。

『NewsPicks』が目指すのは、サービスの充実によって有料ユーザーを増やし、有料課金とネイティブ広告(=企業からお金をもらい、その企業についての記事を書くこと)のハイブリッドで成長する新たなビジネスモデルだ。

「スマホ時代になって、PC時代の競争がいったんリセットされました。新たなメディアのモデルをつくるのは今しかない」

デジタル時代のメディアには、未踏の領域がまだ数多く残されている。

梅田 優祐(うめだ・ゆうすけ)
ユーザベース 代表取締役共同経営者

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