『企業に社会的責任はあるのか―資本主義と責任あるビジネス』

『企業に社会的責任はあるのか
―資本主義と責任あるビジネス』

  1. 谷本 寛治 著
  2. 本体2,600円+
  3. 中央経済社
  4. 2026年3月

ビジネスと政治を切り離すことが難しくなっている現実を前に、企業はいかに判断し、どこまで関与すべきかが問われている。ロシアのウクライナ侵攻を契機に、多くの企業が撤退や停止を迫られた一方、対応を曖昧にした企業が批判にさらされた事例が示すように、企業の意思決定はもはや純粋な経済合理性だけでは完結しない。人権や差別、環境といった課題も政治化し、DEIをめぐる政策変更が企業行動に直接影響を与える。企業の判断が社会的・政治的な意味を帯びるのだ。

そのなかで焦点となるのが、企業による「関与の仕方」である。単に法令順守や制度整備にとどまるのか、それとも価値観を明示して社会に働きかけるのか。第3章で扱われるコーポレート・アクティビズムは後者の典型であり、企業が特定の社会的・政治的課題について立場を示し、消費者や社会の行動変容を促そうとする動きである。ブランドや広告を通じてメッセージを発信するこの手法は、商品価値そのものではなく、企業のスタンスへの共感を軸に支持を獲得しようとする点に特徴がある。何を売るのかではなく、どの立場を取る企業なのかが問われる。

具体例として挙げられる米国のベン&ジェリーズは、アイスクリーム事業を超えて、人種的正義や気候変動への対応、難民の権利といった課題に継続的にコミットしてきた企業。環境や労働に配慮した調達・生産と結びつけながら、社会運動にも踏み込む姿勢は、マーケティングと社会変革を同時に成立させようとする試みである。特定の課題に対する立場を明確にし、ブランドとして外部に示すことで、支持や信頼を獲得しようとする。このような実践は、企業がどの課題に向き合い、どの立場を取るのかという選択自体が、経営の一部になっていることを示している。

一方で、日本企業の多くは政治的中立を重視し、制度対応には取り組みつつも、価値観の提示や組織文化の変革には踏み込みきれていない。人権研修やガイドライン整備、育児休暇制度などは整えられてきたが、それが日常の意思決定や評価制度に組み込まれなければ機能しない。どの課題を自社の問題として引き受けるのか、その判断を避けたままでは、制度は形だけにとどまる。従来の組織文化や評価の仕組みまで含めて見直し、社内外のステークホルダーと対話しながら実装していく必要がある。

地政学リスク、社会課題、企業統治、リーダー育成と章を追って論点を広げながら、企業がどの水準で社会に関与するのかを多面的に整理していく。判断基準も1つではない中、どこまで踏み出すのか、その線引きを自ら引き受けることができるかどうかが、企業のあり方を左右し始めている。

 

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