未来の注射は"貼るだけ" コスメディ製薬が挑むマイクロニードル革命
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年1月15日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げて開催された大阪・関西万博。
そこに集まったのは、SDGsの目標を現実に変える技術とアイデアの数々でした。
医療、環境、食、エネルギー ──私たちの生活を変える革新は、どこまで進んでいるのでしょうか。
そう遠くない未来を少しのぞいてみませんか。
近畿経済産業局では、万博を契機にSDGsに取り組む企業の事例を取材し、紹介しています。
今回はその第一弾として、SDGsのゴール「すべての人に健康と福祉を」に真正面から応える企業をご紹介します。
誰もが経験したことのあるインフルエンザや新型コロナウイルスのワクチン接種。
あの「チクッ」とした痛みは、なかなか慣れることができませんよね。
でも、もし“痛くない注射”が実現するとしたら?
そんな願いに、「皮膚」に特化した技術で応えるのが、京都市に本社を構えるコスメディ製薬株式会社です。
「皮膚」に特化する会社
コスメディ製薬は、皮膚から薬剤を体内に吸収させる「TTS(経皮吸収治療)」という技術に特化し、医薬品や化粧品、医療機器などの製品を開発しています。
皮膚は外界から体を守る防御機能を持っており、薬剤を通すことは簡単ではありません。
この課題を解決するために世界的に研究されてきたのが「マイクロニードル」という技術です。
マイクロニードルとは?
マイクロニードルは、長さわずか数百ミクロンの針で、皮膚に貼るだけで薬剤や有効成分を体内に届ける技術です。
針の長さや形状を調整し、角質層の下にある「生きた細胞」に届くように設計することで、薬剤を送達します。
通常の注射に比べて痛みが大幅に軽減され、患者の負担を減らすことができます。
貼るだけでよい、まさに未来の注射といえる技術です。
世界初の「溶解型マイクロニードル」
世界では金属やシリコン製のマイクロニードルが研究されてきましたが、安全性や使いやすさの課題があり、実用化は困難でした。
コスメディ製薬は2008年にこの技術を進化させ、ヒアルロン酸やコラーゲンといった皮膚に含まれる成分を使って針を作り、製品として実用化することに世界で初めて成功しました。
皮膚に刺した針は体内で溶け、薬剤を安全に皮膚の内部に届けることができるのです。
この「溶解型マイクロニードル」は、注射に代わる新しい医療技術として注目されています。
「塗る」マイクロニードルも登場
同社はさらに、タウリンを微細な針状に結晶化し、有効成分を内包させた「タウリン結晶マイクロニードル」を開発。
これを液剤やクリームに配合することで、塗るだけでニードルが皮膚内に挿入され、皮膚の水分で溶けて、内包成分とともに浸透するというスキンケアができる製品も生まれています。
この技術は、近畿経済産業局が関西のものづくり中小企業によって新たに開発された製品や技術等を選定する「関西ものづくり新撰2025」において特別賞を受賞しています。今後は産学連携でアトピー性皮膚炎治療などの医薬品外用剤の開発も進めるそうです。
患者のQOL向上に貢献したい
創業者の権 英淑社長は、創業時から「患者のQOL(生活の質)を高めたい」という思いを持ち続けています。
糖尿病患者の日々の注射の負担や、子どもたちの注射への恐怖を少しでも減らし、より多くの人にやさしい医療を届けたい。
この「Innovation for Friendly medical care」という理念が、技術開発の原動力になっています。
「貼るワクチン」がもたらす未来
コスメディ製薬は、マイクロニードル技術を活用した「貼るワクチン」の実用化をめざして研究を進めています。
将来的に自己投与ができる「貼るワクチン」が実現すれば、医療従事者の負担を減らし、医師や看護師が不足する地域でもワクチン接種が可能になります。
さらに、常温保存ができるため輸送や保管が容易になり、途上国や離島など医療アクセスが難しい地域でも活用できます。
パンデミック時にも迅速な対応が可能となり、世界の医療課題解決に大きく貢献するでしょう。
万博がもたらした変化─社会からの評価と社員の誇り
2025年に開催された大阪・関西万博への参加は、同社にとって大きな挑戦でした。
「関西の企業として、一生に一度の機会に参加したい」という強い思いから、4月には「Japan Expo Paris in Osaka 2025」、8月にはTEAM EXPOパビリオンの「関西ものづくり新撰2025 社会課題に挑むものづくり」に出展しました。
社内の複数部門が連携し、ブースの企画から準備まで一体となって取り組んだと言います。
普段の展示会では出会わない幅広い来場者に自分たちの技術をわかりやすく伝えるために工夫を凝らしたことで、社員自身が自社の技術や価値を改めて理解するきっかけになりました。
また会場では「痛くない注射」を体験した人たちから「すごい!」「痛くない!」という声が上がり、驚きと笑顔であふれていました。
こうした反応は社員にとって、自分たちの技術が社会に役立つことを実感する大きなきっかけとなり、モチベーションの向上にもつながったと言います。
さらに、テレビや新聞などのメディアにも取り上げられ、応援メッセージや問い合わせが殺到するなど、大きな反響を呼びました。
いのち輝く未来社会へ─貼るワクチンで社会課題に貢献
コスメディ製薬のパーパスには、こんな言葉があります。
「もっと、医療のやさしさをまとえる日常へ。もっと、自分らしさがあふれる世界へ。」
社会にある課題に自社の技術でどう貢献できるか、その意識を忘れずに事業を行っていきたいと権社長は話します。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催された万博。その言葉が示すのは、単なる長寿ではなく、一人ひとりが健やかに、そして自分らしく生きる世界です。医療のやさしさを日常に届ける大きな挑戦は、小さな針から始まっています。その挑戦が、いのちの輝きを支える力になっていくでしょう。
元記事へのリンクはこちら。
- 近畿経済産業局 公式note