長崎県・平田研知事 地域資源を基盤に、新たな成長と挑戦を生み出す

2026年3月に就任した平田研知事は、「地域経済の基盤をつくる」「地域を残していく」「未来を担う人材を育てていく」という3つの戦略を掲げ、持続可能な長崎県の実現を目指している。九州新幹線西九州ルートの全線フル規格整備や観光・離島振興、DXなどの多角的アプローチで挑む、その施策を聞いた。

平田 研(長崎県知事)

3つの柱を軸に
選ばれる県づくりを推進

――2026年3月の知事就任より約半年が経ちましたが、知事が目指されている長崎県のビジョンをお聞かせください。

長崎県は非常にポテンシャルの高い県です。高い技術力を持った企業がたくさんありますし、農産品や魚介類も豊富で素晴らしい。世界に誇れる観光資源もたくさんあります。本県は今後、より存在感を高めていける県だと思っています。私のミッションは、長崎県のこうした資源を余すところなく活用し、県民一人ひとりが力を最大限発揮できる環境をつくることです。「地域経済の基盤をつくる」「地域を残していく」「未来を担う人材を育てていく」という3つの柱を掲げ、「長崎県を選んでよかった」「長崎で働いてよかった」「長崎に住んでよかった」と感じていただけるような社会づくりに取り組んでいます。課題は常に現場にありますので、可能な限り県内各地に足を運び、幅広い分野の方々と積極的に意見交換を行い、必要な施策の構築と推進に努めていきたいと思っております。

――3つの柱では、特にどのような施策に注力されていますか。

「地域経済の基盤をつくる」では、造船や半導体などの経済安全保障関連産業の成長促進と、県内経済の基礎を支える一次産業の従事者や中小・小規模事業者の経営基盤強化に取り組み、安定した経済基盤をつくります。2つ目の「地域を残していく」では、県民の暮らしを守るうえで必要な公共交通や医療・介護・福祉サービス等の維持に向けた対策を講じていきます。3つ目の「未来を担う人材を育てていく」では、結婚、妊娠・出産、子育てまで一貫した支援の充実を図るとともに、子どもや若者の挑戦を後押しします。

私は選挙時の公約で、「九州新幹線西九州ルート問題の解決」「長崎こども若者未来ファンドの創設」「日本一働きやすく子育てしやすい長崎県づくり」など、7つの重点施策を掲げました。その中で、物価高騰対策や九州新幹線西九州ルート問題、県北振興対策は、知事就任後、具体的な取組を進めてきたところです。それ以外の施策についても、新たな予算化が必要なものについては全て関連予算として令和8年度6月補正予算に計上しました。

例えば「長崎こども若者未来ファンド」については、新たに「ながさき未来人材育成基金」を創設し、30億円を積み立てて、具体的な支援内容やスキームについて部局横断的に検討しているところです。「日本一共働き・共育てしやすい長崎県づくり」では、最初の取組として、経済団体等々との協定締結による企業への働きかけを行うとともに、好事例の周知や専門家による支援等を通じて、男性の育児休暇取得の一層の促進を図っていきます。これらの施策は長崎県の未来への希望をつくる第一歩となる施策です。今後は関連施策を充実させ、スピード感をもって取り組んでいきます。

造船・半導体・航空機関連産業の
競争力を強化

――成長産業振興のため60億円の積み立てを掲げていますが、具体的にどのような支援策を進めていますか。

まず、造船・半導体・航空機関連産業の競争力強化を進めています。長崎県には長らく地域を支えてきた造船関連産業や、それと並ぶ規模に成長した半導体関連産業、さらに西日本を代表する規模の航空機関連産業など、今後成長が期待されるものづくり産業が集積しています。国の日本成長戦略では、AI・半導体・造船など戦略17分野に官民で370兆円を超す投資目標が掲げられております。長崎県としては、こうした国の動きを絶好の機会と捉え、国からの最大限の支援の獲得を図りながら中小企業の設備投資や人材確保支援に取り組み、造船や半導体などの成長産業のさらなる振興を通じて地域経済の活性化につなげていきます。

地域産業の持続的成長を支援

一方で、本県の事業者の99.9%を占める中小企業では、経営者の平均年齢が61.6歳となっており、後継者の不在率は59.2%と九州で最も高い数字になっています。後継者不在による廃業は地域経済や雇用維持に影響を及ぼしますが、事業承継は成長機会を創出し事業拡大にもつながります。このたび商工団体に専任職員を6人配置しました。事業者のニーズ把握や案件の掘り起こし、経営課題の整理などを行い、事業承継に向けた早い段階からのプッシュ型支援の強化を図ります。

造船技術活かす海洋再エネを推進
スタートアップ育成も一貫支援

――今後新たに成長産業と位置付けて取り組む分野や、スタートアップ支援策についてお聞かせください。

新たな成長産業として洋上風力発電関連分野を重点的に推進したいと考えています。本県は洋上風力発電の適地であることに加え、造船業で培った技術や人材を活かせるという強みがあります。また、本県では全国に先駆けて海洋エネルギー関連産業の振興にも取り組んできました。五島市沖と西海市江島沖は海洋再エネ整備法に基づく促進区域に指定されています。五島市沖については今年1月に全国初の浮体式風力発電の商用運転が開始され、西海市江島沖では2029年の発電開始に向け準備が進められています。

現在、県ではサプライチェーンの構築に向け、設備投資等への支援のほか、発電事業者と元請け企業の商談会を実施するなど県外企業と県内企業のマッチングを促進し、市場参入を図るための後押しをしています。

スタートアップ支援では、長崎市に設置したスタートアップ交流拠点「CO-DEJIMA(コデジマ)」で、創業相談や交流機会の提供をはじめ、県外の有望なスタートアップの誘致、資金調達を目的とした投資家とのマッチング、大企業との取引機会の創出など、創業から成長まで一貫した支援を行っています。こうしたなか、離島のバイオ系スタートアップと大手化粧品メーカー等との共同研究に向けた協議を進めているほか、食品廃棄物を活用した新たな飼料の製造に取り組むスタートアップが大手エンジニアリング企業と実証事業を行ったりと、一定の成果も出てきました。今年度はスタートアップと地場企業の連携による新事業創出支援も予定しています。

スタートアップ交流拠点「CO-DEJIMA」でのイベントの様子

戦略的なインバウンド誘致と
国内需要の確保で観光を強化

――長崎県の観光振興施策についてお聞かせください。

観光産業は交流人口の拡大はもとより地域経済の活性化や雇用創出を支える重要な成長分野です。観光産業の成長を支える大きな柱であるインバウンドは、その6割が東アジアの方々です。

本県の玄関口である長崎空港の国際路線の充実を図るほか、インバウンドのゴールデンルートからの誘客促進や、旅行手配のデジタル化に対応したプロモーションなどにも取り組んでいきます。情報発信のコストが以前より下がった今、世界文化遺産の長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産など、本県の魅力あるコンテンツの情報を発信するなど、さまざまなことを試しながら欧米豪や東アジア地域からの誘客に戦略的に取り組んでいきます。

一方で、国際情勢などの影響を受けない国内需要の確保も重要です。持続的な観光地として発展していくには、観光客数だけでなく観光消費単価の向上やリピーターの獲得にも力を入れる必要があります。世界文化遺産をはじめ、離島や半島の美しい自然など、本県ならではの地域資源を磨き上げるとともに、長崎スタジアムシティやハウステンボスなど民間事業者とも連携しながら滞在型・高付加価値型の観光地づくりを推進し、観光消費額の拡大につなげたいと考えております。

左/大浦天主堂(長崎市)。世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産 右/グラバー園(長崎市)。世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産

九州新幹線西九州ルートの
全線フル規格整備の実現へ

――知事が解決を目指されている九州新幹線西九州ルートについて、現在の課題と進捗についてお聞かせください。

先日、九州新幹線西九州ルートの新鳥栖と武雄温泉区間の整備について、2027年度から環境影響評価を実施するという合意が国と佐賀県の間でなされました。フル規格での着工を前提としたものではありませんが、着工に進む上で大きな一歩となる大変有意義なものであると受け止めております。

西九州新幹線が開業した長崎と武雄温泉間の沿線地域では、新たな投資やまちづくりが進むなど大きな経済効果が出ています。開業1年間の新幹線利用による経済波及効果は、本県の調査で193億円。開業までの公共投資や民間設備投資の経済波及効果は外部機関の調査で1700億円超とされます。このほか長崎駅、諫早駅、新大村駅周辺では特色あるまちづくりが進展し、外資系のラグジュアリーホテルの進出や、スタジアムを核とした複合交流拠点の整備、製造拠点の設備投資の活発化など、経済効果が着実に表れています。

全国の新幹線ネットワークに直結せずとも、この効果です。全線フル規格整備が実現し関西直通運行が実現すれば、年間3200万人の関西圏の外国人観光客の取り込みや、広島との平和を活かした観光連携による欧米豪などの外国人観光客の誘致による交流人口の拡大など、さらに大きな効果が見込まれます。地域産業の活性化に向けても全線フル規格での全国の新幹線ネットワークへの接続が西九州全域の持続的発展に不可欠であると考えています。

2022年9月に開業した西九州新幹線。佐賀県の武雄温泉駅と長崎県の長崎駅を結ぶ

日本一の離島県が取り組む
自立的な循環社会の構築

――長崎県は多くの離島を抱えています。離島振興の取組についてお聞かせください。

長崎県は離島が県土面積の約4割を占め、51の島が離島振興法の対象に指定されています。これは全国最多です。各島は美しい自然や多様な歴史・文化など多くの魅力を有しています。また、我が国の領海や排他的経済水域の保全など、極めて重要な役割を担っています。しかし、離島地域の人口減少や高齢化は本土地域以上に進行し、医療・福祉・交通などの日常生活に不可欠なサービスの維持は厳しい状況です。人口減少に負けない地域をつくるには、産業を活性化し、地域経済を自立的に循環させる必要があります。

県では離島地域の農林水産品の高付加価値化や販路拡大による基幹産業の持続的な発展を推進していきます。加えて有人国境離島法に基づく国の交付金制度などを市町と連携して利用しながら、民間事業者の創業や事業拡大を支援していきます。今年度は創業支援制度や創業事例など各種情報を広く発信するとともに、専門家によるコンサルティングなどを含む伴走型創業支援のプラットフォーム構築にも取り組んでいます。

また、島で働く魅力や支援体制などを島内外に周知するとともに、島のビジネスコンテストを開催し雇用の場の創出や移住者の増加を図っています。

離島地域では医療や介護などの持続的なサービス提供体制の維持確保が課題です。オンライン診療の普及拡大や医療人材の育成・確保対策に取り組む一方で、救急医療分野ではこの7月からドクターヘリを2機体制に拡充し、救急搬送体制を強化しています。また、生活や産業を支える離島航路・航空路については、ジェットフォイルの建造支援や燃料費高騰への対応など、地域の交通基盤の安定的維持確保に努めていきます。

内製型DXで行政を改革
生成AI導入と企業支援を推進

――行政や産業のDX推進やAI活用への取組についてお聞かせください。

DXは経営資源を最大限に活用し、持続可能な行政経営を実現する基盤改革です。本県では庁内の専門チームが各部局に伴走し、現場職員が主体となり業務を可視化し、業務プロセスそのものを見直す内製型の業務改革を展開しています。この内製型の取組は、日本DX大賞2026において、庁内DX部門の奨励賞を受賞しました。

AIは業務プロセス上の課題を解決する有効な手段として、AI-OCRなどの業務特性に応じたデジタルツールの活用を進めています。2024年度から生成AIを全庁的に導入し、文書作成・情報収集・業務整理など、職員の日常業務の効率化を図っています。

中小企業のデジタル化支援については、デジタル人材の育成やIT機器導入の支援を実施し、生産性の向上や業務の効率化が図られ賃上げなどの労働環境の改善につながるような支援を行っており、2023年度から3年間で845者を支援してきました。今年度は、単純なデジタル化に留まらず、売上増や経営改善など新たな価値創出につながり、より高い効果が期待できるAI導入支援を開始したところです。

DX人材を確保するための職場環境改善支援も実施しています。さらに基金を設け、若い世代の挑戦を財政的に後押しする取組も実施しています。人の力は県の力です。今後も人材の育成・確保に注力していきます。

 

平田 研(ひらた・けん)
長崎県知事