100年に一度の大変革期 DX・自動運転が切り拓く自動車産業の進化と成長戦略

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年10月29日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

吉本 一貴:製造産業局 自動車課モビリティDX室。自動車関連税制や自動車のデジタル化推進に関する業務を担当。
吉本 一貴:製造産業局 自動車課モビリティDX室。自動車関連税制や自動車のデジタル化推進に関する業務を担当。

【製造産業局 自動車課モビリティDX室】に聞く、100年に1度の大変革期にある自動車業界の発展のための施策とは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、製造産業局 自動車課モビリティDX室で、自動車関連税制や自動車のDX化への対応を通じて自動車産業の更なる成長と発展に取り組む吉本 一貴さんに話を聞きました。

100年に1度の大変革期とされる自動車業界

―――製造産業局はどのような局ですか。

製造産業局は、鉄や化学製品などの素材から、自動車や産業機械、航空機といった最終製品まで、日本の製造業の全体を担当している部局です。各業界に対して、補助金や税制などの措置を講じていくことで、生産性の向上や新しい技術の導入、人材の育成などを推進し、日本の製造業の成長や発展を促していくことがミッションだと理解しています。

―――その中で自動車課はどのような業務を担当しているのですか。

自動車課は、自動車の完成車・部品の製造のほか、販売やリサイクルも含めたサプライチェーンのほぼ全てを担当しています。加えて、電動化や自動運転といったGXやDXの観点からも政策を検討しています。

自動車1台には部品が数万点含まれているため、自動車のサプライチェーンは広範で、自動車関連の雇用は国内で約550万人とも言われています。日本の経済を支える自動車産業が、しっかりとお金を稼ぎ、更に発展していくために、政策を検討し、実行していくことが自動車課のミッションだと私は考えています。自動車業界は今、コネクティッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェア&サービス(Shared & Services)、電動化(Electric)といった「CASE」と呼ばれる領域で技術革新が急速に進み、100年に1度の大変革期だと言われています。GXやDX、サプライチェーンの強靭化、地政学リスクへの対応、米国の相互関税対策など多岐にわたる論点がありますが、引き続き、自動車産業が日本の基幹産業としてあり続けるために、多角的な視点を持ちながら、骨太に政策を推進していくことが重要だと考えています。

日本経済を支える自動車産業
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―――吉本さんの担当業務についても教えてください。

私自身のメインの担当業務は、自動車のDX関係の業務です。従来の自動車は、単なる移動手段として捉えられていましたが、現在では自動車本体が、外部と通信出来るようになったり、自動車にソフトウェアが搭載され、それを日々更新出来るようになったりと、スマートフォンのような機能も備えた自動車が出てきています。自動車の機能が日々アップデートされるので、新しい体験や空間が提供され続けるということになります。これがSDV(Software Defined Vehicle)と呼ばれる車です。このSDVの推進のために出来ることは何かを考えることが私の担当になります。

SDV化の進展により、ソフトウェアの重要性が増し、SDVに適したハードウェア開発(半導体や制御機器など)が必要となるなど、自動車全体の構造や設計が大きく変化しています。また、外部との通信が可能となることで、サイバーセキュリティの課題についてもこれまで以上に考える必要があります。更に、自動車から色んなデータを取得することが出来るようにもなるため、そのデータを利活用することで、どう新しい価値を生みだすか、といったことも重要になってきます。このように論点は多岐にわたりますが、業界とも協力しつつ、安全で便利な交通社会の実現、グローバルに広がる新たな市場での付加価値獲得につながるように、貢献できればと思っています。この他にも、自動車の税制や足元の関税対応などについても担当しています。

日本経済を支える自動車産業
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日々アップデートされる技術とそれに伴う課題に向き合い、業界の更なる成長のための施策を検討
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ソフトウェアのアップデートにより常に新しい体験を提供するSDV。AI技術の活用も顕著に

―――読者の方にぜひ知って欲しいトピックは。

最近では、自動車の世界においてもAI技術の活用が進んでいます。車両の製造工程においてAIを活用し、製造プロセスをより効率化するという取り組みもありますが、足元では、自動運転にAI技術を活用するという流れが顕著です。これまで自動運転は、プログラムされた交通・運転ルールに基づいて車両を制御(走る・曲がる・止まる)していましたが、自動運転における、認知・予測・判断・制御のプロセスにおいて、AIを活用する車が米国や中国を中心にどんどん出てきています。

今日まさにAIを活用した自動運転車両に試乗してきました。運転席に人は座っているものの、ほぼ手放しで人が介入することなく、多くの人が通るような道を自動運転で走行していました。人間が運転している時のように、信号のない交差点で歩行者が出てきた時には停止し、歩行者が通過したら進む、また歩行者側が道を横断せず立ち止まることもありますが、その場合は車側が安全なスピードで少しずつ進みながら、通過できると判断したら一気に交差点を通過するなど、我々が実際に運転する時のような挙動を取ることが出来るようになってきています。安全性を確保することはもちろん重要ですが、AIを活用することで、運転時の天候や道路状況などの無数のパターンへの対応力も上がっており、自動運転により走行できる範囲が広がっています。

―――日本における自動運転の取り組みはどうですか。

日本でも自動運転の取り組みを進めていく必要があるのですが、自動運転技術の開発にあたっては、データの取得・活用が非常に重要です。データは量・質の両方が必要になりますが、アメリカや中国は自動運転の車をどんどん走らせて、データを取り、さらにそれを活用して自動運転技術を改善させていくというプロセスを回しています。こうした中で、日本としても、データをいかに取っていくかということなどが課題になってきます。まさに今、日本としての勝ち筋を議論しているところであり、民間が独自で取り組みを進める部分と、業界内で協調して進める部分、政府が介入していく部分をしっかりと見極めつつ、自動車業界を後押ししていくことは、重要だと考えています。

―――業務の中で、やりがいや難しさを感じるのはどんなところですか。

自動車業界として取り組むべき課題はたくさんあるのですが、人も時間も限られているため、何がボトルネックになっているのかを見極めていくことが大事だと日々感じています。生成AIにしても、数年前から比べると今では日常にも溶け込んでおり、自動運転で使われるところまで来ています。このような技術の進歩のスピードは目覚ましく、技術動向をしっかりとキャッチアップしておかないと業界の方とも会話できません。一定の仮説を持ち、業界にヒアリングをしたり、有識者の方々と意見交換などをすることで、政府としてやるべきことは何なのか、どのような方向性を目指すべきなのかなどを考え、政策を進めていくことが、シンプルではありますが、重要であり、難しい部分だと感じています。国の政策によって企業行動を変容させ、それによって国内投資の増加や雇用の拡大などにも繋がってくることを考えると、自動車業界は非常に大きいため責任も重大ですが、インパクトも大きく、とてもやりがいのある面白い仕事だと感じています。

きっかけは、中小企業での現場研修。日本の製造業を支えたい

―――もともと、製造業界に興味があったのですか?

はい。入省後の研修で約1か月現場に入らせていただき、実態を勉強させていただくものがありますが、私は愛知県の熱処理を行う中小企業に訪問させていただきました。熱処理とは、日本刀を作る時と同じ原理で、熱を加え冷ますことで性能を変化させることを言いますが、処理の前後で見た目は変わりません。用途によって、硬くしたいとか、柔らかくすることで折れにくくしたいなど、発注企業の求める性能に対応する熱処理を行って出荷します。

この研修を通じて、ひとつひとつの技術や各企業が、日本の製造業を支えているということを、身をもって実感しました。研修先の方とお話しする中でも、例えばデジタル化を進めるにはどうすればいいのか、デジタル化が進んでいる企業はなぜ上手くいっているのかなど、こうした具体的な課題についても議論させていただきましたが、そこにおいても、政府に求められている役割や出来ることがあると実感し、現場との関係で手触り感のある仕事がしたいと興味を持ちました。

―――現場を見て、国だからこそできることがあると感じられたのですね。

例えば脱炭素化は、国際的にカーボンニュートラルの取り組みが求められていたり、株主から評価される世界もあるので、企業としても取り組む必要はあると思いますが、どうしても企業目線では現状からの変化も伴い費用もかかるため、難しさはあると思います。実際に研修の中で、中小企業の方と会話しましたが、利益に繋がらないことは取り組むことが難しいという話もありました。このように企業が、経済活動の中で取り組むきっかけがないと動かない課題はいくつかあると思うのですが、例えば、税制優遇や補助金などによって企業の取り組みを後押しし、脱炭素化の取り組みを推進していくことなどは、国の役割だと思っています。今は自動車業界を担当していますが、どう業界の未来を考え描きながら、政策を組んでいくかが重要だと考えます。企業間での連携についても、企業だけでは解決が難しいこともあるため、こうした課題に取り組めることは、経産省ならではの仕事だと思いますし、そこに魅力を感じています。

吉本 一貴さん

―――日本の基幹産業を支えるために日々奔走されている吉本さんですが、ご自身なりのリフレッシュ方法はありますか。

大学生の頃から、躰道(たいどう)という武道を続けています。躰道は空手派生の武道で、大きく体を倒しながら蹴ったり、バク転やバク宙などのアクロバティックな動きが特徴です。社会人道場があり、そこで毎週練習しています。たまに学生の稽古に顔を出すこともあります。仕事以外のコミュニティで、時にはフレッシュな学生たちと話しながら一緒に躰道を楽しみつつ、リフレッシュしています。

躰道を楽しみつつ、リフレッシュする吉本 一貴さん

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