医療機器サービス海外展開へ 重点支援分野を整理し日本の強みを活かす
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年2月26日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
【商務・サービスグループ ヘルスケア産業課】に聞く、これからのヘルスケア産業の海外展開に必要なこととは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、商務・サービスグループ ヘルスケア産業課で、医療機器やサービスの海外展開支援や介護と仕事の両立のための土台作りに取り組む栂 香菜子さんに話を聞きました。
PHRを活用したビジネスも熱い!ヘルスケア産業の市場形成・海外展開を後押し
――― ご所属の商務・サービスグループはどのような部局ですか。
商取引や流通、サービス、医療・ヘルスケアに関する政策全般を担当する部局です。小売や物流だけでなく、コンテンツ産業、健康・介護サービス、バイオ産業、教育やスポーツ産業など本当に幅広い政策を取り扱っています。万博の担当課室もあり、昨年は大忙しだったようです。こうした幅広い分野の産業振興を通じて、生産性の向上や付加価値の創出、消費者と事業者の取引環境の改善などに取り組んでいます。
――― その中で、栂さんが所属しているヘルスケア産業課はどのような業務を担っていますか。
健康経営の推進や、健康データや医療情報(パーソナル・ヘルス・レコード:生涯にわたる個人の健康・医療に関わる情報)を扱ったサービスを作っています。また、厚生労働省と連携した介護施策や認知症施策として、働きながら介護をされている方の負担軽減への対応も行っています。ヘルスケアサービスを開発する際に必要なエビデンスに関する指針の作成や業界団体とのガイドラインの作成、さらにはヘルスケア関連のスタートアップ支援、医療・介護・ヘルスケアの国際展開も取り組んでいます。
――― 医療・介護というと厚生労働省のイメージがありますが、当省でも担当しているのですね。
健康保険や介護保険などの制度に関することは主に厚生労働省が担当しています。当省では、制度以外の部分、特に産業・ビジネス振興の観点で政策を進めています。
――― 栂さんの業務についても教えてください。
国際班と介護班の二つの班に所属しています。国際班では、医療機器・サービスの海外展開に対する支援や、治療や検診など医療を目的として来日する外国人の受け入れ(医療インバウンド)推進のための政策を担当しています。介護班では、介護と仕事の両立を推進するため、職場での認知度向上・理解促進にむけての取り組みや広報活動に力を入れています。
産官学+医で海外展開を考える、MExx構想とは?
――― 医療機器やサービスの海外展開に対する支援とは?
大きく2つあります。1つは、途上国に対して医療機器やサービスを展開していきたいと考えている組織を支援するための補助金を執行しています。
もう1つはMExx構想です。各国に医療の発展、産業の育成・成長を支援する産官学医のハブ組織を作り、相互連携させていく構想のことで、xxには国名が入ります。経産省とERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)、MEJ(Medical Excellence JAPAN)が連携して取り組んでいます。
MEJは、健康・医療の国際展開を進めていこうという政府方針の下、2011年に立ち上がった一般社団法人です。医療の海外展開においては、製品を売る相手方だけでなく、病院や現地医学会・行政などの多様な関係者とも連携して進めなければなりません。産官学とよく言いますが、そこに医療をプラスし産官学医が連携して海外展開できる組織を立ち上げようということでMEJが設立されました。MEJとERIA、経産省の三つの組織で協力して、日本の医療機器やサービスの海外展開を進めるべく取り組んでいるのが、MExx構想です。
――― 医療インバウンドの推進については、どのようなことをされているのですか。
「日本で治療や検診を受けたい」と思ったところから、実際に病院に行くまでのプロセスを後方支援しています。日本で治療や検診を受けるためには、国籍や受診内容によって医療や治療に特化した医療滞在ビザの取得が必要になります。ビザを取得するためには、身元保証を受ける必要があるのですが、医療滞在ビザの身元保証は誰でもできるわけではなく、経産省や観光庁・外務省が認めた機関のみ対応できます。私は、その身元保証機関の審査や制度運用を担当しています。
――― 制度運用に課題はありますか?
医療滞在ビザを取得して日本に来ていただく際、日本の医療滞在ビザ取得には様々な書類が必要で、申請に時間かかるという問題があります。東南アジアでもタイやシンガポールは医療インバウンドを多く受け入れていますが、ビザを申請してからその国に入国できるまでの期間は日本と比較して短く、外国人の方がどの国で検診を受けようか、治療してもらおうかと考えた時に、日本が選ばれなくなってしまうという課題があります。
もちろん適切な書類の提出を求め、審査を行うこと自体は重要ですので、ビザ申請をするまでに複雑な手続きになっていないか、改善できるところはないか、という視点で議論をしています。
また、たくさんの患者を受け入れればいいものではなく、まずは国内の医療ニーズを満たすことが第一優先です。その上で、日本の治療を受けたいと思っている外国人の方々に来てもらい、日本の医療水準の高さや医療機器・サービスの良さを知ってもらうことができれば、日本の治療機器や診断機器に興味を持ってもらうきっかけとなり、新たなビジネスチャンスに繋がると考えています。インバウンドとアウトバウンドが循環してうまく回っていくとよいなと思っています。
――― 国際業務について伺ってきましたが、国内向けには介護についての理解促進を図ることも重要ですね。
はい。介護に関してはOPEN CARE PROJECTという事業を担当しています。今年度は2つのプロジェクトを走らせているのですが、1つ目は介護についてもっと広く知ってもらうよう取り組みをしている方を表彰するOPEN CARE PROJECT AWARDです。個人が表彰対象のエピソード部門と、団体が表彰対象のアクション部門があります。
2つ目は、OPEN CARE CHALLENGEです。今までは自分たちで企画したり、AWARDのように取り組んでいる方を表彰したりして、活動をしていたのですが、今回は介護の周知・理解向上のためにプロジェクトを実際に行う方々に対して、行政やコンサル、クリエイティブ企業が一丸となり、アドバイザーという形で伴走支援を行うというものです。

政策を届ける人の顔が浮かんだとき、頑張ろうと思える
――― 多くの方々に知ってほしいトピックはありますか?
医療機器・サービスの海外展開について5年ほど前に検討会を実施して、MExx構想が生まれたのですが、ビジネスを取り巻く環境も変わっている中で改めてこの5年の振り返りと今後について考えるため検討会を開催することになりました。この5年の間に、データを使用したサービスが生まれ、単に医療機器を売って終わりではなく、機器と共にどういうサービスが提供できるのかが重要視されるようになりました。「モノ売り」から「コト売り」に変わってきています。
新興国が成長していく中で、自国内で機器を製造・販売する企業も増えてきました。単純な価格競争で日本が勝つことは難しく、モノだけでなく、サービスや人材育成などとセットで勝ち筋を見いだす必要があると考えています。こうした状況下で、医療や介護と大きく括ってしまうと対象が幅広く、経産省のリソースも限られることを考えると、国・地域別にどの分野で何を重点的に支援するべきか、日本の強みや他省庁の政策も踏まえて、どこに勝ち筋があるのか改めて整理すべきだと感じていて、今回の検討会のテーマとして取り扱っていこうと考えています。
――― 日々の業務の中で難しさを感じることはありますか。
国際政策で一番難しさを感じるのは、現場が近くにないことです。現場視察も海外出張を伴うので、国内のように簡単には見にいけません。一方で、現場を見ないと、企業がどのような環境でビジネスに挑戦しているのか把握できない面もあります。
途上国と言っても、発展度合いは国によって全く違います。タイやベトナムに視察に行った際、民間の病院は施設がとてもきれいで、かなり整っている印象を受けた一方、公立の病院では、廊下や階段にも待っている人がおり、病室に入りきらないベッドが廊下に並べられていて、全く雰囲気が違いました。途上国とひとくくりにするのではなく、町の様子や視察先の方の温度感などレポートからでは受け取れない、実際にコミュニケーションを取っていく中で生まれる発見は大事にしていくべきだと実感しました。
――― プレイヤーが多い事業では調整の難しさもありますよね。
MExx構想は、成り立ちも目的も異なる3組織が一緒に進めているので、ときにうまくいかないことやトラブルも起こります。何か食い違いが起きた時には、まずファクトを正確に確認すること、ゴールとプロセスをあらかじめ描いた上で調整することを心がけています。
政策は経産省の職員だけで進められるものではなく、現場の最前線で一緒に動いてくれる方々との協力が必要不可欠です。現場の方々が動きやすい環境を作ることが大事なんだということも常に意識して調整しています。一社でも多く「自分も海外展開に挑戦してみよう」と思ってくれる企業を生み出すことが大事だと考えているので、海外展開に興味を持った方々が相談できる先をしっかり確保するためにも、丁寧な調整をして進めて行くことが重要だと思っています。
――― 最後に、栂さんがやりがいを感じる瞬間を教えてください!
自分が取り組んだ仕事の先に誰がいるかが分かってきた時に、頑張ろうと思えます。前の部署では課室の総括として、室員の業務が円滑に行くようにサポートする仕事だったので、室員の業務が滞りなく進んだり、フィードバックがあったりするとモチベーションが上がりました。
現在の部署でも、自分の担当している施策の先に誰がいるのか見えてきたときにやりがいを感じます。そういった意味でも、海外視察で医療現場を見たり、国内の介護現場を訪れた経験は大きかったと思いますし、政策を進める上で現場を見て学ぶことは重要だと感じています!
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