Sakana AIはなぜユニコーンとなったのか。日本発ディープテックの革新的な挑戦とは…

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年2月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ディープテックは、「Deep(深い)」「Technology(技術)」を組み合わせた造語だ。

特定の自然科学分野での科学的な発見に基づく技術を活用し、事業化・社会実装を実現出来れば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題への解決など社会にインパクトを与えることができる。そのような潜在力のあるスタートアップをディープテック・スタートアップと呼んでいる。

斬新なアプローチによるAI開発で注目を集める「Sakana AI」は日本発のディープテック・スタートアップであり、創業から約1年という日本最速で評価額10億ドル以上に急成長したユニコーン企業としても知られている。

Sakana AI公式ホームページより
Sakana AI公式ホームページより

「米国の後追いはしない」「使えるものをつくる」

「つくり方で絶対に米国の後追いはしない。そして、使えるものをつくらなければいけない」

Sakana AIの最高執行責任者(COO)を務める伊藤錬さんは、創業時、こう決意していたという。

Sakana AIは、Googleの元研究者で生成AI革命の基盤技術となった論文「Attention Is All You Need」の共著者の一人であるライオン・ジョーンズ氏、同じくGoogle Brainの東京チームトップを務めた経験のあるデビッド・ハ氏、そして外交官出身の伊藤さんの3人が2023年に創業した。

大規模なAIモデルをつくるのではなく、複数のモデルを組み合わせて新たな基盤モデルを生成する「進化的モデルマージ」や研究アイデアの生成から実験、論文執筆、査読までの研究開発そのものをAIが自動的に行う「AIサイエンティスト」など、画期的な技術を生み出し続けている。

「米国の後追いはしない」と語る伊藤錬さん
「米国の後追いはしない」と語る伊藤錬さん

「暗黙知」を吸い上げ、使えるモデルに

創業時の決意について、伊藤さんはこう解説する。

「つくり方で米国の後追いをすることは、Open AIやGoogleになろうとすることです。とにかくモデルを大きくしていくというやり方ですが、それだと資金力のみの勝負になり、米国以外の国は勝てない。ならば違う方法を追求しようと考えました」

「使えるものにしなければいけないという点にも強い思いを持っています。例えばメガバンクが持っている顧客データをすべて入力すれば、AIが住宅ローンの審査が出来るかと言えば、絶対にできません。新人銀行員がマニュアルを読んだだけでは審査ができないのと同じで、そこには必要となる経験と蓄積に基づく暗黙知が海のように広がっているからです。この暗黙知を吸い上げて、使い方に反映させるのがAIのもう一つの仕事です。これはAI以前のテクノロジーではできなかったことです」

目指すは「日本の産業界を強くすること」

では、Sakana AIは、どんなパートナーと何を目指すのか。伊藤さんは、「パートナーは日本の産業界、目指すのは顧客のビジネスを強化すること」と明言する。

「我々はAIだけでお金儲けをしたいわけではありません、AIによってお客様のビジネスを強くしようとしているのです。Sakana AIは、AI単独で勝とうという気は全くありません。AIは産業とのかけ算で価値を生みます。日本の銀行や製造業、防衛産業をAIで強くするための会社なんです」

実際、Sakana AIが最初のターゲットと定めたメガバンクとの包括的パートナーシップは、「想定以上にうまくいった」(伊藤さん)という。これが呼び水となって、スペインの金融最大手サンタンデール銀行などが増資の引受先として名を連ねている。

Sakana AIはこうしたパートナーから資金を調達し、生成AIを使った稟議書作成や顧客ごとに資産運用を提案できるシステムなどの構築を進めている。

変化に柔軟に対応し、半歩先を行く

Sakana AIは、どのような指針に基づいて行動しているのか。伊藤さんは状況に応じて変化できる柔軟性と半歩先を行くことの2点を強調した。

「AIの世界は変化が激しく、計画したことをそのままやろうとすると確実に失敗します。何が芽を出しそうか探しだし、見つけたらそちらに舵(かじ)を切る。フレキシブルに変化できるかどうかが重要です。もう一つは他よりも半歩先を行くことです。100歩先を行くと道を外れてしまいます。私はビジネス面で半歩先はどこか考え続けていますし、ほかの二人の創業者は技術面で半歩先は何かと毎日考え、毎日その方向を変えながら探っているのです」

こうしたビジョンと行動を支えているSakana AIの組織は、エンジニアの半数が日本人、半数が海外出身で構成される多国籍チームだ。「AIは言語に関係のない世界普遍のテクノロジーなので、ガラパゴスになってはダメなのです。日本国内で閉じたAI開発はあり得ません」と伊藤さんは断言する。

Sakana AIという社名には「魚の群れなど自然界の生物に着想を得た人工知能を開発したい」との思いが込められているという
Sakana AIという社名には「魚の群れなど自然界の生物に着想を得た人工知能を開発したい」との思いが込められているという

AIは若者たちのゲーム。アイデアを世に問うて起業を

革新的アプローチでイノベーションを図るディープテック・スタートアップであり、ユニコーン企業でもあるSakana AI。伊藤さんは、起業を目指す若者たちにエールを送る。

「AIは若い方たちのゲームだと思っています。私自身、とにかく社会の若いエンジニアやリサーチャーの発想を吸収することばかり考えています。起業を目指す若者には、せっかく若いのだから、自らのアイデアを世に問うて起業して欲しいと思います」

ディープテック支援に政府も本腰

Sakana AIは創業から約1年という短期間で、一気にユニコーン企業へと駆け上がっていった。

ただ、一般にディープテック・スタートアップは、研究開発から社会実装までに多額の資金と長期間を要することから社会実装のハードルが高いと言われている。

ディープテック分野のエコシステムには、担い手となるディープテック・スタートアップと新技術のシーズを生み出す大学などの研究機関、資金を提供するベンチャーキャピタル(VC)などの投資家、社会実装のための連携相手となる事業会社など、多くの関係先で構成されており、多様な連携を持続的に進めていく仕組みをどのようにしてつくっていくか。国も支援に力を入れている。

2022年度には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に1000億円の基金を設立するなどし、「シード期」「アーリー期」と呼ばれる研究開発段階での支援事業をスタート。さらに産業競争力強化法を改正し、ディープテックの量産体制整備のための民間金融機関からの融資に対し、中小企業基盤整備機構が債務保証を行うなど、量産化に向かう事業開発段階での支援も強化した。

経済産業省は、「初期研究開発から量産化実証まで一気通貫で支援しています。成長段階に応じて施策を充実させていきたい」としている。

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