出張ルールを検証、業務効率化へ 長野県、自治体旅費業務を変革

経路や料金が適切かを審査するために人手と時間がかかる旅費精算は、デジタル化の恩恵が大きい作業だ。「長野県に学ぶ旅費業務のデジタル変革 先進事例対談」と題し、旅費業務の効率化を図る長野県の取組について紹介した。

坪井 康徳 長野県 総務部総務事務課 担当係長

出張経路が経済的か
確認作業にかかる労力に課題

福田 長野県における旅費精算の現状と課題についてお話しください。

福田 貴容 コンカー 公共営業本部 部長

坪井 長野県では、従前の業務改革時からすでに実費精算を取り入れています。旅行命令は所属部署内で処理し、旅費支払いの審査は、事務の集約化の観点から総務事務課で処理。しかし、旅行命令から旅費精算まで、同じシステムで行っています。

審査は、旅程と旅費が、経済的かつ合理的かどうかの確認と、証拠書類の照合を主な内容としていますが、これを1つひとつ人手で確認しているため、多くの人員を要している点が課題。現在、会計年度任用職員などが13名、それを支える職員3名で、旅費の審査を主業務としている状態です。

民間企業では、GPSデータを連携して、証拠書類の照合そのものを不要にしたり、クラウドサービスを活用した照合で、正確性を担保しながらより少ない人数で運用していると聞きます。民間と行政で、旅費精算業務にそれほど大きな違いはない中、効率性に大きな差があるのはなぜか、検討している状況です。

福田 旅費業務効率化に対する検討ポイントとは。

坪井 主に2つあります。1つは、経済的かつ合理的な経路を厳格に追求するルールに則る場合と、より簡素なルールで運用した場合、本当に両者に大きな差が出るのかを見ること。

2つ目は、現在同じシステムで処理している旅行命令と旅費精算について、そもそもこの2つを連携する必要があるのか、ということです。

この2つ目のポイントに関して、先に詳しくお話します。現在長野県では、旅行命令の時点で、金額と行程をほぼ完全な状態で入力し、それを精算時に引き継ぎます。ところが民間企業等では、社員に、いつどこに行くように、という旅行命令の時点で詳細な行程を入れるような事務処理は見受けられません。ですから、長野県で使っている機能を備えている民間のシステムはほぼ存在しません。現在長野県で使用している情報システムは、パッケージシステムではありますが、事実上、長野県仕様になっています。旅行命令と旅費精算の連携が必要か不要かの判断は、民間システムを、大きなカスタマイズをせずにそのまま利用できるかどうかの大きな分かれ目になりますので、制度を所管している関係部局と調整しているところです。

データをもとに検証
簡単なルールでも旅費はほぼ同じ

福田 1つ目の検討ポイントである、行程と金額を決めるルールの検証におついてはいかがですか。

坪井 具体的には、「経済的かつ合理的な経路で」という厳格なルールで行われた2021年の旅費精算データを使い、簡素なルールで同じ出張をすれば、旅費がどうなるかを検証しました。

今は、経路検索アプリ等を使えば、目的地までの様々な行き方が表示され、それぞれに「速い」「安い」「簡単」などの評価が付いています。どれを選んでもいいのですが、検証では3つのうち最も高額になる経路を選び旅費を算出してみました。

かつ、公共交通機関が十分ではない長野県では車での出張も必要で、公用車の数が限られるため、職員の自家用車を公用車扱いにして出張するケースも多くあります。この場合、1kmあたり30円で計算し精算します。この自家用車での出張に関しては、申請された発着地をgoogleマップ等で確認し、表示された距離を使いました。

こういった簡素なルールかつ方法により、2021年に行われた出張のうち無作為に抽出した384件の旅費を算出してみました。すると、実際の旅費に対し、今回のシステムで算出された額は、384件全体の合計で170円高。つまり、出張一件あたりで平均するとプラス0.4円であり、全く誤差がないと言い切ってもいいような実証結果となりました(図参照)。この実証をもって、簡素なルールでも、充分に経済的かつ合理的な行程や金額の出張ができると、県内部で調整しているところです。

図 旅費算出の誤差検証

経費精算システムを使って、過去の出張の旅費を算出したところ、実際の支払額との誤差は非常に少なかった

福田 新たなルールを導入するにあたり、調整が必要なポイントは。

坪井 前述した通り、旅行命令の情報を旅費精算と連携させる必要があるかどうか、です。もしこれが必須となれば、長野県では、民間で利用されているシステムの大半が、そのままでは使えないということになります。法的にも旅行命令と精算を紐づける必要はなさそうで、県の条例や規則を確認しても同様ですので、連携しなくても問題はないと思います。しかしこれまで同じシステムで処理していたので、調整は必要かと考えています。また、職員の異動に関わる赴任旅費など、普通旅費とは違って細かな取り決めがされている旅費精算を、システムで対応可能かどうかの調整も必要だと思います。

出張の「経済的かつ合理的」という考え方を簡素化すること。これが長野県の成功のシナリオだと考えています。また、旅行命令を別管理とすること。これによって証拠書類の照合でクラウドサービスが利用できます。

そのほかのポイントとして、予算管理が挙げられます。行政は複式簿記ではなく単式簿記です。その代わり、単式簿記で様々なことを表現しますので、予算科目が非常に多岐にわたります。そのような点もうまく調整しながらやっていきたいと考えています。

福田 コンカーへの期待はどのようなことでしょうか。

坪井 旅費精算に限らず、支払い処理というものは、民間企業においてもIT活用で大きな省力化に成功している分野だと思います。一方で、金銭を扱うため、不正などのリスクが伴うのが支払い処理です。不正等に対するリスクコントロールのノウハウがシステムに埋め込まれていれば、逆に、システムを導入することによって不正防止のノウハウを取り入れていくことができる。かつ、省力化も進められるとなれば、システム導入に対する機運が非常に高まってくるのではないでしょうか。

 

[好評につきアーカイブ配信決定]
こちらの記事に関するイベントのアーカイブ配信を7月1日~7月31日の期間限定で実施いたします。
お申し込みは以下のリンクより可能です。
https://www.mpd.ac.jp/events/20230621_concur/

 

お問い合わせ先


株式会社コンカー
E-mail:info_japan@concur.com
Tel:03-6737-4300(平日10:00-17:00)

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。