『AI中心の経営』 技術と経営の「交点」から踏み出す構造改革

『AI中心の経営 The AI-Centered Enterprise:ACE
への組織改革』

  1. ラム・バラ、ナタラジャン・バラサブラマニアン、
    アミット・ジョシ 著/森 健 訳
  2. 本体2,800円+税
  3. 日本経済新聞出版
  4. 2026年7月

生成AIの活用は、現状、多くの場合に文書作成や要約といった個別のタスクにとどまっているが、AIの潜在力を最大限に引き出すには、組織の構造と業務遂行のありかたそのものを組み替える必要がある。AIの導入と活用が経営戦略の基軸となりつつある今、技術の解説書ではなく、技術と経営の「交点」に焦点を絞り込んだのが本書だ。

著者は、サンタクララ大学リービー・スクール・オブ・ビジネスのラム・バラ、シラキュース大学ホイットマン経営大学院のナタラジャン・バラサブラマニアン、スイスのビジネススクールIMDのアミット・ジョシ。いずれもAIとアナリティクスを専門とする研究者だ。

鍵となるのが、書名にも掲げられた「AI中心企業」(AI-Centered Enterprise、ACE)という概念だ。著者らはあるべき企業組織の姿をこう名付け、従来の分業や階層の枠組みによる組織と業務遂行のありかたが変わっていくことを論じる。ここでの「中心」は、人間の従業員を周縁に押しやることを決して意味しない。ビジネス基盤の中心にAIを置くことで生産性を高め、従業員同士のコラボレーションを引き出す。あくまで人間を主役とした組織像だ。

全10章は3部からなる。基礎編では、生成AIが、非構造化データに含まれる「内容」と「意図」の双方を捉える「文脈認識AI」へ進化していく見通しを示す。想像編は、そこから生まれる価値をタスクの生産性向上、インタラクションの強化、マーケットプレイスの充実という3つのレベルに整理する。従業員個人の生産性向上にとどまっている企業に対し、価値創出の可能性をより大きく構想することを促す。

実践編は「ではどう取り組むのか」に答える。用途に応じてAIを調整する「キャリブレート」、戦略的な影響を明確にする「クラリファイ」、実装への道筋をつくる「チャネライズ」からなる3Cフレームワークと、組織内の情報の流れを組み替える「ビジネスインフォメーションリエンジニアリング」を軸に、プロセスと組織構造を変革する手順と留意点を示す。

著者らは、先端の技術的動向を踏まえた具体的なプロセスを紹介しながら、同時に、ACEへの変革はこれまでの「あたりまえ」に疑問を呈することから始まるという。業界や業務に精通していない立場からの素朴な「なぜ」を受け止められる組織ほど、移行は早いという指摘は示唆的だ。分業と階層を前提としてきた組織のかたちは、AIを中心に据えたときにどう変わるのか。「効率化」の先に大きく広がっている可能性をつかみ取り、新たな組織や事業を構想しようとする者の背中を強く押してくれるはずだ。

 

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