再エネのメリットを、「ワクワク感」をもって分かりやすく伝える

日本が宣言している2050年のカーボンニュートラル達成に向け、各自治体も様々な取り組みを進める必要がある。2022年9月22日に開催・配信されたオンラインセミナーの一環として実施されたトークセッションでは、3人の専門家が登壇、今、自治体は何をどう進めるべきかについて語り合った。

今回のオンラインセミナーは、「官民連携で共創する脱炭素型まちづくり」と題し、脱炭素と地域活性をつなぐ官民連携をテーマに開催された。そのトークセッションに登場したのは、行政の立場から横浜市の高橋一彰氏、再エネを扱う事業者として辻基樹氏、そして、事業構想大学院大学准教授の重藤さわ子氏の3名。それぞれの立場から語られた内容から、自治体が今何をすべきか、そのヒントを探る。

課題は、家庭からのCO2

2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言以来、国と地方は連携して取り組みを進めている。その1つである国・地方脱炭素実現会議には、高橋氏が勤務する横浜市の市長も参加。この会議で策定された地域脱炭素ロードマップでは、2030年までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域をつくり、これをモデルに全国に脱炭素ドミノを起こし、カーボンニュートラル達成を目指している。

またこの会議では、ゼロカーボンを宣言した市町村で構成されるゼロカーボン市町村協議会が設立された。現在の会長都市を横浜市が務めている。高橋氏は、「2022年4月に脱炭素先行地域に選定されたみなとみらい21地区で、大都市型の脱炭素化モデルをつくる取組をすすめています。例えば、先行地域の内外での太陽光発電設備の設置等による民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロをはじめ、徹底した省エネや地域一体となったエネルギーマネジメントなどを進めています」と話す。

高橋 一彰 横浜市 温暖化対策統括本部 企画調整部担当部長

一方で課題もある。「全体的には減少傾向にあるCO2排出量も、家庭部門からの排出量はほぼ変わっていません。住宅が多い横浜市は、全国と比べても家庭からのCO2排出量の割合が多い。これを低減させる必要があります」。

そのために、再エネの購入希望者を募集し、需要をまとめることで価格低減を図り、再エネ電力の購入を促す取組を関東の九都県市で実施してきた。それでも、CO2排出量の削減効果への寄与は高くないという。その理由として、「気候変動が自分ごとになっておらず、行動に繋がっていないと考えています。CO2排出量の削減は、多くの方が取り組むことが必要ですが、一人ひとりの寄与度は小さいことから、その重要性が認識されにくいのが理由の1つと考えています。また、省エネを念頭に、気候変動対策の取組は我慢を強いられるもの、というイメージが根強いこともあると思っています」。同時に、自治体が予算的にも人的にもリソースも限られていることが、施策を行う上で大きな障壁となっているとも話した。

地元業者とタッグを生んで
脱炭素に「ワクワク感」を

辻氏は、「やはり家庭においては、再エネ導入を自分事として感じられていない、または、再エネのメリットを知らない人が多いと見ています」と分析する。その理由として、脱炭素を実現するための技術・サービス開発と消費者の間に距離があることを挙げる。

辻 基樹 事業構想大学院大学 福岡校 1期生

「例えば産官学が連携し、優れた性能を持つ製品が開発され、導入のための制度が設けられる。この時点では、何のためか目的が明確なのに、メーカーが製造し、営業担当が売り、さらに商社などを通して小売業者が扱い消費者へと届く過程の中で、開発された意味や目的がうまく伝わらなくなってしまっていると思います」。

そして、現在のネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)率は、大手住宅メーカーを入れても20%程度にとどまっていると指摘する。「確かに、発電した電気の買取価格は下がっています。同時に、太陽光発電導入のための設備費も下がっている。だから、ZEHを導入してデメリットはありません。九州電力の場合、夜間電力でも13.21円/kWhで、再エネ賦課金も3.45円/kWh、燃料調整費も20カ月連続で上がっています。これを考えたら、新しく家を建てる費用のうち100万円を使って太陽光発電を付け、日中に太陽光をしっかり活用したほうがずっといい。消費者にその情報を伝えなければなりません」と話す。

ただし、価値を理解してもらうためには、理屈よりも心躍る感覚を伝えることが大事だと辻氏はいう。そのためには、電力事業者や住宅メーカーなどが業種の垣根を超えて連携し、さらに自治体も一緒に行動する必要がある。「それも、地元事業者と自治体の連携が不可欠です。地域の人たちに、再エネはどう使えば効果的かを、ワクワク感とともに伝えること。さらには、それがビジネスとして地元で成り立ち、地元にお金が落ちること。かつ、変動電源である再エネの、季節による余剰をどう使うかも、地域内で考えて仕組みをつくる。ここにもワクワク感が生まれると思います」。

メリットが伝われば、
おのずと再エネ導入は進む

ワクワク感を伝える取り組みの1つとして辻氏が紹介したのが、モデルハウスでのイベントだ。EVと、EVから住宅へ送電する装置V2Hを使ってデモンストレーションを行った。

「EVに充電した電力で、エアコンを2、3台つけても余裕で暮らせます。これを見て驚いていたのが住宅メーカーの営業担当者。こんなことができるなら、太陽光発電のメリットをもっとお客さんに伝えます、と言われました」。

住宅メーカーの営業担当が感じた驚きは今後、新築を考える消費者にも伝わっていくはず、という事例だ。

電力事業者、住宅や自動車メーカーなど多様な民間企業と自治体が場を共有すること。そうすれば莫大な予算をかけずとも、脱炭素へ向けて自治体が貢献できると辻氏はいう。

これに対し重藤氏は、「場を作ればいろいろな情報が集まりますから、行政はそれをまとめて、わかりやすく地域にフィードバックする。一過性のイベントではなく、その経験と情報の積み重ねができてはじめて、地域が再エネ導入へ動き始めるのかなという気がします」と話した。

重藤 さわ子 事業構想大学院大学 准教授

さらに辻氏は、「もし予算があるのなら、公共施設に太陽光発電を設置してEVを置き、V2Hも入れてみる。そうすれば災害時には避難所にもなり、必ず役に立つ機会があります」と指摘する。再エネには、経済効果、環境保護、そして防災・減災対策の3つのメリットがある。「そのメリットがきちんと伝われば、義務化せずとも、地域に再エネやEVは増えていくのではないでしょうか」。

これを受け高橋氏は、「再エネを導入する意味やメリットを市民に伝えることで、更なる推進を図ることもできるのでは、と今日のお話を聞いて感じました。今後の施策に生かしていければと思います」と話した。

最後に重藤氏は「予算や人的リソースが十分なくても、何をやりたいかを明確にし、自治体と様々な業界が連携し知恵を出すことはできます。また行政は公平性の担保が原則ですが、一方で政策でまず誰を動かしたいのか、ターゲットを明確にすることも大切だと考えます」とし、トークセッションを締めくくった。