京浜急行電鉄×三浦観光バス 地域一体の観光MaaS、三浦COCOON

神奈川県の三浦半島における観光型MaaS(Mobility as a Service)として134の事業者が参加する「三浦COCOON(コクーン)」。交通渋滞など地域の課題と向き合いつつ、稼ぐ地域としてのマネジメントを開始した京浜急行電鉄(京急)と地域事業者の三浦観光バスの担当者に、取り組みの現状を聞いた。

遊休不動産を人が集まる拠点に

三浦半島は都心から片道1時間とアクセス良好なエリアで、自然豊かな環境でのアクティビティや、海鮮などのグルメを強みに観光客数を伸ばしている。なかでも京急が発行する「みさきまぐろきっぷ」などの交通と食事と体験をパッケージ販売する企画きっぷは各エリアの入込観光客の増加に寄与している。

「都市近郊リゾートみうらの創生」のビジョンを掲げている京急では、滞在先としてのブランド化や多様な滞在環境の整備、地域基幹産業の自走などを将来目標に、三浦半島のエリアマネジメント活動を強化している。同社の生活事業創造本部 まちづくり統括部 課長の佐々木 忠弘氏は、「ニューノーマルが定着する中、近場の旅行先、働く場所、暮らす場所として三浦半島が再評価されています」とエリアの潜在価値を語る。

佐々木 忠弘 京浜急行電鉄
生活事業創造本部 まちづくり統括部 課長

「京急によるマネジメントは始まったばかりですが、今後のエリアの成長を阻む障壁として4つ課題があると考えています。1つ目は半島全体の戦略や地域連携不足。2つ目は滞在目的やコンテンツの不足。3つ目はエリア情報発信の分散や時期によっての混雑。4つ目は域内交通の不便さが上げられます。今回のマネジメントでは、エリアマネジメントの組織化や地域の事業化支援と拠点整備、MaaS基盤整備とモビリティ基盤整備を掲げており、地域の発展はもちろん、交流人口の拡大や定住人口の拡大により、当社のビジネス機会拡大にもつなげたいと考えています」と佐々木氏。

特に京急が取り組む重点事項は、事業者と遊休資産をマッチングすることで生まれる地域事業化の支援と拠点整備だ。地域でスモールビジネスを始めたい人に対して、京急や銀行がハンズオンで支援を行うことで、地域全体で魅力的な拠点を増やし、自然と人が集まるエリアへ発展させるのが狙いだ。

「たとえば京急油壺マリンパークの跡地の暫定利用としてグランピングを運営するなど、京急の遊休不動産や地域にある不動産と事業希望者の方々のマッチングから事業化支援まで行い、新規ビジネス創出につなげたいと思っています。ほかにも地域の事業者が取り組む古民家を活用したホテル事業とMaaS事業を連携するなどして、三浦半島で滞在したくなる拠点を増やそうとしています」

顧客一元化で「相互集客」・「相互リコメンド」

こうした取組の1つ1つをまとめ上げるのが、オンラインプラットフォーム、MaaS「三浦COCOON」だ。これはインターネットブラウザ上で、アクティビティの予約・決済・デジタルチケット使用・移動経路検索機能などが実装されており、旅行者はスマートフォン1つで三浦半島の移動と観光を楽しむことが可能だ。2022年4月に京急の企画きっぷ「よこすか満喫きっぷ」等をデジタルチケット化した際は、初月から約40%がデジタル版に移行したほか、デジタル化したことでサービス提供価値も上がったという。

予約・決済・デジタルチケット・経路検索の四つの機能を持つMaaS「三浦COCOON」

「このプラットフォームでは、地域の事業者さまのウェブサイトで予約にタップすると、『三浦COCOON』の予約・決済・デジタルチケット・経路検索に自動的に飛ぶようになります。また予約したアクティビティサービスや経路検索の行先の情報に対して、リコメンド機能として追加アクティビティや渋滞を避けた最適な経路を提示することができるため、三浦半島の課題である追加消費と滞在時間の拡大に地域全体で取り組むことが可能です」「三浦COCOON」は、チャルマース工科大学(スウェーデン)が定義する「MaaS レベル」では国内では数少ないレベル2(地域共通の予約決済の統合)までを実現しており、今後は世界でもまだ実現されていないレベル3(料金体系まで含めた提供サービスの地域統合)や4(社会全体の目標や政策の統合)を目指していくという。その一環として、「三浦COCOON」で得た利用データの蓄積に基づいて、観光客の需要予測やダイナミックプライスなどを検討できるようにし、三浦半島の課題である繁忙期(GW・夏季)と閑散期(冬)の通年での観光戦略に役立てたい考えだ。

モビリティの新たな挑戦

三浦半島では駅からの二次交通が少なく、マイカーによる交通渋滞や消費の取りこぼしという地域課題がある。そこで、草の根的な拠点共同開発により移動に関わる企業からのサービスが続々とスタートしており、駐車場シェアリング(akippa)、ヘリポート(AirX)、荷物預かり(echo)、電動キックボードシェア(サンオータス)、シェアサイクル(シナネンモビリティPLUS)などが活用できるようになっている。

「三浦COCOON」の会員であり、三浦市を拠点に地域で観光バス送迎やキッチンカー・トゥクトゥクなどのレンタルを行う三浦観光バス 常務取締役、Awesome Wheel Designs 共同代表の根岸辰也氏は、2014年から事業承継で三浦観光バスを経営する傍ら、ラストワンマイルの乗り物の需要に対して何かできないかという思いがあった。「三浦COCOON」で得た佐々木氏との繋がりなども活用しながら新感覚のマイクロモビリティの提供を行っている。

根岸 辰也 三浦観光バス 常務取締役
Awesome Wheel Designs.合同会社 共同代表

「トゥクトゥクやレンタサイクルなどは電車で着いてからすぐ乗れることや、少人数でも利用できる点が好評です。こうした経験を経て、三浦半島の楽しみ方として地域の移動そのものをエンタメ化できないかと考えるようになりました。使われなくなったマイクロバスを改装して、移動するエンタメ空間として提供する移動型レンタルスペースサービス『BLANC』や、キャンピングカーによる地域観光の新たな提案として『Van Cruise』を今夏開始予定です。例えば三浦市内で海が見えるスポットで地産地消の飲食物をBBQやピクニック形式で自由に食べてもらうような体験を通じて三浦半島の良さを知っていただければと思っています」

移動そのものをエンタメ化する狙いの「Van Cruise」

地域の資源を磨き上げながらITの活用により地域全体を盛り上げる「三浦COCOON」に今後も注目だ。