神戸市「CO+CREATION KOBE Project」 公民連携でイノベーションを

行政と民間事業者が協働で市民サービスなどの提供を行う「公民連携」を推進する神戸市。「CO+CREATION KOBE Project」は、企業や大学、NPOなどが、社会課題の解決のための事業を提案。採択されれば、実施費用の支援などを受けられる同制度の理念や背景、実施事例について聞いた。

公民連携をキーワードにした地域づくりに力を入れる神戸市は、「公民連携推進室」を2013年に立ち上げた(現在の「公民連携担当」)。これは、民間事業者からの提案を一元的に受け付け、関係部局への橋渡しや事業化に向けた調整を行うとともに、庁内の公民連携に関する情報共有を進めることで、社会変化や市民ニーズの多様化などに的確に対応することを目的としたものだ。

民間の技術やノウハウを
課題解決に活かす

2015年に導入されたのが、「神戸市民間提案型事業促進制度」。様々な企業や団体から事業を提案してもらい、審査の上採択。選ばれた事業の費用の一部を、神戸市が支援するという取組だ。企業や大学、NPOなどのノウハウ、知識を活かし、行政課題や地域の社会課題の解決を図ることを目的としている。

「公民連携の手段は様々ありますが、社会変化が激しい中で、市民サービスの向上と地域活性化を、公民の連携・共創で行うことに重きを置いた制度です」と話すのが、神戸市企画調整局連携推進担当部長の藤岡健氏である。

2020年には、この制度の名前が「CO+CREATION KOBE Project」と変更された。「公民が共に創る社会」という意味を含めたことが理由だ。「民とは企業のことだけではなく、教育機関やNPOなども含め、多様な団体が主体となって、社会課題解決につながる事業に参画してもらいたいという思いが込められています」。

課題解決の実現性や
社会への効果も審査

公募事業は2つに分類される。1つは、神戸市が設定した課題に対し、解決につながる事業を提案するWISH型。もう1つが、ポスト・コロナ社会を見据え、課題そのものの発見から神戸の発展に資する事業を提案するACTIVE型である。WISH型に応募した事業では、「課題解決力」「事業の実現可能性」などが、今年度の主な審査基準となっている。

事例の1つが、ODAT(下、囲み参照)による「古民家コトノハがつなぐ『まちと育む』プロジェクト」だ。須磨区にある古民家を再活用し、地域コミュニティの活性化を図るというもの。「地域在住のご夫婦が、古民家を活用し、地域に愛される拠点にする、という事業で応募されたものです。神戸市には、豊かな自然や、築100年以上の古民家もある。放っておけば朽ちてしまう建物を活用するという点でも、意義があるとして採択されました」。

ODAT
古民家を拠点にまちを活性化

神戸市須磨区の妙法寺エリアで飲食事業を中心に活動しているODAT。2022年6月には、古民家カフェ「コトノハ」をオープンした。同エリアは神戸市中心部と地下鉄で直結している交通至便な住宅街だが、1960年代に開発されたニュータウンでは住民の高齢化に伴う空き家の増加、放置された竹林の繁茂などが課題になっている。そこでODATは「CO+CREATION KOBE Project」WISH型の事業として、古民家での多世代食堂や竹林の整備・活用事業を手掛けている。

月1回開催している多世代食堂では、地域団体と連携をとり、世代間の交流や子どもたちの学びを支援している。参加者はスタッフを含めて40人ほど。また竹林活用事業では、1000平方メートルほどの竹林で、竹林活用の専門知識を持つ団体などと協力しながら、竹を伐採したり、その竹を利用した遊びのイベントを開催したりした。 ODATで同事業を担当している小田さくら氏は、「地域で活動している他の団体・個人とのつながりができ、協力してチャレンジできました。神戸市からの補助金を活用し、プロに指導を依頼することができ、多くの学びがありました」と話す。神戸市による伴走型支援も緊密で、連携事業を安心して進められたという。市が「デザイン・クリエイティブ枠」で採用した職員による演奏を、多世代食堂で鑑賞する機会も得られた。2023年度は、この機会に得られたネットワークや学びを生かし、アイデアを実現するとともに、活動に関わる人をより増やしていく。

 

一方、ACTIVE型の提案審査では、ポスト・コロナ社会に対応し社会課題を明確に捉え、神戸の未来の創造に向けて具体的な提案がなされているかなど、「社会への効果」に重きを置く。さらに「課題の根本原因まで捉えられているか、客観的データに基づいた課題かなど、ロジックを含めて課題の深堀度を審査しています」と藤岡氏。

事例の1つが、JTB神戸支店の「神戸・三宮周辺をMaaSで活性化!~超小型モビリティBIROの活用による新たなエコツーリズム~」(下)だ。神戸の中心地である三宮周辺は外国人を含め観光客も多い地域だが、「実は坂道も多くて、南北の徒歩移動は結構大変です。その周遊に超小型EV車を導入することで、各観光コンテンツ間の回遊性を向上させるというもの。これは神戸市以外にも活用できる事業であり、実装を期待しています」。

JTB神戸支店
観光向け超小型モビリティの導入

民間事業者が課題の掘り起こしから解決策まで提案するACTIVE型の事業として採択されたのが、JTB神戸支店の超小型モビリティを活用した実証実験だ。2人乗りの超小型EV車「BIRO」を使うもので、JTB神戸支店では新型コロナウイルス感染症の流行が始まる前から導入を検討していた。

公共交通機関が発達している神戸市だが、効率的に市内をめぐりたい場合や、バス運行終了後の時間帯の夜景見物などで、満たされていない移動ニーズがある。JTB神戸支店の奥田章弘氏は「さらに加えて、移動そのものを楽しめるようにし、それ自体を観光の目的にできないかと考えました」と話す。BIROは、環境にやさしいEVであり、カラフルで写真映えするデザインであることもあって採用された。

導入にあたっての課題は、BIROを駐車するためのスペース確保や、関係機関との調整・連携だった。神戸市の「CO+CREATION KOBE Project」に採択されたことで、事業の意義を説明しやすくなり、神戸市の関係部局の協力もあって、これらの課題を乗り超えられたという。

この企画提案に基づき、2022年12月に、実際にBIROが公道を走行する期間限定の実証実験を実施した。BIROに乗った利用者が、あらかじめ決められたコースを、スタッフの運転する先導車を追尾しながら運転する形をとった。次年度以降は、交通安全を確保しつつ、地域や関係機関の理解を得て、利用者が先導車なしで神戸市内をBIROで周遊できるようにしたいとJTB神戸支店では考えている。

 

そのほか、ACTIVE型の事例として、農サイドによる「農業者グループと企業、大学との連携で行う企業CSAの促進」もある。CSAとは、Community Supported Agriculture(地域支援型農業)の略。これについて藤岡氏は、「欧米で広がっているCSAの提案で、市としても勉強になりました。食品の値上げや異常気象による食料の安定供給への不安など、食に関する課題も多い。その中で地産地消はキーワードであり、生産者と消費者をつなぎ、両者にメリットのある仕組みを作るものとして、CSAには可能性があると思いました」と話した。

神戸市内外からの提案に期待

今後も、「公民連携」をますます積極的に進めていく中で、「イノベーションを起こす」ことを目指していきたいと藤岡氏はいう。「人口減や高齢化が進む中で地域社会を再構築するアイディアを、様々な企業や団体からご提案を頂きたいと思っています。また、環境問題解決につながるご提案があることも期待しています」。

大都市でありながら、海と山が隣接し自然豊か、かつ、海外に開かれた港湾都市でもあるという多様な顔を持つ神戸市における公民連携への挑戦。この取組について藤岡氏は、「汎用性があれば他の地域に還元することもできるので、神戸市外からのご提案もぜひ頂きたいと考えています」と語った。

 

お問い合わせ先

神戸市企画調整局参画推進課(公民連携担当)
MAIL:kobeppp@office.city.kobe.lg.jp
URL:https://kobeppp.jp/

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