持続可能な社会に不可欠 行政DXで地域は変わる

新型コロナウイルスにより「World 2.0」と評されるほど世界中の社会は変化した。行政のDXはどこまで社会に影響を与えるのか。自治体DXの有識者、庄司昌彦氏が語る。

庄司 昌彦 武蔵大学 社会学部 教授

Withコロナにおける地域の論点

全国の自治体では今、デジタル技術を用いた業務の効率化や非対面での住民サービスの対応が進められている。背景には、2020年12月に発表された総務省の「自治体DX推進計画」の推進と、人手不足が進行する中での住民サービスの維持向上のためにDXが不可欠という現実がある。

地域でWithコロナ、Afterコロナを考える上での論点について、武蔵大学社会学部 庄司昌彦氏は、「住む場所や消費の価値観が変化していること」が重要だとし、4つの論点を提示した。

1つ目は、場所を問わず仕事ができる社会になったことで、拠点となる地域、あるいは離れても繋がりたい地域として選ばれる地域になっているか。2つ目は、「爆買い」のような短期的で密な空間での大量消費が減る中で、長期の関係性から消費につながるようなモデルをつくっているか。例えば、地元での消費を掘り起こす、マイクロツーリズムのような商材を持っているか。3つ目は、行政手続や教育などのデジタル環境が全員に保障されているか。4つ目は地域のモノや空間などの稼働状況や利用条件などの情報やデータを整備しているか。これらは、地域資源を最大限に活かすシェアリングエコノミーにも活用できる。

DXに関するとらえ方も重要だ。経済産業省「DXを推進するためのガイドライン」ではDXを「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する」ものと定義している。行政が組織の内部から変革することで、人々の生活を大きく変える。行政DXとはそのような非常に大きな変化だととらえなければならない。

民間企業が競争するフィールドでは、破壊的イノベーションが起き、旧態依然とした文化の既存産業の企業は退場を余儀なくされている。自治体においては、そういった置き換えが突然起こることはないとしても、取り組み具合によっては地域で差が出るだろう。

例えば、ユニークな教育や住民主導のまちづくりで知られる島根県海士町。同町の人口は年によっては社会増になっている。IT企業などの誘致を積極的に行う徳島県では、2021年上半期の20代・30代の若者の移住者数が、比較可能な2015年以降で過去最多となった。

今後は行政のデジタル化も、住民や企業の誘致、公務員のなり手を増減させる要因になるのではないかと庄司氏は語る。

行政のデジタル化が
社会を変える

社会全体のデジタル化を進める際には、国・自治体が先導する必要がある。デンマークでは、長年かけて社会のDXに取り組み、政府の透明性確保や説明責任を果たしつつ、2014年に行政手続を全面ペーパーレス化している。これには、日本のマイナンバーに相当する個人番号を活用した。

また、人間らしい社会を実現するためのデータを活用したまちづくりの例として、バルセロナの「スーパーブロック」という取組を紹介した。車両が通行していた道を封鎖し、人々がスポーツや音楽などを楽しむ憩いの場として活用できるようにしている。単なる歩行者天国の導入ではなく、交通や環境のデータを活用し、裏付けを取ったうえでまちづくりを進めている点がポイントだ。

日本でも一部の地域が先進的な取組を進めている。海外の社会DXの事例は、スマートな人間らしいまちづくりのヒントになるだろう。

 

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