デジタルによる、豊かで快適な新しい暮らしの実現に向けて 焼津市のDX推進

2021年11月、「焼津市DX推進計画」を策定した静岡県焼津市。計画の検討にあたり実施した原課ヒアリングや職員の意識醸成・気運盛り上げへの取り組み、計画の概要と今後の展望について、焼津市CDO(Chief Digital Officer)の瀬戸氏が語る。

瀬戸伸亮 焼津市CDO

人口約14万人の焼津市。静岡県の中部に位置し、名古屋からも東京からも電車で約1時間半、車で2時間程度の距離となっている。駿河湾に面した水産業のまちで、遠洋漁業の基地として水揚げ高は5年連続日本一を誇る。

DX推進に向けた4つの取り組み

2021年9月に市役所の新庁舎が完成。全庁無線LAN化し、全職員がどこでも業務に携われる環境を整備、市民へ向けた動画などによる情報発信にも力を入れている。

焼津市ではこれまで、情報化推進計画(第3版/2019~21年度)とE-Government・YAIZU(2018年度策定)により、ICTによる市民サービスの向上や地域課題解決、市役所内の業務効率化などに取り組んできた。

「DX推進計画策定の前段階としては、大きく4つの取り組みに力を入れてきました」と、焼津市でCDO(Chief Digital Officer)をつとめる瀬戸伸亮氏は振り返る。

1つ目はAIチャットボットによる24時間365日対応窓口の実現。2019年よりAIによる問合せ対応の子育て版チャットボットを導入。ノウハウが蓄積されてきたところで2020年12月から総合案内版に移行している。現在、公式LINE登録者数8万8355人、閉庁時間の利用割合は67.8%と、市民の利便性向上に寄与している。

2つ目が行政窓口のキャッシュレス化。水道料・下水道使用料や市税の納付など、公共施設や窓口での支払いにクレジット払いやQRコード決済、キャッシュレス決済サービスを導入している。

3つ目はターゲットに合わせた効果的な情報発信。ふるさと納税や移住定住促進など、専用HPとSNSを組み合わせ、ターゲット層が日ごろ使用している媒体に合わせた情報発信を実施。市の魅力を発信する「焼津まちかどリポーター」による情報発信も行う。

そして4つ目がRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などによる行政業務の効率化。ふるさと納税業務や市民税に関する業務などに導入している。

「DX推進計画の策定については、2021年4月にはデジタル戦略課を発足。市長をトップとしたDX推進本部会議も設置し、議論を進めてきました。4月~5月にかけては全63課に対し、ICT活用やシステム導入状況などについて個別にヒアリングを実施しています」。

DXに向け、市職員の当事者意識の醸成と、全体の機運を盛り上げるため、ヒアリングや研修会を実施

DX素案策定、パブコメと並行し、プロジェクトチームを立ち上げ議論を進めた。さらに、早急に取り組むべき施策に対し、今年度の予算補正、次年度予算確保へ向けた調整も進めている。

原点は「市民へ喜びを届ける」

DX推進計画策定へ向けた取り組みのポイントは次の3つだ。すなわち①職員の意識醸成と全体気運の盛り上げ、②職員が自分事として捉え、原課の枠を超えたチームで課題解決に動く、③より多くの市民に発信し広く意見を集める。

職員の意識醸成と全体気運の盛り上げについては、各課へのヒアリングを踏まえ、危機感やDX推進目的を共有するための勉強会などを開催している。

「原点は常に『市民へ喜びを届ける』ことです。人口減少が進むなか、少ない人数でもサービスの品質を保つには、DX推進は欠かせません。市トップや国の方針も踏まえ、DXをやらないという道はないという認識を、改めて持っていただくよう努めています」と瀬戸氏はいう。

原課の枠を超えたチームでの課題解決への取り組みについては、現在、課横断型の15のプロジェクトチームが立ち上がり、議論を進めている。

市民への情報発信では、DX推進計画のパブコメを募集するにあたり、4分程度の動画を作成しYouTubeや市役所ロビーのデジタルサイネージ、HPなどで公開するという新しい取り組みにチャレンジした。そして、視聴回数279回、20~70代まで幅広い市民からのコメントをもらうことに成功した。

「広報で配るだけでは、どの程度見られているのか分かりません。その点、視聴回数などのデータが見えるカタチで取れたことは、今後につながる大きな成果かと思います」。

DX推進計画におけるビジョン

こうして策定されたDX推進計画のビジョンは「デジタルによる、豊かで快適な新しい暮らしの実現」。そのための方向性として3つの観点を挙げる。

1つ目が、より質の高い市民サービスの提供。行政手続きのオンライン化や公共施設予約のオンライン化、デジタル化へのサポート体制の充実など、利用者が便利な行政サービスの実現を目指す。2つ目は、自治体運営の効率化。デジタル化による業務効率化と合わせ、高度な自治体運営を目指していく。3つ目が、地域の活性化。各産業分野でのICT活用推進、官民連携によるデータ活用などで、産業の活性化や都市機能の高度化を目指す。こうした3つの観点を、①チャレンジ、②サービスデザイン、③データ活用、④セキュリティ、⑤SDGsという5つの視点を持って実現していく。

具体的には6つの政策分野に対し、2025年度末までに取り組む内容を設定しているが、なかでもリーディングプロジェクトとなっている2つを瀬戸氏は紹介した。

1つは、デジタルガバメントの構築。現時点でのメインは電子申請。関係する原課に業務フローや本人確認の方法などをヒアリング、整理するところから取り組みを進めている。もう1つが官民連携データ活用組織の構築。分野ごとにどのデータをどのカタチで収集・保存していくかを整理しつつ、データを集めていく。

「データの活用については、行政だけで決めるものではないので、地域の事業所や関係団体と議論する組織の立ち上げを考えています。これらを通して、地域課題解決やイノベーションによる地域活性化を図っていきます」。

DX推進計画策定に関する取り組みを通じ「さまざまな気づきを得て気づきを活かすマインドが醸成された」と振り返る瀬戸氏。焼津市としては今後もデジタル化を推進していくが、単なるデジタル化ではなく、技術を使って仕事の仕方を変えていくことを念頭に置いていく。

「計画が策定されたことで、市民サービスの向上や業務の効率化へ向けてDXを推進するモチベーションが強くなったと感じています。今後、焼津市としてDX推進計画を進め、より住みやすいまちにしていきたいと思います」と話した。