宮城県名取市・岩沼市の隣り合う2市がタッグを組んでDXを推進 複数自治体のデータ連携基盤で広がる未来

名取市と岩沼市はNTT東日本と連携し、DXや地方創生の取り組みを進めている。事業構想大学院大学では「自治体DX会議 NTT東日本×名取市×岩沼市」として、名取市長の山田司郎氏と岩沼市長の佐藤淳一氏、NTT東日本宮城事業部長の滝澤正宏氏に、DXの進捗と現在の課題について聞いた。

左より、東日本電信電話株式会社 宮城事業部長 滝澤 正宏氏、名取市市長 山田 司郎氏、
岩沼市市長 佐藤 淳一氏、事業構想大学院大学 准教授 重藤 さわ子氏

「ロードマップ」に基づき
DXを推進する名取市

宮城県名取市は県中央部に位置し、仙台市の南に隣接。仙台空港や東北新幹線につながる鉄道網、仙台東部道路などの道路網が発達しており、交通の利便性の高さが特長の1つとなっている。人口は東日本大震災の時期に一時的に減少したが、その後は徐々に増加し、現在は約8万人だ。

「DXに関しては、名取市は2020年度にAIシステム推進課を立ち上げて、『名取市DX推進ロードマップ』を作成、今年度はNTT東日本から人材を派遣していただき、DXを地域に広げる取り組みを行っていただいています」と名取市長の山田司郎氏は語る。ロードマップは2025年度までの期間で、主な取り組みは「市民の利便性向上」「行政事務の効率化」「安全・安心のためのデジタルデバイド対策」の3つだ。

1つ目の「市民の利便性向上」においては、2022年7月に窓口でキャッシュレス決済を導入した。また、住民票や印鑑証明に加えて、2022年末からは市民税の課税証明書もコンビニエンスストアで交付できるようにした。さらに、2023年3月からは「書かない窓口」として、スマートフォンで事前に取得したQRコードを提示すれば、証明書などの交付が受けられるようになる。ほかにも、マイナンバーカードを活用し、「来ない窓口」として引越や子育て・介護のワンストップ化に取り組んでいく。

2つ目の「行政事務の効率化」においては、人工知能(AI)やロボットによる業務自動化(RPA)のような先進技術の活用を進めている。3つ目の「安全・安心のためのデジタルデバイド対策」では、高齢者などスマートフォンの使い方が分からない市民に向けて、スマホ教室を開催した。来年度は、公共交通や情報発信ツールの最適化、デジタル地域通貨、買いもの弱者支援のような地域向けのDXでもさまざまな取り組みを進める予定だ。

「デジタル化推進計画」を
2021年に策定した岩沼市

宮城県岩沼市は名取市の南側に位置し、人口は約4万4000人。名取市との間に仙台空港があり、今後のインバウンド増加に期待を寄せている。近年は「ラーメンのまち」として知られるほか、「開運のまち」でもあり、日本三稲荷の1つである竹駒神社には年間約150万人の参拝客が訪れている。

岩沼市の課題としては、第1に「東日本大震災からの復興」から「地方創生」への転換がある。同市は仙台空港の24時間化などを通じて、まちの賑わいの創出をめざしている。第2の課題は、人口減少と少子高齢化への対策で、雇用促進や子ども・子育て支援、高齢者福祉などに関する施策が重要になっている。そして第3の課題が、行政のデジタル化とDX推進だ。

図 自治体DXを実現するデータの活用(データ連携基盤)イメージ

出典:NTT東日本

「市民サービスの向上や持続可能な社会の実現に向けて、その基盤となる行政のデジタル化とDX推進をしっかり進めます。2021年には、『岩沼市デジタル化推進計画』を策定しました。市民サービスの利便性向上、新たな価値の創造・共創、全市民への恩恵の享受という3つの視点に立ち、組織や制度業務を変革しながらDXを推進します」と岩沼市長の佐藤淳一氏は語る。

同市の計画に基づく取り組みでは、例えば、まちの賑わいを創出するため、AIを活用したデマンド型バスの試験運行を行った。その結果、新たなバス利用者が見込めると分かったほか、市民からの要望の声も多く、2024年4月から本格運行を開始することになった。一方、人口減少と少子高齢化対策への取り組みとしては、要介護認定事務でAIを導入し、職員への業務負担を大幅に削減した。さらに、子ども・子育て支援業務のデジタル化では、職員も参画して業務アプリの開発を行い、オンライン申請と庁内業務への実装を行なった。

他にも市民窓口のデジタル化では、タブレットの活用により申請書の記入をなくしたデジタル市民窓口を県内で初めて導入した。また、コンビニ交付サービスによって、市民が来庁せずに各種証明書を取得できるようにした。行政手続きのオンライン化は今後も推進し、併せてシニア世代を中心とするデジタルが苦手な市民もしっかりサポートしていく。

DX分野の連携をベースに
自治体は「共創」の時代に

両市のDX推進においては、さまざまな課題もある。

「課題としては、まずデジタル人材の育成があります。また今後、いろいろなデータを収集する際、それらを解析・分析し、次のサービスにつなげる基盤の構築も必要です。その際の費用の負担も課題となります」(山田氏)

一方、これらに対し、周辺自治体との広域連携コンソーシアムを通じて解決策を見つける取り組みも始めた。

「これまでは自治体同士で競うこともありましたが、今後は競争より『共創』の時代だと感じます。そのきっかけやベースになるのが広域連携によるDX推進やデータ連携基盤だと思います」(佐藤氏)

これらの点に関し、両市と連携協定を結び、DXや地域創生を支援しているNTT東日本宮城事業部長の滝澤正宏氏は、「デジタル人材の不足に関しては、データや人材のスキルなどは自治体同士で相互に活用・支援できます」と指摘する。

「広域連携コンソーシアムなら、コストもシェアして負担を軽減できます。さらに、住民が自治体の境界をまたいで活動する際も、より便利になるといった効果も期待できます。両市が連携することで付加価値が2倍になります」(滝澤氏)

今回ファシリテーターを務めた事業構想大学院大学准教授の重藤さわ子氏は「これからは各自治体のよさを活かし、デジタルを活用しながら、よりよい、人に温かいサービスにつなげていく時代だと思います」とした上で、「それぞれのよさを伸ばし、連携できるところはしっかり高め合う。そういう豊かな時代になることに期待したいです」と会議を締めくくった。

 

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