産学官民で進めるDXまちづくり 調布市が挑むスマートシティ実現

東京郊外にあって映像関連産業が集積し、豊かな自然の中で暮らす多くの住民を抱える調布市。地域の持続的成長と、住民主体のまちづくりを進めるうえでも、デジタル技術の活用は避けて通れない。同市が進めるスマートシティ構想の実現について、調布市長の長友氏とNTT東日本の相原氏が話した。

※本講演は2021年12月14日に収録しています。

調布市長の長友氏(中央)とNTT東日本の相原氏(右)。左はファシリテータの河村氏

住民とともに、が政策の基本

「参加と協働のまちづくり」をスローガンに市民主体の活動を進めてきた調布市。2021年6月、スマートシティ構想へ向け『調布スマートシティ協議会』を設立。産学官民の連携のもと、デジタル技術などを活用し、調布市民の生活の豊かさや、地域の持続的成長に繋がる新しいサービス・事業の創出に挑む。

1955年に2つの町が合併して誕生した調布市。誕生から70年弱、当初4万5000人だった人口は、約23万8000人へと増えてきた。昭和のはじめから存在する大きな撮影所と、現在も40数社の映像映画関連産業・企業が集積する日本有数の映画のまち。漫画家の水木しげる氏が半世紀以上調布市に住んでいたこともあり、鬼太郎をはじめとする水木ワールドの側面も持っている。

蔵野の自然林、悠久の流れをたたえる多摩川と自然にも恵まれ、FC東京の本拠地である味の素スタジアム、それに隣接する武蔵野の森総合スポーツプラザも抱え、スポーツも活況だ。直近の大きなエポックとしては、京王線の連続立体交差事業により調布駅周辺が地下化されたことにより、18の踏切が除去され、商業的にも活性化している。

長友貴樹氏は「『住民とともに』が調布市の政策の基本です。個人、企業、団体、NPO法人の皆さまと語らい、連携を保って、実情をよく把握した上で施策を考えていくことを大事にしています」と話す。

デジタル化は地域全体のテーマ

スマートシティ構想の実現に向け、取り組みを進める調布市。

「地域の安全・安心の確保、市民生活の支援、利便性の向上。その全てに深く関わるのがデジタル技術だと思います。デジタル化社会の在り方は、地域全体を包含した大きなテーマであると考えています」(長友氏)。

調布市では、2021年6月25日、調布市、国立大学法人電気通信大学、NPO法人調布市地域情報化コンソーシアム、アフラック生命保険株式会社の4者で「調布スマートシティ協議会」を設立。同8月にはNTT東日本が加わり、2022年1月までに10の企業・団体等の統合体に成長している。

NTT東日本では、調布市とNTTアグリテクノロジーとの連携で、学校給食における「デジタル化に対応した食育」の推進に取り組む。調布市内に立地するNTT中央研修センタ「NTTe-City Labo」内のローカル5G実証ハウスで栽培したトマトを、市内小学校の給食として提供。地産地消の大切さを伝えるとともに、ローカル5G実証ハウス内の動画をタブレットなどで視聴し、新しい農業技術を学ぶ「デジタル化に対応した食育」を実践した。

※NTT中央研修センタを核としたNTT東日本グループの地域課題解決ソリューションを体験可能な実証フィールドの総称

調布市内のNTT中央研修センタ「NTTe-City Labo」内の実証ハウスで栽培したトマトを、市内小学校の給食などに提供した

「遠隔での農業指導によりデジタルを活かして一次産業を盛り上げていきたいと取り組んできたなかで、新しい技術を使った栽培ができましたので、『生徒さんたちにも見ていただきたい』と市長にお話ししたところ、とんとん拍子に話が進み、トマトの食育につながりました」とNTT東日本 東京武蔵野支店長の相原朋子氏。

対して長友氏は「子どもたちに美味しい、安全なものを提供できたことに加え、地産地消、新しい農業への理解など、この食育を通して広がっていけばと思います」と話す。

NTT東日本との連携は、産学官連携の活動の大きな成果の1つ。「協議会構成メンバーのなかでは無限の組み合わせがありますから、そのなかからできることを、これからも積極的に手掛けていきたいです」(長友氏)。

Winが横に広がっていく活動

調布市としては、デジタル技術を広く普及していく上で協議会の役割に期待を寄せる。

「福祉、教育、環境、防災、その手前のデジタルデバイド(情報格差)の解消へ向けても、行政だけでなく、協議会のメンバーをはじめ、様々な企業、団体、専門性を持った人材の知恵と力を借りて解決していきたい。そのことに対し、行政だけでなく、民間側にもメリットを感じていただく。Winの数が横に広がっていくなかで、ことが進んでいけばいいと思っています」(長友氏)。

一方、協議会に参画するNTT東日本の相原氏は「1社では社会課題の解決は到底成し得ません。調布市だけでなく、参加されている企業や大学、NPO団体など、皆さんの協力を得られるなかで私ども企業も活動させていただける体制が整っていることを、ありがたく思っています」と話す。

NTT東日本としては今後、デジタルデバイドの解消をはじめ防災面など、インフラ企業が持つプラットフォーム、データなどを、スマートシティの中で活用していけるよう、具体的な貢献を考えていく。

「まずは無駄だと思えることも含め、色んなアイデアを机上に出した上で、とにかく動いてみることに尽きると思っています。NTT東日本にも加わっていただいている『調布スマートシティ協議会』の今後には大きな期待を寄せているとともに、目に見える形で、小さいことから市民の皆さんにその推移と成果を見せたいと思います」(長友氏)。

ファシリテータの事業構想研究所教授・河村昌美氏は「答えのない時代には問いを作ることが大切で、多くの仮説を立てていくことが大事」と長友氏に同意。トークセッション全体を通し「DXやスマートシティの分野は産学官連携が重要で、単独の組織だけでは無理な最たる分野だと思っています。これからのまちづくりにはDXやスマートシティの視点が欠かせず、市役所の知恵や力だけでは進まないのは全国同じ。調布市では、NTT東日本のようなICT企業をはじめ、産学官、市民も含めた連携を進められていますので、今後が非常に楽しみかと思います」とまとめた。

 

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