地域構想家育成プログラム 地域おこし協力隊の起業を支援

事業構想大は、地域の課題解決と経済活性化を目指す「地域構想家育成プログラム」を来春にも立ち上げる。地域おこし協力隊の構想力を鍛え、地域にビジネスや雇用をもたらす人材を増やしていくことを目指す。プログラムの開始を前に実施したセミナーの概要を紹介する。

事業構想大学院大学では、「地域構想家育成プログラム」発足にあたり、地域おこし協力隊の活動を振り返り、地域で期待される隊員像を明らかにする全3回のセミナーを開催した。この新プログラムは様々な自治体と連携して実施するもので、各地から地域おこし協力隊員を集め、2025年春以降の開講を予定している。

開始から15年
定着する地域おこし協力隊

2009年に発足した地域おこし協力隊制度だが、現状はどのようになっているのだろうか。開始から15年を経て、同制度は隊員数7200人、受入自治体は1164団体となるまで成長している。総務省の地域力創造グループ地域自立応援課の石切山真孝氏は、「制度創設以降、隊員数はほぼ一貫して増加を続けています。隊員の約4割は女性、また約7割が20代~30代の若い世代ということも注目に値するのではないでしょうか」と話した。

事業構想大学院大学客員教授 若林伸一氏

隊員の活動事例も蓄積してきた。制度の狙い通り、活動期間終了後は地域に定住し、飲食業や宿泊業などの観光関連事業で起業したり、行政関係の職に就いたりする人が増えている。総務省では、地域おこし協力隊の活動内容を活動分野別にまとめた「地域おこし協力隊事例集」を作成・公表している。また、InstagramやFacebookなどでも活動の状況を発信している。協力隊への参加者を増やすために、「おためし地域おこし協力隊」「地域おこし協力隊インターン」制度も立ち上げた。「おためし」は本格的に移住する前に、2泊3日程度の短い期間滞在し、参加の判断材料にできるようにするもの。「インターン」ではより長期、2週間~3カ月にわたって、実際の地域おこし協力隊と同じような業務に就く。

さらに、協力隊の隊員・受入自治体など協力隊の関係者間の情報共有と、隊員経験者による支援ネットワークの強化に向けて、2024年2月には地域おこし協力隊全国ネットワークプラットフォームも始動している。

稼げる観光まちづくりを
いかにして生み出すか

事業構想大学院大学客員教授・NPO法人自然体験学校理事長の若林伸一氏は、観光の観点から、いかにして地域経済を活性化するかについて講演した。日本社会の課題は少子高齢化が深刻化しているところだが、「観光まちづくり」から解決を目指せるという。例えば、地域人口の減少・一次産業の衰退といった課題も、観光をきっかけに関係人口を増やしたり、グリーン・ツーリズム(農泊)にすることで一次産業従事者の収入アップにつながる。消えかかっている産業を復活したいと若林氏は話した。

地域おこし協力隊の活躍の場はここでも期待されており、隊員には観光やまちおこしで起業を希望する人も少なくない。その意欲を生かすためにも、ビジネスにつなげるための教育や支援が必要になると若林氏は指摘した。その際、有望なのが、地域課題と体験観光の組み合わせだという。①地域課題を解決できるプログラムを商品化し、②地域住民をインストラクターとするとともに、③経験による集客を実施する。この3本柱で、実際に複数の地域で「観光まちづくり」の課題を解決できるようになった。若林氏らはこれまでのノウハウをパッケージ化しており、事業構想大の新プログラムでも活用していく考えだ。

地域おこし協力隊の事業構想力を
鍛える意義は大きい

事業構想研究所教授の河村昌美氏は、 地域おこし協力隊に事業構想が必要な理由について説明した。まず、地域におけるスモールビジネスの起業には、起業家・地域双方にとって様々なメリットがある。そこで、地域貢献の意欲が高い地域おこし協力隊の隊員を支援すれば、起業の意向を持っている人を探すなどの手間を省きつつ地域に事業を増やすことができる。

顧客の課題を解決したい、社会問題に取り組みたい等々、起業したい人の構想の入り口はさまざまだ。事業構想大のプログラムでは、事業アイデアの材料探しから、事業仮説検証(プロトタイピング)へと構想を深めていく過程で、アイデアを有効なビジネスに変えていくことができる。特に、実行前の徹底的な調査・検証により、不確実性とリスクを減らせるのは大きなメリットとなる。

ビジネスと雇用を生み出す
地域おこし協力隊員を育成する

事業構想大学院大学特任教授・公益社団法人兵庫県育才会理事長の青山忠靖氏は、「地域イノベーションの実践により、地域社会に生活する人々に好ましい変化を与え、仕事や雇用を創出することができます」と話した。そして、その実践事例として、兵庫県丹波篠山市における、事業構想大学院大学の新規事業開発プロジェクトを紹介した。これは起業を前提に、地域おこし協力隊員が新事業を構想するもので、2023年10月〜2024年3月まで実施した。

兵庫県丹波篠山市における、事業構想大学院大学の新規事業開発プロジェクトの成果。特産の黒豆を利用した新商品を開発した

事業構想大学院大学では、従来から地域活性化に関する様々なプログラムを展開している。写真は、2023年度に行った「ネクスト地域イノベーター養成プログラム」

このプロジェクトで、青山氏はフレームワークを使用して「地域で新たな事業を創出させるためのグランドデザイン演習」を行った。事業を考えるにあたり、まず市内の対象地区を決め、解決したい問題を探り、解決する手段を決め、そのあらすじを書いてみるという流れでシートを埋めていく。丹波篠山市のプロジェクトからは、丹波茶の販売を手掛けるビジネスが立ち上がったり、地元の人が起業した会社に受講生が参加することで新しい商品が生まれたりといった成果が出ている。青山氏は、地域の人たちに現金収入をもたらせるしくみの創造こそが地域イノベーションであると語り、佐賀県武雄市や岡山県西粟倉村における雇用創出の取組も紹介した。

「地域構想家育成プログラム」について、事業構想大学院大学としては、各地の自治体と協力することで、大学院の院生の事業構想研究のフィールドを増やせるというメリットがある。またプログラムを導入する地域では、そこの地域おこし協力隊が事業構想の力を身に着けることで、域内で自立してビジネスを担い、経済を回す人材を増やすことができる。事業構想大学院大学とともに、それぞれの地域企業や団体の抱える課題に対応したプログラムを企画することも可能だ。事業構想大学院大学では、協力自治体の募集を随時受け付けているので、興味のある自治体は大学まで連絡してほしい。

 

お問い合わせ先

事業構想大学院大学
地域構想家育成プログラム事務局
(事業構想大学院大学 仙台校内)
sendai@mpd.ac.jp
022-257-8411
(受付:10:00〜18:00)

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。