認知機能チェック、転倒検知サービス デジタル活用で高齢者を守る

月刊事業構想が実施した「第3回自治体DX全国首長アンケート」において「医療・福祉」は注力分野に挙がっていた。高齢者の暮らしを守るため、NTTコミュニケーションズの社員自らが主体となり構想した、2つのサービスを紹介する。電話を使った認知機能のチェックと、高齢者の転倒検知に関するものだ。

左から、NTTコミュニケーションズの竹葉氏、浅見氏、横山氏

電話で容易に認知機能を確認

社会課題の解決に資する事業に取り組むNTTコミュニケーションズ。高齢化社会において、高齢者が安全に自立的な生活を送れるようにするためのソリューション、サービスの提供を大きなテーマの1つとして掲げている。

同社が特に着目しているのが認知症。高齢社会白書によると、2025年には高齢者の5人に1人、つまり国民の17人に1人が認知症になると予測されている。そこで、「認知症で不安になる本人・家族・企業が少なくなる社会へ」というコンセプトを掲げ、電話に音声認識AIを組み合わせ、2022年の世界アルツハイマーデーである9月21日に「脳の健康チェックフリーダイヤル」のトライアルを開始した。

このサービスでは、ガイダンスに沿って、その日の日付と年齢を答えるだけで、発声内容と声の質から認知機能低下の疑いを確認できる。「電話という簡易なインターフェースで簡単に認知機能が確かめられる点が受け入れられ、コール数は約50万件に達しています」とビジネスソリューション本部 第一ビジネスソリューション部 ビジネスデザイン部門主査の横山彰之氏は述べる。

認知症に進行する以前に、軽度認知障害(MCI)というステージがあり、早期の段階で認知機能の低下に気づき適切な予防策を講じることで、約16~41%の人は正常レベルに回復することがわかっている。そこで、2023年9月にはより早期に、適切な対応や行動変容を促すために、新たに「脳の健康チェックplus」のトライアルを開始した。日付以外に、情報をどれだけ覚えられるかの「即時記憶」、頭の中で情報の更新ができるかの「ワーキングメモリ」を確認できる複数の質問に答えることで、認知機能の状態を5段階で判別する。

検証の結果、このシステムでは「軽度・中程度の認知機能低下の疑いを約89%で判別できる」という。「検査者が不要で人の手を介さない、身近な電話ツールを使える、6分程度の短時間で確認できることが強みです。体重計に乗るような感覚で手軽にご利用いただき、自身の認知機能の状況を知り、行動変容に移すツールとして活用してほしい」と横山氏は話す。

図1 法人向けサービス化に向けた共創モデル

NTTコミュニケーションズで検討している法人向けサービス。専用番号や利用者の履歴管理、認知機能の維持を促すコンテンツへの送客機能を提供予定

履歴機能の活用で
自治体の施策立案にも

同社では、自治体が実施する認知症に関連するセミナーやイベントで、簡単に認知機能低下の疑いをチェックできるサービスとして実際に利用してもらうほか、高齢者が定期的に訪れる薬局などで周知、活用を図るなどしてトライアルを実施してきた。さらに普及につなげる方法として、地域住民の保健・医療・介護・福祉などに関する身近な相談窓口である地域包括医療・ケアの支援センターとの連携も検討する。

「定期的に自動電話やSMSなどで連絡することにより、今までアプローチできていなかった方々にも興味を持っていただいたり、定期的なチェックの習慣ができることで認知機能低下の予防にもつながるはず」と期待をかける。また、利用者のデータを集約し活用することで自治体施策の立案に役立てたり、ウォーキングなど認知機能の維持・改善につながる予防サービスと連携するなど、共創モデルの構築も考えているという。「電話だけでなく、より自然な形で安心してチェックしていただけるよう、ヒューマンアバターを使ったインターフェースも検討していきたい」という。

スマホのカメラのみで
高齢者の転倒を検知

高齢者向けサービスの2つ目が、2023年10月30日にリリースされた「転倒検知:みまもり おせっかいサポート」だ。このサービスは、プラットフォームサービス本部 コミュニケーション&アプリケーションサービス部第二サービス部門主査の竹葉良太郎氏が、NTTコミュニケーションズの社内公募に応募し自ら立ち上げた事業だ。

「祖母が転倒した後寝たきりになり亡くなった経験からサービス化を考えました」と竹葉氏は事業化への思いを語る。実際に介護施設内で起きる事故の約8割が転倒と言われており、転倒を早期に発見し重症化リスクを防ぐことの重要性が認識されている。当初は1人でスタートし、市場調査や実証を重ねながら徐々にメンバーを増やし、5年かけてサービスのスタートにこぎつけた。

「みまもり おせっかいサポート」は、介護施設や病院において、スマホのカメラで高齢者の転倒を自動的に検知し、通知を行うサービスだ。導入にあたっては様々な転倒パターンを想定してAIに読み込ませ、カメラに映った映像を解析してすばやく転倒を検知できるようにした。また、事前に30の介護施設・病院を訪ね、導入した際のニーズや課題をヒアリングするなかで、四六時中カメラで映した映像を記録されることを嫌がる入居者、患者が多いことも分かった。そこで、画像をぼかすことでプライバシーに配慮するとともに、転倒した前後の映像のみを切り取って保存するようにした。転倒を検知した際には、見守り者のスマホに自動的に通知する。

通知により素早く適切な対応をとることで重症化リスクを低減できる。また、転倒前後の映像が取得できるため、何が原因で転倒したかの分析が可能になり、再発防止の対策に生かすことができる。「施設側は、事故が起こった際に自治体、家族への報告が必要ですが、転倒原因が明確にわかるため原因の特定でもめることがなくなり不必要な事務作業に追われることがなくなります」。

また、専用のサーバやPC等の購入や壁の穴あけ・配線等の設置工事をする必要がなくスマホで完結するサービスであるため導入コストを抑えられる点もメリットだ。

独居高齢者の見守りにも
長く自宅で過ごすことを可能に

付加サービスの「いますぐみまもり」の機能では、在室状況や部屋での様子を遠隔でリアルタイムに確認ができる。「アプリからボタン1つで撮影ができるため、転倒後の状態も簡単に把握できます。また、感染症にかかってしまった場合にも遠隔で状能を把握できます」と同部門の浅見英里香氏は説明する。「ある介護施設では、感染症対策としてスタッフが実際に部屋を訪ねる頻度を減らすことで負担を軽減、省人化につながった、とのお話もいただいています」。このほか毎日一定時刻に撮影する「毎日みまもり」機能や、薬を飲む時間など能動的にメッセージが送れる機能もある。「近年は、特殊詐欺への警戒から電話に出ない高齢者も多く、メッセージ機能も喜ばれています」と竹葉氏。

国は地域包括ケアシステムとして、出来るだけ最後まで自宅で過ごしてもらう方向性を打ち出しており、独居高齢者のケアをどのようにしていくかが各自治体共通の課題になっている。「独居高齢者の部屋にこのサービスを導入し見守り機能を強化することで、ケガ等の早期発見を通じて重症化リスクを減らし、介護離職・休職といった社会課題の解決にもつなげていきたい」と竹葉氏は話した。

 

お問い合わせ先

NTTコミュニケーションズ株式会社
ソリューション&マーケティング本部
ソリューションコンサルティング部
地域協創推進部門
連絡先:support-municipal-sales@ml.ntt.com
脳の健康チェックについて
 brainhealth@ntt.com
みまもり おせっかいサポートについて
mimamori-aps@ntt.com

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