明るい未来を描ける社会を目指し こども施策を具体化する動き

こども家庭庁の発足から約1年半が経過した。2023年末に政府が決定した「こども大綱」に基づき、こどもを中心とした社会の実現に向け具体的な取組が始まっている。各自治体では、こども大綱を勘案した計画の検討が始まる中、こども家庭庁によるガイドラインがまとめられた。

こども家庭庁長官官房総合政策担当 参事官補佐の新田義純氏(左)と和田真穂氏(右)

「こどもまんなか社会」を実現するために、「こども基本法」に基づく首相の直属機関としてこども家庭庁が発足して1年半余り。2023年末には政府全体のこども施策の基本的な方針等をまとめた5か年の「こども大綱」が閣議決定された。

こども大綱は、それまでの「少子化社会対策大綱」「子供・若者育成支援推進大綱」「子供の貧困対策に関する大綱」を一つに束ね、こども施策に関する基本的な方針や重要事項等を一元的に定めたもの。ただまとめるだけでなく、当事者であるこども・若者、子育て当事者の意見を反映させるために、こども大綱の策定に向けては、対面やオンラインでの公聴会や子ども向けのパブリックコメント、インターネットによるアンケート、若者団体のヒアリングなど、様々な機会が設けられた。

こうして策定されたこども大綱では、「全てのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸福な生活を送ることができる社会」である「こどもまんなか社会」の実現を目指すと説明するとともに、その実現に向けて、基本的方針となる6本の柱を示した(囲み参照)。こども・若者が権利を持つ主体であること、その意見を聴き、対話を通して、今後も当事者の意見を施策に反映させていくこと等が明示されている。

こども大綱の6つの柱(要約)

① こども・若者は権利の主体であり、今とこれからの最善の利益を図ること
②こども・若者や子育て当事者とともに進めていくこと
③ライフステージに応じて切れ目なく十分に支援すること
④良好な成育環境を確保し、貧困と格差の解消を図ること
⑤若い世代の生活の基盤の安定を確保し、若い世代の視点に立った結婚・子育ての希望を実現すること
⑥施策の総合性を確保すること

 

こども大綱を実現する
実行計画は年度ごとに改定

こども大綱が公表されたことを受け、これをさらに具体的な取組に落とし込んだ「こどもまんなか実行計画2024」が5月31日に「こども政策推進会議」により決定された(基本法と大綱、事項計画の関係は右ページ図参照)。こどもまんなか実行計画は年次計画であり、今後は毎年、「骨太の方針」までに改定されることになっている。その内容はこども大綱に準拠しており、大綱で挙げられた個別の事項に対応する形で、その年度を中心に各省庁が取り組む計画の関連施策を紹介している。

「こどもまんなか実行計画は政府の取組を説明したものなので、こども大綱の各事項における国の具体的な取組を知りたい時に参考になります」と、こども家庭庁参事官補佐の和田真穂氏はいう。施策の評価については、こども大綱が「『こどもまんなか社会の実現に向かっている』と思う人の割合」や「『自国の将来は明るい』と思うこども・若者の割合」といったこども・若者、子育て当事者の視点に立った数値目標、「こどもの貧困率」「合計特殊出生率」などのアウトカム指標を用いるのに対し、実行計画では「こどもの生活・学習支援事業を実施した自治体の数」「こども家庭センターを整備した市町村の数」など、具体的に取り組む施策の進捗状況を検証するアウトプット指標を設定している。

こども基本法、こども大綱、自治体こども計画の関係


こども基本法に基づきこども大綱がまとめられ、それを具体化するための計画が年次の「こどもまんなか実行計画」。自治体こども計画は大綱を勘案して策定することが努力義務となっている

出典:こども家庭庁

 

自治体における検討が進む
計画策定のガイドラインを公表

こども大綱の根拠となっているこども基本法では、「自治体こども計画」の策定を、自治体の努力義務として規定している。「自治体こども計画」は、地域におけるこども施策に関する基本的な方針・重要事項を定め、住民に分かりやすく提示するものだ。都道府県は国のこども大綱を勘案して計画をつくり、市町村は国の大綱と都道府県のこども計画を勘案して計画をつくること、とされている。「様々なこども施策を実行していくときのしっかりとした根拠となる。地域の実情に合わせたオリジナルなものを期待しています」とこども家庭庁で計画を担当する参事官補佐の新田義純氏は話す。

各地の自治体では、今まさに自治体こども計画が検討の俎上に載せられているところだ。2015年4月に施行された子ども・子育て支援法に基づき「子ども・子育て支援事業計画」を策定した自治体では、5か年の計画の2期目が2024年度末で終了する。次期計画に合わせて、2025年4月から「自治体こども計画」を始動できるように準備している自治体は多い。

自治体こども計画は、先行して策定された子ども・若者育成支援推進法による都道府県・市町村の子ども・若者計画や、子どもの貧困対策法に基づく計画、その他の子ども施策に関する事項を定めた計画と一体のものとして作成することができる、とされている。これにより縦割りを排して、地域におけるこども・若者のための施策に横串を刺し、「こどもまんなか社会」の実現に取り組むことが狙いだ。

こども計画の策定は今回が初めてとなるため、こども家庭庁では計画を検討する自治体向けに、「自治体こども計画策定のためのガイドライン」を5月に公表している。このガイドラインは、「こども大綱」の内容を紹介しつつ、計画の策定の体制やスケジュール、これまで策定されてきた計画との関係、計画を策定するための調査・分析などについて解説したものだ。

さらに、先行するこども・若者関連の計画の策定の事例で、今回の自治体こども計画をつくる際に役に立ちそうな事例も集めている。

例えば自治体間の連携・協力の事例として、大阪府を取り上げた。大阪府では「子ども・子育て支援事業計画」を府内で整合性をとって推進していこうと、府が音頭を取って連絡会を設置している。

また、複数の計画の連携と整合を図る事例として、京都市が2020年3月に策定した「京都市はぐくみプラン(京都市子ども・若者総合計画)」において教育振興基本計画との連携を図っていることを、紹介している。

さらにこども・若者・子育て当事者の意見を施策に反映させるためのアンケート調査や意見聴取の体制・工夫についても、各地の実例を掲載した。例えば北海道剣淵町では、中学生までのこどもがいる全世帯を対象に子育て支援についてのアンケートを送付。名古屋市では、同市のこどもの権利条例を理解し、こどもの目線で意見表明できるこどもを育てる「なごっちフレンズ」制度を運営している。聴取した意見がどのように施策に反映されたのかをこどもや若者にフィードバックする方法についても、実例を記載した。

こども家庭庁では、今後、自治体こども計画の策定状況を調査し、検討の際に参考になりそうな取組や優れた事例を全国で共有できるようにする考えだ。