70年ぶりの旅費法改正 AI時代に向け、見直すべき自治体業務とは

2025年4月に70年ぶりに改正される国家公務員等の旅費制度(以下、旅費法)を前に、自治体は既存の旅費規定や事務処理の見直しを迫られている。AI時代の到来に向けて、今、自治体にはどのような備えが必要なのか。コンカーの長谷大吾氏とKUコンサルティングの髙橋邦夫氏が語り合った。

株式会社コンカー パートナー&カスタマー統括本部 公共営業本部 公共営業部 部長 長谷 大吾氏

DXは間接業務の見直しから

── コンカーでは自治体の内部事務のDXに取り組まれてきましたが、そこからどんな課題が見えてきましたか。

長谷 自治体の業務は行政サービスなどの本来業務と、間接業務の2つに分けられます。旅費精算は後者の間接業務に当たるため、本来業務を優先するあまり内部事務の改革に出遅れ、アナログなプロセスが残っている自治体が多いのが現状です。しかし、裏を返せば、デジタルに取り残された領域こそDXを進めることで、より大きな業務効率の改善が見込めるとも言えます。間接業務を削減して捻出できた時間を本来業務に回せば、住民満足度の向上と職員負担の軽減、コストの最適化につなげられます。また、全職員が携わる身近な旅費精算からDXに着手し、その成功体験を全職員に実感してもらうことで、他の業務にもデジタルを活用していこうというDXマインドが醸成される。こうした流れこそが、業務改革の本質だと考えています。

合同会社KUコンサルティング 代表社員 髙橋 邦夫氏

髙橋 私は29年間、豊島区役所の職員をしていましたが、そのうち18年間は情報システム部門に所属していました。2015年の新庁舎移転の際は、CISO(Chief Information Security Officer、最高情報セキュリティ責任者)として様々なデジタルツールを導入し、職員の働き方を変える推進役を担いました。現在は総務省の地域情報化アドバイザーとして、自治体のDX推進をサポートしています。

こうした活動を通じて感じるのは、どの部門も業務改革に取り組みたいと考えてはいるものの、本来業務が忙しく、改革を行う余力がないことです。そこで私が提案してきたのは、まさに間接業務(内部事務)の効率化から始めることです。全庁的な共通ルールが多く着手しやすい間接業務から見直す。そして捻出した余力を、本来業務の改革に充てるよう、段階的にDXを進めることがポイントだと思います。

デジタルを前提とした
業務フローの再設計が肝

── 内部事務の中でも、特に旅費精算業務の課題とは何ですか。

長谷 7月にコンカーが実施した自治体アンケート調査によれば、65%以上が改定前の旅費法に準拠した運用を行っていることがわかりました。そのような中、自治体では旅費のデジタル連携(実費精算)ができない、審査工数に膨大な時間がかかる、旅行者の金銭的負担が大きいという3つの課題が発生しており、煩雑なプロセスがデジタル化の阻害要因となっています。そのため、コンカーでは旅行命令を業務目的などのシンプルな運用に変えると同時に、旅行後の実費精算への変更を提案しています。また、実費額が法定額を超過した際に手出しがないよう、金額の大きい経費は旅行代理店経由の支払いとすることも必要です。

図 コンカーで実現する旅費業務のプロセスイメージ

出典:コンカー

こうした課題を解決すべく、自治体向けに提供しているのが「Concur Expense」というクラウド型経費精算システムです。旅行代理店システム連携をはじめ、交通系ICカードや法人カード、QRコード決済 などの様々な決済サービスと連携して旅費明細を自動で作成する他、AIを活用したOCR技術により、スマホで紙の領収書を撮影するとデータが自動入力される仕組みなどを提供しています。

髙橋 これは良いシステムですね。昨今はインバウンド需要などの影響で、実費が上限を超えるケースも少なくないですが、その場合はどうなりますか。

長谷 旅行代理店の予約サイトからホテルを予約すると、旅行代理店から実費データが入ってきます。その際、規定違反があれば申請者にアラートが通知されますが、上限を超えた理由を書いて申請すれば、承認者は理由を確認した上で承認することができます。データは日々蓄積されるため、例えば「大阪のホテルで規定違反が多い」といった傾向が網羅的に可視化されます。これらのデータから旅費の実態を把握して規定そのものを見直すなど、データを活かしたオペレーションを行うことも重要だと考えています。

髙橋 デジタルを活用して余計なプロセスを省いていくことも大切ですね。

長谷 そもそも、Concur Expenseを導入すれば実費データが自動的に入るため、手入力は不要です。日付や金額、支払先などの情報も変更できないため、入力ミスや改ざんを目検する手間も省かれます。また、申請時に規定違反がないかを自動チェックする機能を活用し、分岐の少ないシンプルな業務フローに移行することも可能です。

ただし、データを働かせるには、データを前提とした業務オペレーションの構築が必要です。例えば、目的地までに複数経路がある場合、「最も費用の安い経路で精算する」というルールがあると、その妥当性を確認するためだけに人が介在します。一方、「この金額の範囲なら承認する」というルールなら、デジタルでの審査が可能になります。このように省略可能な業務を見極めつつ、ルールや業務をシンプルにするご支援も行っています。

髙橋 確かに、デジタルツールの導入とルールの見直しはセットですね。ツールから得られたデータをもとにPDCAサイクルを回すことで、より良い行政サービスの提供につなげることも重要な視点だと思います。

AI時代の到来に向けて

── 経費精算システムにも、今後AIの導入が予想されますが、自治体職員の働き方はどう変わっていきますか。

長谷 一番象徴的なのは審査業務です。例えば、会議での飲食代を請求した場合、AIが領収書の情報を自動で読み取り、飲食店のサイトに飛んでその正当性を審査するなど、従来、目検で行っていた審査をAIが代替するようになるでしょう。そのようなAI時代の到来を見据え、よりシンプルな業務フローを設計しておくことが必要です。

髙橋 人手不足が進み、自治体職員の働き方にも変革が求められている時代に、1つの申請に対して複数人が二重三重にチェックをやっているようでは困ります。職員は職員にしかできない本来業務に注力するためにも、コンカーのような専門家をパートナーに、AI時代に向けて今のうちに準備を進めておくことが重要だと思います。

 

お問い合わせ先


株式会社コンカー
E-mail:info_japan@concur.com

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。