企業版ふるさと納税を活用した官民連携で、自治体DXの「自走」を支援

企業版ふるさと納税を活用した官民連携を日本各地で推進するアステリア。寄附だけにとどまらず、モバイルアプリ作成ツール等を活用した自治体のDX支援に注力する。アステリアと共にDXに取り組む秋田県仙北市および熊本県小国町の首長に話を聞いた。

データ連携ミドルウェアやモバイルアプリ作成ツールを開発・提供する東証一部上場のアステリアは、2022年2月、秋田県仙北市と熊本県小国町への5年間にわたる寄附とDX支援による地域貢献が評価され、内閣府の「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」の企業部門を受賞した。

アステリアの取り組みの特徴は、寄附だけにとどまらず、自治体との対話や勉強会を重ねながらパートナーシップを構築し、自治体の抱えるさまざまな地域課題を、自社の強みであるデジタル技術を活用して解決している点だ。

本稿では、寄附先の2つの自治体における取り組みについて、秋田県仙北市の田口知明市長のインタビューと、熊本県小国町の渡邉誠次町長とアステリアの平野洋一郎社長による対談を通して紹介する。

仙北市×アステリア
行政DXや産業振興で幅広く連携

秋田県東部に位置する仙北市は、日本で最も深い湖である田沢湖や温泉、角館の武家屋敷などの観光資源に恵まれるほか、農業も盛んなエリアだ。豊富な地域資源を有する仙北市だが、田口知明市長は「仙北市を船に例えると、船底に3つの穴が空いている状態です。それは少子高齢化、厳しい市の財政状況、基幹産業の衰退です」と語る。

田口 知明 仙北市 市長

「特に少子高齢化は深刻で、仙北市は2005年に角館町・田沢湖町・西木村が合併し発足しましたが、当時約3万2000人だった人口は毎年400人ペースで減少し、現在は2万5000人を切っています。高齢化率は43%に達し、公共交通手段がない過疎エリアで独居する高齢者も少なくありません。DXによって行政サービスやライフラインなどを維持することが大切になっています。また、基幹産業である観光はコロナ禍で大打撃を受けており、農業も人手不足が深刻化しています。DXによる的確な情報発信や効率化が求められています」

こうした中で、仙北市は企業版ふるさと納税対象事業の「桜に彩られたまちづくり計画」に基づき、2016年からアステリアとの連携をスタートした。アステリアからの寄附を桜の保全活動に活用するだけにとどまらず、行政や産業などの幅広い分野でDXによる地域課題解決に取り組んでいる。

例えば観光分野では、市内観光地をドローン等を活用して撮影した動画や、多言語に対応した観光ガイドなどをアステリアの情報共有サービス「Hand book」(ハンドブック)を利用して観光拠点に設置するタブレット等に配信し、観光誘客を推進。2021年には仙北市角館の桜まつりに合わせ、モバイルアプリ作成ツール「Platio」(プラティオ)で開発した「角館の桜まつりアプリ」を期間限定で運用、桜の開花や混雑状況、トイレの衛生管理や消毒液の設置状況などの確認結果を会場スタッフ間でリアルタイムに共有し、3 密回避と感染予防対策の徹底に貢献した。

訪日観光客に「Handbook」の多言語コンテンツを使って観光スポットを案内する農家民宿の宿主

桜の開花状況等を確認できる「角館の桜まつりアプリ」

農業分野では、アステリアによる農業関係者へのIoT勉強会を実施。防災分野では、温泉供給施設でのIoTセンサーを活用した有毒ガス発生検知システムの実証実験を行った。

「企業版ふるさと納税は、寄附ももちろんですが、これをきっかけに企業との関係が深まり連携事業が推進できる点が大変ありがたい制度です。官民連携は、官だけでは不足しがちな発想力やネットワークを補い、民間にとっては地域の実情を的確に把握できビジネスに活かせる機会です。また、民間ならではの過程以上に結果を追求する姿勢も行政の力になります」

豪雪対策アプリを開発
職員のアイデアで地域課題に即応

行政DXに関しては、コロナ禍対策として職員の検温状況を共有するアプリの開発などを実践してきたが、今年1月には、道路の積雪状況をリアルタイムで共有する「道路状況共有アプリ」を導入した。これまで急な積雪等の影響で道路が通行困難になった際には、市内のバス・タクシー事業者から行政へ電話し、電話を受けた職員が除雪担当職員に作業を依頼していた。電話や口頭による情報共有は不正確でタイムロスも発生するという課題があった。そこで「Platio」を活用し、バス・タクシー事業者の運転手と除雪担当者を含む職員が、スマートフォンで道路の積雪状況を共有するアプリを作成した。

「仙北市にとって冬季の除雪は住民の命に関わる重要な業務ですが、市は東京都の約半分の面積を有するほど広く、過疎化が進む中で、いかに効率よくスピーディーに除雪するか、情報をいかに早く共有するかが重要になっています」

注目すべきは、このアプリはプログラミング知識のない仙北市総務部の職員が開発したことだ。地域におけるDX推進ではデジタル人材の不足がネックだが、「Platio」はノーコードでのアプリ作成が可能のため、人材面の課題を乗り越え、地域のDXへの取り組みを自走させることができる。

「昨年からアステリアの支援を受けながら、市役所でのデジタル人材育成や『Platio』を使ったアプリ作成に取り組み、職員でもアプリ作成が可能なことを確認しました。『Platio』のような地域課題に即応できるツールの存在は非常にありがたいですね」

今後のDXに向けた取り組みについて田口市長は次のように話す。「仙北市にとってDXは絶対に取り組まなければいけないテーマです。まずは市役所業務のDXによる効率化を積極的に進めます。また、市民サービスのオンライン対応を充実させたり、市民とのコミュニケーションをDXし、意見や要望を素早く吸い上げる仕組みづくりにも取り組みたいと考えています。高齢者が自ら移動しなくてもサービスや情報を得られる環境づくりを進めていきます」

小国町×アステリア
防災対策にPlatioを活用

九州のほぼ中心に位置する熊本県小国町は、町域の8割が山林という自然豊かなまちだ。アステリアは2015年に小国町と協定を結び、ブランド材「小国杉」の森林保全活動や間伐材の利用促進、林業再生に向けた取り組みへの寄附(毎年100万円)を実施してきた。2017年からは、寄附を事業資金とした事業計画が企業版ふるさと納税の対象事業に認定され、両者の連携は深まり、森林保全のみならず、防災や行政などの幅広い分野でDXやIT活用を進めている。

「地域の困りごとをDXで解決しなければ、町は先細りになります。ただ、人口減少が顕著な小国町は、DXなどの専門知識を持つ職員も少ない状況です。そこで職員とアステリア担当者らで毎月Web会議を行い、ノウハウやネットワークを利用させてもらいながらDXを進めています。DXの目的には業務管理や住民サービス、まちづくりなど色々なケースがありますが、まずは職員の目の前にある課題やニーズをDXで解決しようと取り組みを進めています」と小国町の渡邉誠次町長。

渡邉 誠次 小国町 町長

小国町ではアステリアのモバイルアプリ作成ツール「Platio」による職員の勤怠・検温アプリを庁舎内業務基盤として利用してきたが、2021年8月からは、防災分野で「Platio」で作成した「被災状況報告アプリ」を導入した。電話や紙を使ったアナログな情報把握・共有手段から脱却するために、本アプリでは、写真やスマートフォンの位置情報をもとに災害現場の状況報告、共有、被災状況の記録をワンストップで行う仕組みを構築。災害発生時の対応の迅速化を目指す。

 

小国町の作成した「被災状況報告アプリ」は写真やスマートフォンの位置情報をもとに災害現場の状況報告や対策本部等との情報共有を行える

「小国町は2020年7月の豪雨で甚大な被害を受けました。災害時に、広大な町域からの被害報告を、少ない職員でいかに迅速かつ効率よく集めて対応するかが課題でした。『被災状況報告アプリ』は町職員がアステリアからの指導を受けながら、試行錯誤を繰り返しながら作成しました。その結果、災害発生時に被災地の近隣に住む職員が向かってアプリで被災状況を報告する、庁舎ではなく職員の自宅を起点にした効率のよい体制が構築できました。将来的には、職員だけでなく、消防団や自主防災組織も使える仕組みに発展させたいと考えています」(渡邉町長)

アステリアの平野洋一郎社長は「指導を行ったのは初期だけで、今では職員が次々にアイデアを出しながらアプリを作成しています。このようなDXが“自走”している状態は素晴らしいことだと思います。多くの自治体はDXと言っても、ベンダーにシステム開発を依頼するという形態をとっており、職員自らがアプリを作成し課題解決を進めている小国町はかなり先進的な事例です。これを可能にしているのが『ノーコード』という新しいムーブメントであり、中小規模の自治体がDXを推進する上でのポイントになるでしょう」と語る。

平野 洋一郎 アステリア代表取締役社長

小国町では「被災状況報告アプリ」に続いて、2021年10月の第49回衆議院議員総選挙にあわせて、「Platio」で「投票者数報告アプリ」を作成、電話等に依存していた各投票所からの投票者数の報告をスマートフォンで行えるようにし、県選挙管理委員会への報告業務の効率を大きく改善した。本アプリは町政策課の職員が1日で作成したという。

さらに平野社長は、「小国町のように、地域が広大で職員が少なく、現場業務の負荷が大きい自治体も、モバイル技術やインターネットの発達で『現場のDX』が可能になりつつあります。デジタル化によって仕事の方法を変えていくことがDXの肝であり、小国町の取り組みはその先進的な事例でしょう。大規模自治体はモバイルのような新しいテクノロジーを入れるとき、既存システムと整合性を合わせるハードルが高いですが、一方で小規模自治体は新しいテクノロジーを入れやすい面があります。そういう意味で、フットワークの良い小規模自治体ほどDXで躍進するチャンスがあると感じています」と行政DXの可能性を指摘する。

企業版ふるさと納税と
官民連携のメリット

官民連携の重要性について、渡邉町長は「行政だけで実現できることはほんの一握りで、住民や企業の力があってはじめてスタート地点に立てると思っています。小国町は多数の企業と連携していますが、その中でもアステリアとのDXに関する取り組みは地域への波及効果が大きく、大変ありがたく感じています」と語る。

一方、平野社長は小国町との連携を通じて、2つの大きなメリットを感じているという。

まず、SDGsの推進だ。アステリアは長年に渡り持続的な社会・自然環境の構築に貢献する活動「Asteria Green Activity」を推進しているが、これは地域の自治体との連携なくしては不可能な取り組みであり、また、地域の課題を深く知ることが、事業にSDGsの考えを組み込むための発想につながっているという。

2つ目が、製品のブラッシュアップや販売拡大に向けたヒントを得られることだ。「私達が開発している汎用ソフトウェアは、さまざまなお客様に使用してもらいフィードバックを頂くことがとても大切であり、『そんな使い方もあったのか』と感心してしまうケースもあります。小国町のような少人数で効率よく業務を回すために『Platio』でアプリを開発しているケースは非常にありがたく、学びになっています。災害対策や選挙の投票者数報告といった小国町のアプリ開発は、他の自治体にも横展開できるものであり、当社としては全国1700以上の自治体にも支援を広げていきたいと考えています」

企業版ふるさと納税について渡邉町長は、「企業版ふるさと納税を活用するには、地域再生計画の申請と承認が必須です。小国町ではアステリアに協力を頂いている林業再生等の事業のほか、町出身の北里柴三郎博士に関する事業や、旧西里小学校活用事業などを募集しています。事業ごとにさまざまな企業と想いを共有し連携できることは素晴らしいと思いますし、逆を言えば、『こんなまちにしたい』という自治体の夢や目標をきちんと打ち出せるかが、企業版ふるさと納税の活用のポイントだと思います」と指摘する。

平野社長も「事業計画を自治体と企業の双方で協力して作成するプロセスがとても良いと思います。対話を通して刺激が生まれ新しい発想が出てきますし、実効性や事業継続性を重視する民間企業の視点も自治体の役に立つと思います」と述べる。また、最大で寄附額の約9割の税額控除が受けられることも企業側にとってメリットだ。

アステリアとの連携を通じて、「職員が本当に変わってきたという実感しています」と渡邉町長。「職員が楽しみながらアステリアの皆さんとWeb会議をしていますし、そこから沢山の新しい発想が生まれています。自治体としてはDXの専門的な知見を持ち、職員の育成も支援してくれるアステリアの存在はとてもありがたく、ぜひ末永くお付き合いしたいと思っています」。平野社長も「私達の製品のポテンシャルを引き出し、私達が理想とする『現場主導のDX』を体現して頂いていると感じます。このまま挑戦を続ければ、小国町は日本一DXの進んだ町になれるはずですし、その取り組みをしっかりと支えていきたいと思っています」と語った。

 

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