モバイル空間統計を活用した観光戦略 データ分析で効果ある施策を立案

「いつ」「どんな人が」「どこから」「どこに」動いたかがわかる、「モバイル空間統計」は、リアルタイムの新たな人口統計だ。防災や交通、まちづくり、商圏分析による店舗支援など様々な分野で活用されており、アフターコロナの観光施策立案にも活用できる。

モバイル空間統計では、国内約8200万台(2021年3月時点、法人名義やMVNOを除く)に上るNTTドコモの携帯電話の基地局の運用データをもとに日本の人口を推計している。同様に、訪日外国人の端末約1200万台(2019年実績)のデータも取得し、観光施策や防災計画、プロモーション施策の検討など様々な用途に活用することができる。

変化する人の動きを把握
できる「モバイル空間統計」

「モバイル空間統計では、様々な地点の人出を把握できます。例えば、東京駅周辺のデータを見ると、2020年4月の第1回緊急事態宣言の時期には外出抑制や在宅勤務が増加し、人出が大きく減ったとわかります(図1参照)。一方、観光地の例では愛媛県松山市の道後温泉駅周辺を見ると、第1回緊急事態宣言の時期に人出が減少し、その後はGoToトラベルの時期に回復、今年に入って再び減少しています」。

図1 東京駅周辺と道後温泉駅周辺

モバイル空間統計で把握した、様々な地点の人出の例

出典:ドコモ・インサイトマーケティング

 

ドコモ・インサイトマーケティングの森亮太氏はそのデータについて、こう解説する。また、お盆時期における東京都民の動きを見ると、2019年には関東を中心に甲信越や北海道、東北にも多くの人が移動していたが、2020年にはその状況が大きく変化したことがわかる。

ドコモ・インサイトマーケティングの森 亮太氏

「2020年のお盆は神奈川、千葉、埼玉のような近距離への移動が大半になりました。これはコロナ禍で都民が帰省や旅行を取りやめ、人の動きが抑えられたことを示すと考えられます」。

モバイル空間統計では、人の動きを性別や年代別に把握することもできる。例えば、2019年と2021年のゴールデンウィークに箱根を訪れた人について年代別に見ると、60~70代より10~50代で人の戻りが早かったことが見て取れる(図2参照)。「コロナ禍における人の戻りや訪れる地域の変化は、年代によって異なる可能性があることをこのデータは示唆しています」。

図2 コロナ前後の年代別訪問者数推移

年代別の人口の比較から、年齢層ごとの行動の特徴が把握できた

出典:ドコモ・インサイトマーケティング

 

コロナ後に向けた戦略の
費用対効果を最大化

現在は、行政においてもアフターコロナを見据えた観光施策の検討や実施が課題となっている。その際、人の動きについて性別や年代別、居住地別に把握できれば、強化すべき施策がより明確化される。

「攻めどころが決まれば、全方位的なプロモーションを実施することなく、費用対効果の最大化が図れます。アフターコロナに向けては、まずは現状をしっかり把握することが観光戦略立案の第一歩だと思います」。

観光分野におけるモバイル空間統計の活用は、既に自治体レベルで始まっている。例えば、福島市の福島観光コンベンション協会では、モバイル空間統計を用いて市を訪れる国内観光客に関する分析を行った。その結果、年代別・性別では30代男性が多いとわかり、福島市の訪問者は仙台市も訪れるケースが多いとわかった。

また、長崎市の訪日外国人に関する分析では、韓国から訪れる人が圧倒的多数を占めることがモバイル空間統計のデータからもわかった。それらの人たちは、温泉で有名な大分県の由布市や別府市にも行っていることが多かった。

「旅行者の周遊ルートがわかれば、それに合わせた観光キャンペーンの計画も可能になります。モバイル空間統計は、そのエリアを訪れる人たちの満足度向上や、さらなる周遊を促す施策の検討にも活用できます。他にも、日帰り客が多い地域なら、宿泊客を増やして地域経済への効果を高めるための施策なども検討できると思います」。

携帯電話端末の
サンプルサイズが最大の特長

モバイル空間統計の最大の特長は、NTTドコモの携帯電話契約数である国内約8200万という他に類を見ない大きなサンプルサイズだ。「携帯ネットワークでは、電話やメールなどをいつでもどこでも利用できるように、各基地局エリアごとに所存する携帯電話を把握しており、モバイル空間統計は、携帯電話のつながる仕組みを活用しています。」。

モバイル空間統計は、それらのデータから個人情報を除去し、個人を特定できないよう加工した上で、日本の人口に拡大推計したものだ。訪日外国人の端末では、自国で契約した端末を日本で利用する際のローミングの仕組みを活用している。

「2020年以降のコロナ禍では訪日外国人はほとんどいませんが、2019年には入国者約3200万のうち、ドコモでのローミングは約1200万台でした。全体の3分の1強のサンプルサイズを基に3200万人で拡大推計しており、訪日客の国別の行動様式の把握も可能です」。

また、「モバイル空間統計 人口マップ」を使えば、コロナ禍で日々変化する人の動きをリアルタイムで把握することもできる。その際、時間帯ごとの人の動きや、それらの人が市外や県外から来た人のかといった点も把握し、定点のモニタリングに活用できる。

モバイル空間統計では携帯電話の位置情報がベースになっているため、他社の提供による位置情報を基にしたサービスとは異なる利点がある。まず、他社が提供するサービスの多くは「全地球測位システム(GPS)」による位置情報を用いているが、モバイル空間統計では携帯電話基地局の運用データを活用している。

「GPSデータの多くはアプリを立ち上げた際に取得されますが、アプリによってタイミングや頻度は異なります。このため、GPSによる定期的な位置情報の取得は難しいのが実状です。これに対し、携帯電話基地局の運用データは携帯電話の電源が入っていれば定期的に獲得できるのです」。

さらにモバイル空間統計では、国内8200万という圧倒的に大きいサンプルサイズから、推計の大きなズレは生じにくくなっている。「これらの点は位置情報を活用する上で、大切な要素です。私たちは良質で圧倒的なサンプルに基づくモバイル空間統計という信頼できるデータを活用し、観光をはじめ社会の様々な課題解決に貢献したいと考えています」と森氏は強調した。

 

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