GARDEが描く「空間デザイン×グローバル戦略」

代表取締役社長・室賢治氏

創業40周年を迎えた株式会社GARDE。ラグジュアリーブランドの旗艦店から大型商業施設、ホテル、オフィスまで、国内外で多様な空間を手がけてきた。デザインの美しさだけでなく、事業や街づくりに直結する価値を提供する同社は、空間デザインの概念を拡張し続けている。代表取締役社長・室賢治氏が語るのは「挑戦を文化に変えることで進化し続ける構想」である。

創業の原点と海外への先見性

1985年に創業されたGARDEの原点は、商業施設の設計や改装を手がけていた創業者の経験にある。当時、日本ではデザイナーズブランドが広がりを見せ、やがてラグジュアリーブランドの波が押し寄せていた。しかし、海外ブランドが日本市場に参入する際には、店舗設計や進出戦略を担えるパートナーがほとんど存在しなかった。

GARDEはその隙間を突き、海外ブランドの旗艦店進出を一括でサポートする役割を果たした。ヴェルサーチやバーバリーといったブランドのプロジェクトを通じて信頼を築き、業界内で確固たる地位を確立していった。

当時から同社は「日本市場だけに依存しては成長は持続しない」という視点を持ち、早期に欧米で拠点を開設。人口減少を見据えたグローバル展開は、現在の40年の歴史を支える屋台骨となっている。

現地に根づくことで広がったグローバル展開

転職組として入社した室氏は、香港と上海の拠点立ち上げを担った。ちょうど中国市場が急成長を遂げていた時期であり、大型商業施設や百貨店でのプロジェクトが急増。GARDEは現地で130を超える案件を手がけることになった。

「拠点を"点"として置くだけでは事業は広がらない。現地の協会に参加し、トップ層とのネットワークを築き、社員が地域社会に生活者として溶け込むことで、長期的な信頼関係が生まれる」と室氏は語る。

実際、GARDEは各国のショッピングセンター協会、建築協会などに加盟し、講演やセミナーを通じて認知を広げてきた。現地の経営層に直接プレゼンテーションすることで、数百名規模の聴衆から名刺交換に繋がり、その後の案件へと発展するケースも多い。海外展開を単なる進出に留めず、現地に"根づかせる"戦略こそが同社の拡大を支えてきた。

デザインだけでは終わらない総合力

GARDEの強みは、デザイン力そのものだけではない。プロジェクトの予算管理、スケジュール進行、施工会社やデベロッパーとの調整を一気通貫で担うプロジェクトマネジメント(工程管理や予算・品質管理を含む総合的な進行管理)にある。

数億円規模のプロジェクトでは、予算が膨らめば事業全体が破綻しかねない。室氏は「デザインは事業収益に直結しなければ意味がない」と強調する。クライアントが求めるのは「空間をつくること」ではなく「空間を通じて事業を成功させること」であり、同社はその両立を支える体制を築いている。

加えて、国や企業ごとの文化的背景を理解し、経営者やデベロッパーの視点に立って議論できるコミュニケーション力も不可欠だ。日本人ならではの緻密さと誠実さが評価され、アジア市場では「日本のデザイナーに依頼したい」という声が根強い。欧米では現地大手設計事務所が優勢な中で、アジアでの日本的アプローチが強みとなっている。

人材育成は挑戦の場から生まれる

グローバル化を進める中で、GARDEが重視してきたのが人材育成である。新人はCAD(コンピューター支援設計ソフト)や3Dモデリングなどの技術研修、語学研修を受け、次第に海外案件や大型プロジェクトに参画する。

さらに、年に一度、海外研修を実施し、社員が現地で課題を持ち帰りプレゼンする仕組みを設けている。2023年は約10名が欧州やアジアの拠点を訪問し、現地の市場動向を分析した。こうした経験は、単なるスキルアップに留まらず、社員が自ら考え行動する力を引き出している。

室氏自身も若手時代に香港で営業を任され、現地ネットワークをゼロから開拓した経験を持つ。「挑戦の場を与え、適度なプレッシャーをかけることで人は成長する」と語る通り、失敗を恐れずに挑戦できる文化こそが、組織の成長を支える原動力となっている。

空間デザインが社会に果たす役割

GARDEの仕事は、美しい空間をつくることだけにとどまらない。商業施設では売上や集客増加、オフィスでは生産性向上といった事業成果に直結する。さらに駅前開発や都市再開発においては、街全体の価値を高め、地域経済の活性化に貢献してきた。

室氏は「クライアントの資産価値を最大化することが我々の使命。その結果として地域や社会が豊かになる」と語る。プロジェクトはクライアント企業だけでなく、その先にいる消費者や地域社会を対象としたものであり、空間デザインは社会的な波及効果を持つ事業であることを強調する。

新規事業が切り拓く未来

近年、GARDEは既存事業に加え、新たな挑戦にも取り組んでいる。ひとつは地方創生に向けたメタバース(仮想空間)活用だ。地方の観光資源や文化を仮想空間で体験できる仕組みを構築し、自治体や地域企業と連携しながら事業化を進めている。2023年には「地方創生メタバースアワード」を創設し、星空観測や古墳体験といった地域独自のコンテンツを事業計画とともに募集した。

もうひとつは観光アプリの「タビイコ」開発である。大都市圏に比べ知名度が低い観光地を発掘し、自治体や旅行会社と連携して情報を発信。すでに200を超える自治体が登録し、隠れた観光資源を広く紹介する仕組みを整えている。

さらに、ニューヨーク・チェルシーにコンテンポラリーアートギャラリーを開設し、日本人アーティストの国際進出を支援する取り組みも始まった。ホテルやレジデンスの共用部にアートを導入するプロジェクトを展開し、空間デザインとアートを融合させた新しい事業モデルを模索している。

これらはすべて、既存の空間デザイン事業とのシナジーを意識した取り組みであり、「空間を起点に社会価値を創出する」という同社のビジョンを体現している。

10年後を見据えた組織の進化

「10年先を考えると、お客さんが求めることが非常に多様化し、事業規模も大きくなっている。我々も応えていく事を考えると、今の縦割り組織では限界がある」と室氏は課題を語る。

現在は企画、ブランディング、設計デザイン、施工、施工管理といった部門が独立して機能しているが、これらを横断的に連携させることで、新しい価値提供が可能になる。「ライフスタイルプロデューサーのような、クライアントにとって起爆剤になる新しい事業を提案できるプロデュース会社が理想」だと展望を示す。

海外展開についても、現地に根づいた拠点運営を重視する。「現地で結婚して子どもが生まれ、もう日本に帰ってこないという社員が理想的。そこまで現地に溶け込んでこそ、真の意味でのローカライゼーションが実現する」と語る通り、5年から10年かけて各拠点を現地完結型の組織へと発展させていく方針だ。

挑戦を文化に変えるために

代表取締役社長・室賢治氏
代表取締役社長・室賢治氏

最後に室氏は、経営者に向けて次のように語る。

「新規事業には必ずリスクが伴います。しかし、挑戦を文化として根づかせれば組織は前に進める。若手に自由を与え、経営者が最後に責任を担う。このバランスが組織を強くするのです。」

同社では役員合宿で中期計画を策定する際、全員が新規事業のアイデアを持ち寄り、議論を重ねて事業化を図る。「東京を離れた密な空間で、自由な発想を促すことが重要」だと強調する。

挑戦を促し、挑戦を支える。GARDEが40年間守り続けてきたこの姿勢は、企業が進化を続けるための普遍的な条件である。空間デザインという枠を超え、社会に価値を創出し続ける同社の挑戦は、これからも続いていく。