「楽楽精算」のラクス クラウドにAI実装、機能高度化に注力
経費精算システムの「楽楽精算」などバックオフィス業務の効率化を支援するクラウドサービス(SaaS)の企画・開発・販売を行っているラクス。更なる事業拡大を目指して、クラウドサービスに資源を集中し、M&Aによる製品の拡充、AI実装による機能の高度化を図っていく。
中村 崇則(ラクス 代表取締役)
IT人材やクラウド事業を展開
経理部門支援のCMで有名に
企業の経理部門を舞台にしたテレビCMで知られているラクスだが、2000年の創業時はITエンジニアを育成するスクールを 運営する企業だった。ラクス社長の中村崇則氏にとっては2社目の起業になる。ラクスを立ち上げた際の狙いについては、「当時台頭していたオープンソース・ソフトウェアの技術に可能性を感じていましたが、肝心のエンジニアが不足していました。そこで、意欲のある方を集めてエンジニアを育成しようと考えました」と中村氏は振り返る。
ただし、一定の実績が出ていたものの、その後ほどなくして、ITエンジニアスクール事業からは撤退している。市場規模が小さく、労働集約型であることから成長性が見込めないと判断したのだ。その後ITエンジニアスクール事業の知見を活かしエンジニアの育成や派遣を行うIT人材事業へと転換した。
自社におけるシステム開発の体制が充実した頃、ITの世界ではクラウドコンピューティングが台頭してきた。IT人材事業が順調に成長する一方で、ラクスとしても、成長性の高いクラウドサービスの開発に注力していった。中村氏は「特に規模の小さい会社には、クラウドベースの安価で簡単に使えるバックオフィス支援システムは役立つし、ラクスのビジネスとしても成立するのではと判断しました」と語る。そして2009年には現在の主力製品の1つである経費精算システム「楽楽精算」の販売を開始し、「楽楽クラウド」を本格的に展開。2013年には Web請求書発行システム「楽楽明細」を、2020年には勤怠管理サービス「楽楽勤怠」を発売した。
AI活用した機能を開発する
専門組織を5月に新設
「楽楽クラウド」は、人材不足に悩む中小企業において、高度なIT技術や知識がなくても導入・運用しやすいような、シンプルな操作性と分かりやすいインターフェースが特徴だ。導入から運用まで専任のサポート担当がつき、企業ごとの運用ルールや法律に対応した最適な運用方法を提案する。

楽楽精算は、中小企業の業務効率化と経理担当者の負担軽減を目指して設計されている
製品開発の方向性としては、現場のユーザーの声をもとに進めており、既存製品がカバーする業務領域と関連 する業務の効率化も実現する新製品や新機能の実装が行われている。例えば2025年7月に発売した「楽楽債権管理」は、請求データと入金データの照合・消込作業を効率化する新サービスだ。「これは、楽楽明細で請求書を発行した後に、その請求したものに対して入金状況を確認するサービスです。全く新しいものを開発するというよりは今ある製品の周辺をより掘る形のサービスの開発に注力しています」と中村氏は説明する。
労働人口の減少が継続する日本において、企業の業務効率化は喫緊の課題だ。ラクスでは、既存サービス群をさらに強化すべく、自社サービスへのAI機能の実装を進めている。2025年5月1日には、AIが自律的に業務をこなす「AIエージェント」を活用した機能を開発する専門組織を新設した。
AIを利用した生産性向上の具体的なイメージは、まずは人間が実施している細かい事務作業の代替だ。追加予定の具体的な機能の1つは、企業の社員が経費を精算する際、領収書を撮影し「楽楽精算」のシステム上にアップロードすれば、それが何の経費に当たるかをAIが社内ルールと照らし合わせ判断、申請データを自動作成するというもの。社員の作業はAIによる提案をチェックして申請するのみ。これは年内に付加する予定だという。
また、メールでの問い合わせを管理するシステム「メールディーラー」には、受信メールの内容と人間が入力した「返信文作成の要点」に基づき、AIが適切な返信文を自動作成する機能を既に搭載した。10月からは、蓄積された過去の対応履歴やFAQなどのナレッジをもとに、問い合わせに対して最適な回答をAIが自動生成する機能も追加する。このような経費精算時の申請やメール作成時のサポートなど現場レベルの業務改善を端緒に、各種サービスにおいて、順次AIを活用した機能を搭載、顧客の生産性と自社の競争力を高めていく。
持続的成長に向けクラウド事業に注力
M&Aによる規模拡大を最優先に
現行の中期経営目標(2022年3月期〜2026年3月期)については、「純資産200億円以上」を2025年3月期に達成し、「CAGR(年平均の売上成長率)31〜32%」および「純利益100億円以上」も最終年度での達成を見込んでいる。次期中期経営計画(2027年3月期~29年3月期)では「クラウド事業へと注力する体制に移行を図るとともに、持続的な成長の実現に向け、M&Aを最優先に検討し資源を配分する」ことを明記した。IT人材事業については譲渡する方針も明らかにしている。
「人口が減少していく中で自社の規模を拡大するには、資源の集中とM&Aが必須。私たちが深い知見を持っているクラウドサービス のラインナップを広げることによって、よりたくさんのお客様により多くのソリューションを提供していきたい」と中村氏は述べる。
ラクスは、「ITサービスで企業の成長を継続的に支援する」というミッションと、「日本を代表する企業になる」というビジョンを掲げている。連結ベースの従業員数の規模は3000人を超えた。短期間に急激に成長した企業であるため、マネジメント層が薄く、その強化に注力しているところだという。併せて今後の成長のカギを握るAIの教育コンテンツについても充実を図り、研修を行っていく予定だ。さらに、全国の企業に顧客を拡大するため、2025年6月にはみずほ銀行とビジネスマッチング契約を締結。同行の法人顧客のデジタルトランスメーションを通じてサービスを拡販する。
「優秀な従業員がそろっており、製品の幅も充実してきた。自分たちが作ったよいものを、速やかに社会に届けられるだけの影響力をつくっていくことが今後のテーマ。CMなども活用しながらまずは知ってもらい、国内の企業で働く人すべてに最新のITによる恩恵を広めていきます」と中村氏は今後の展望を語った。
- 中村 崇則 (なかむら・たかのり)
- ラクス 代表取締役